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42話 ポップコーンは甘か塩か
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休日ともなれば県下の人間のほとんどがここに集う――。そんな噂のある超大型商業施設に、私たちはやって来た。
噂通り、かなりの人出である。
ここに来た目的は、超大型商業施設3階の端っこにある映画館だ。いわゆるシネコンというやつで、大小合わせてスクリーン数は9つ。かなりの大型映画館といえる。
私たちはさっそく映画のチケットを買った。
今回の映画は席の半分くらいのチケット売れ行きであり、そんななか私たちは4人並んで席をとった。
肝心の映画だが、アメリカのコミックを実写化したアクション映画で、なんだかやたらと続きが作られている大河スーパーヒーロー物――に連なる人物を主人公としたスピンオフ作品だそうだ。
大河スーパーヒーロー物に連なりはするが直接関係はない新ヒーローを主人公としたドラマシリーズがあって、そのドラマの映画版、ということらしい。ややこしい。
作品の評判をネットで調べてみたら、『一連のシリーズを見ていなくても大丈夫』という意見と、『関連ドラマシリーズ数本と関連映画2本くらいだけでも観ていたらニヤリとするシーンが多数ある』という意見が半々な感じで、別にニヤリとしたいわけでもないので十分楽しめそうな雰囲気であった。
っていうかシリーズ完走しようと思ったら何ヶ月かかるか分かったものではないので、これ一作で楽しみたいところである。
上映時間まで30分ほどあったので、私たちは豪華でラグジュアリーな感じのロビーで時間を潰すことにした。
なにか食べ物を買ってこようということになり、私以外の三人は飲食カウンターに移動、私は荷物監視と席確保のために長椅子に座る。
私はリュックを降ろし、参考書を取り出した。ここで勉強しようと思ったのだ。――が、それはできなかった。
早くもポップコーンを持って帰ってきた航くんが隣に座ったからである。
「キャラメル味だよ。食べて食べて」
と、ポップコーンの入った紙バケットを差し出してくる。
「……こういうのって、映画が始まってから食べるんじゃないの?」
「美味しそうだし、待てないよ」
とポップコーンを摘まんで口に入れる航くん。すぐにその顔がほころんだ。
「ん~、美味しい! やっぱ映画館といったらポップコーンだよね!」
「僕のもどうぞ、先輩」
と、航くんの反対側に座った響くんも、抱えたポップコーンを差し出してくる。
「塩バ味です。甘いのばかりだと飽きますよね」
「……ああ、ありがとう響くん」
お礼がワンテンポ遅れたのは、そんなことより一人で静かに参考書を読ませて欲しいんだけどなぁ……、なんて思ったからである。
「甘い方がいいよね」
と航くんがムッとしたようにずいっとバケットを差し出してきた。
反対側の響くんも負けてはいない。
「塩味もいいですよ」
むーっ、と、私を挟んで男二人が睨み合う。
バチバチと火花が散るのが見えた気がした。
――いや、私挟んでポップコーンの味ごときで喧嘩するなよ……。
「どっちがいい、美咲ちゃん」
「選んで下さい、先輩」
両隣から圧をかけられ、私は参考書を手に持ったままはぁっと息をつく。
「どっちでもいいよ。甘かろうがしょっぱかろうが、ポップコーンは自由に食べるもんだろ」
「そうはいかないよ。ちゃんと意思表示して」
「そうです。ハッキリさせて下さい」
め、面倒くさい。
「なに楽しそうなことしてるの?」
ホットドックと飲み物をもった杏奈ちゃんが私の前に立った。それで、私たちにそれぞれホットドッグと飲み物を渡してくれる。
「シロップとミルクはもう入ってるって」
「ありがとう」
私は参考書をリュックにしまうと、飲み物を受け取った。ちなみに私と響くんはアイスコーヒーで、航くんがオレンジジュース、杏奈ちゃんはアイスティーである。
「……二人がポップコーンの味で討論しはじめてね」
「なるほどー」
にっこり笑って、杏奈ちゃんは響くんの向こう側に座った。それから響くんの紙バケットから塩バター味のポップコーンを一摘まみすると、ぽいっと口に入れる。
「ん、美味しい!」
それから手が伸びてきて、航くんのキャラメル味もひょいと口に入った。
「こっちも美味しい! どっちも美味しいよ」
「そりゃそうだよ。どちらも商品として売られているものなんだから、お金分は美味しくないと困る」
言いながら、私はストローに口を付けた。
――滅茶苦茶甘いアイスコーヒーだったが二口目は薄く、どうやら沈んでいるシロップ部分を先に飲んでしまったのだ、ということに気づいた。
ああ、ちゃんとかき混ぜるんだった。
「まあ、そうだけど」
不服そうに航くんはキャラメルポップコーンを口に入れる。
「でも、俺は甘い方が好きだな」
「僕は塩気があるほうが好きですね」
響くんもポップコーンを食べ始める。
ムシャムシャと己のポップコーンを食べ始めた二人を見て、スマホの時計を確認した。上映まであと20分くらいある。
やっぱり、食べ物買いに行くの早すぎたんじゃないかな?
