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64話 動揺しながらクリーニング大会
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救急隊の人たちが入ってきて航くんが担架で連れて行かれ、今度こそやることのなくなった私は、もとの担当エリアに戻った。
……一人負傷者が出たくらいで恒例行事である町内クリーニング大会が中止になることはない。
だから私は、ゴミを拾った。
ありがたいことに私に運営上の仕事のお声が掛かることはなく、だから私はひたすらゴミを拾えた。
あまりにも下を見ていて腰が痛くなってきて、ふと空を見上げれば、6月中旬の青く晴れやかな空が広がっている。
まぶしくて眼を細めながら考えたのは、やっぱり航くんのことだった。
航くん、大丈夫かな? でも救急車で病院に運ばれていったんだから、大丈夫と信じるしかない。必要な処置は病院でするだろうし。
そういえば、去年、航くんを助けたのはこの町内クリーニング大会だったんだよな……。
この一年でずいぶん立場が変わったものだ。助けたのが助けられてるし。
本当に変わったのはこの1ヶ月くらいだけど、裏では、一年間ずっと、航くんは私のことを探していた。
いやさすがに一年の時の私が何組かとかくらいすぐに探し当てただろうけど。それで彼は私に話しかけてくるようなことはなく、遠くから見ていた……。
一年前、私はひとりぼっちだったし、それを特に不便にも思わなかった。合唱部をいじめで退部してからは特にどこにも所属しなかったのは、一人の方が気が楽だったからだ。
それが……、今の私ときたらどうだ。
航くんに告白された。そのうえ響くんにまで告白されてる。
二人のイケメンに告白されるとは。
こんな私にそこまでの価値ってあるのか?
なんか、一人選ばなきゃいけないみたいな空気だし……。
ていうか、響くんから告白されてもうろたえなかった私が、航くんからされたらこれだけ動揺しているのだ。
……響くんには悪いけど、これがすべてだと思う。
でも……、響くんの気持ちも大切にしてあげたかった。
響くんが私のことを、真剣に考えてくれているからだ。
私の漢字が書けなかったり、なかなか治らない遅刻癖だったりに、医学的な観点から見る、というフェーズを与えてくれた。それは、私のことを真剣に見ないと達しない領域だったはずだ。
そんな相手を、振らなきゃいけないのか。それって、あまりにも、響くんに対して悪くないか?
でも航くんへの動揺を……、たぶん、これが恋とかいうんだろうけど……、それは、確かにあるんだよな。
どうすりゃいいんだよ……!
とか悩んでいたら、町内クリーニング大会はいつの間にか終わっていた。
◇◇◇
クリーニング大会から帰ってきてクラス会が開かれて、そこで航くんが足を怪我して病院に搬送された旨がクラス担任から説明された。
クラス内がざわついたが――、誰も、その場にいない三人女子の姿と関連づける人はいなかった。
そして、いつも通りの日常が始まる。
――そこに、航くんがいないだけで……。
授業があって、お昼休みがあった。
お昼は、私はジャムパンを買って教室で食べた。航くんがいないのでお弁当はないし、そうなってくるといちいち生徒会室に行くこともないからだ。
三人女子もいないから、身を守る必要もないわけだ。って、別にあの人たちのことなんて、どうとも思ってなかったけどね。
まあ、まさか私に水掛けようだんて実力行使に出るとは思わなかったけど。
……で、放課後に町内クリーニング大会の反省会と題した生徒会会議が開かれ、私も当然出席した。
そこで航くんのことが、ちょろっと説明された。
とはいえ私を助けるために負傷した、と本当のことはいわれず、『詳細は明かせないが、副会長が救急車で運ばれた』としか颯人くんは言わなかった。
生徒会の面々に動揺が走ったが、颯人くんはそれ以上は『調査中だから』と説明してしのいだ。口が硬いことだ。
そして、それ以外には特に事件は起こらなかった、という報告があり、会議はお開きとなった。
――もちろん会議には響くんも出ていたが、私は平静を装った。どうしたらいいか分からず、現状維持を心がけるしかなかった。