これで映画上映までポップコーンもつのか……?
噂通り、かなりの人出である。
ここに来た目的は、超大型商業施設3階の端っこにある映画館だ。いわゆるシネコンというやつで、大小合わせてスクリーン数は9つ。かなりの大型映画館といえる。
私たちはさっそく映画のチケットを買った。
今回の映画は席の半分くらいのチケット売れ行きであり、そんななか私たちは4人並んで席をとった。
肝心の映画だが、アメリカのコミックを実写化したアクション映画で、なんだかやたらと続きが作られている大河スーパーヒーロー物――に連なる人物を主人公としたスピンオフ作品だそうだ。
大河スーパーヒーロー物に連なりはするが直接関係はない新ヒーローを主人公としたドラマシリーズがあって、そのドラマの映画版、ということらしい。ややこしい。
作品の評判をネットで調べてみたら、『一連のシリーズを見ていなくても大丈夫』という意見と、『関連ドラマシリーズ数本と関連映画2本くらいだけでも観ていたらニヤリとするシーンが多数ある』という意見が半々な感じで、別にニヤリとしたいわけでもないので十分楽しめそうな雰囲気であった。
っていうかシリーズ完走しようと思ったら何ヶ月かかるか分かったものではないので、これ一作で楽しみたいところである。
上映時間まで30分ほどあったので、私たちは豪華でラグジュアリーな感じのロビーで時間を潰すことにした。
なにか食べ物を買ってこようということになり、私以外の三人は飲食カウンターに移動、私は荷物監視と席確保のために長椅子に座る。
私はリュックを降ろし、参考書を取り出した。ここで勉強しようと思ったのだ。――が、それはできなかった。
早くもポップコーンを持って帰ってきた航くんが隣に座ったからである。
「キャラメル味だよ。食べて食べて」
と、ポップコーンの入った紙バケットを差し出してくる。
「……こういうのって、映画が始まってから食べるんじゃないの?」
「美味しそうだし、待てないよ」
とポップコーンを摘まんで口に入れる航くん。すぐにその顔がほころんだ。
「ん~、美味しい! やっぱ映画館といったらポップコーンだよね!」
「僕のもどうぞ、先輩」
と、航くんの反対側に座った響くんも、抱えたポップコーンを差し出してくる。
「塩バ味です。甘いのばかりだと飽きますよね」
「……ああ、ありがとう響くん」
お礼がワンテンポ遅れたのは、そんなことより一人で静かに参考書を読ませて欲しいんだけどなぁ……、なんて思ったからである。
「甘い方がいいよね」
と航くんがムッとしたようにずいっとバケットを差し出してきた。
反対側の響くんも負けてはいない。
「塩味もいいですよ」
むーっ、と、私を挟んで男二人が睨み合う。
バチバチと火花が散るのが見えた気がした。
――いや、私挟んでポップコーンの味ごときで喧嘩するなよ……。
「どっちがいい、美咲ちゃん」
「選んで下さい、先輩」
両隣から圧をかけられ、私は参考書を手に持ったままはぁっと息をつく。
「どっちでもいいよ。甘かろうがしょっぱかろうが、ポップコーンは自由に食べるもんだろ」
「そうはいかないよ。ちゃんと意思表示して」
「そうです。ハッキリさせて下さい」
め、面倒くさい。
「なに楽しそうなことしてるの?」
ホットドックと飲み物をもった杏奈ちゃんが私の前に立った。それで、私たちにそれぞれホットドッグと飲み物を渡してくれる。
「シロップとミルクはもう入ってるって」
「ありがとう」
私は参考書をリュックにしまうと、飲み物を受け取った。ちなみに私と響くんはアイスコーヒーで、航くんがオレンジジュース、杏奈ちゃんはアイスティーである。
「……二人がポップコーンの味で討論しはじめてね」
「なるほどー」
にっこり笑って、杏奈ちゃんは響くんの向こう側に座った。それから響くんの紙バケットから塩バター味のポップコーンを一摘まみすると、ぽいっと口に入れる。
「ん、美味しい!」
それから手が伸びてきて、航くんのキャラメル味もひょいと口に入った。
「こっちも美味しい! どっちも美味しいよ」
「そりゃそうだよ。どちらも商品として売られているものなんだから、お金分は美味しくないと困る」
言いながら、私はストローに口を付けた。
――滅茶苦茶甘いアイスコーヒーだったが二口目は薄く、どうやら沈んでいるシロップ部分を先に飲んでしまったのだ、ということに気づいた。
ああ、ちゃんとかき混ぜるんだった。
「まあ、そうだけど」
不服そうに航くんはキャラメルポップコーンを口に入れる。
「でも、俺は甘い方が好きだな」
「僕は塩気があるほうが好きですね」
響くんもポップコーンを食べ始める。
ムシャムシャと己のポップコーンを食べ始めた二人を見て、スマホの時計を確認した。上映まであと20分くらいある。
やっぱり、食べ物買いに行くの早すぎたんじゃないかな?
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