そして、私もそそくさと帰ろうとしたのだが。
「美咲、ちょっといいか」
颯人くんに呼び止められたのである。
……一人負傷者が出たくらいで恒例行事である町内クリーニング大会が中止になることはない。
だから私は、ゴミを拾った。
ありがたいことに私に運営上の仕事のお声が掛かることはなく、だから私はひたすらゴミを拾えた。
あまりにも下を見ていて腰が痛くなってきて、ふと空を見上げれば、6月中旬の青く晴れやかな空が広がっている。
まぶしくて眼を細めながら考えたのは、やっぱり航くんのことだった。
航くん、大丈夫かな? でも救急車で病院に運ばれていったんだから、大丈夫と信じるしかない。必要な処置は病院でするだろうし。
そういえば、去年、航くんを助けたのはこの町内クリーニング大会だったんだよな……。
この一年でずいぶん立場が変わったものだ。助けたのが助けられてるし。
本当に変わったのはこの1ヶ月くらいだけど、裏では、一年間ずっと、航くんは私のことを探していた。
いやさすがに一年の時の私が何組かとかくらいすぐに探し当てただろうけど。それで彼は私に話しかけてくるようなことはなく、遠くから見ていた……。
一年前、私はひとりぼっちだったし、それを特に不便にも思わなかった。合唱部をいじめで退部してからは特にどこにも所属しなかったのは、一人の方が気が楽だったからだ。
それが……、今の私ときたらどうだ。
航くんに告白された。そのうえ響くんにまで告白されてる。
二人のイケメンに告白されるとは。
こんな私にそこまでの価値ってあるのか?
なんか、一人選ばなきゃいけないみたいな空気だし……。
ていうか、響くんから告白されてもうろたえなかった私が、航くんからされたらこれだけ動揺しているのだ。
……響くんには悪いけど、これがすべてだと思う。
でも……、響くんの気持ちも大切にしてあげたかった。
響くんが私のことを、真剣に考えてくれているからだ。
私の漢字が書けなかったり、なかなか治らない遅刻癖だったりに、医学的な観点から見る、というフェーズを与えてくれた。それは、私のことを真剣に見ないと達しない領域だったはずだ。
そんな相手を、振らなきゃいけないのか。それって、あまりにも、響くんに対して悪くないか?
でも航くんへの動揺を……、たぶん、これが恋とかいうんだろうけど……、それは、確かにあるんだよな。
どうすりゃいいんだよ……!
とか悩んでいたら、町内クリーニング大会はいつの間にか終わっていた。
◇◇◇
クリーニング大会から帰ってきてクラス会が開かれて、そこで航くんが足を怪我して病院に搬送された旨がクラス担任から説明された。
クラス内がざわついたが――、誰も、その場にいない三人女子の姿と関連づける人はいなかった。
そして、いつも通りの日常が始まる。
――そこに、航くんがいないだけで……。
授業があって、お昼休みがあった。
お昼は、私はジャムパンを買って教室で食べた。航くんがいないのでお弁当はないし、そうなってくるといちいち生徒会室に行くこともないからだ。
三人女子もいないから、身を守る必要もないわけだ。って、別にあの人たちのことなんて、どうとも思ってなかったけどね。
まあ、まさか私に水掛けようだんて実力行使に出るとは思わなかったけど。
……で、放課後に町内クリーニング大会の反省会と題した生徒会会議が開かれ、私も当然出席した。
そこで航くんのことが、ちょろっと説明された。
とはいえ私を助けるために負傷した、と本当のことはいわれず、『詳細は明かせないが、副会長が救急車で運ばれた』としか颯人くんは言わなかった。
生徒会の面々に動揺が走ったが、颯人くんはそれ以上は『調査中だから』と説明してしのいだ。口が硬いことだ。
そして、それ以外には特に事件は起こらなかった、という報告があり、会議はお開きとなった。
――もちろん会議には響くんも出ていたが、私は平静を装った。どうしたらいいか分からず、現状維持を心がけるしかなかった。
そして、私もそそくさと帰ろうとしたのだが。
「美咲、ちょっといいか」
颯人くんに呼び止められたのである。
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