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35話 ボランティア精神と規則

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 町内クリーニング大会はクラスや部活ごとに町内にエリアを受け持って、各クラスや部活内でもいくつかの班に分かれてゴミを拾うという、かなり大がかりなボランティアイベントである。
 大がかりなイベント――ということは準備も大変なわけで、私たちはさっそく今年度の計画書を作ろう! ということになった。
 そのためには去年の計画書を確認する必要があり、各自にコピーされた去年・・の計画書が配られた。

 けっ、紙の無駄だ、こんなの。回し読みしたって大して効率は変わらないだろ。それをわざわざコピー配布だなんて手間をかけるとは、ご苦労なことだ。
 なんて心のなかで悪態をつきながらパッパと計画書を見ていたら、おかしな事に気がついた。
 生徒会執行部メンバーのそれぞれの役割分担があって、去年のメンバーたちの名前があるのだが、そこに――庶務であったはずの、式根航の名前がなかったのだ。ちなみに二木颯人の名は会計にあった。あいつも去年生徒会入ってたのか……。

「美咲ちゃん、どれにする?」

 隣に座った航くんが肩を寄せてくる。……近い。私は彼から遠のきながら、一度全部目を通した書類にもう一度表紙から目を通し始めた。

「そうだな、楽なやつがいいな」

「一緒のところにしよ」

「は? ゴミ拾いくらい一人でしろよ、高校生だろうが」

「俺たちの仕事はゴミ拾いじゃなくて、ゴミ拾いをする人たちのサポートだよ。それにほら、去年も二人一緒に一つの受け持ちをしてる人たちがいるよ」

 と自分の書類を指し示す航くん。
 彼の栗色の髪がさらさらとしているのが目と鼻の先で見える。

 っていうか、今思いだした。
 そうだこいつ、去年はあの女子三人に絡まれてたんだった。そこを私が助けて……。だから生徒会として現場を仕切ってたわけじゃないんだ。
 ……航くんっていつ生徒会に入ったんだろ? そもそもなんで生徒会になんか入ったんだ?

「残念ながら式根、副会長は俺と一緒に本部に居残りだ。生徒会長と副会長は、クリーニング大会中は本部に待機……ってのが決まりだからな」

「えー……」

 心底嫌そうな顔で航くんが抗議する。

「俺、美咲ちゃんと一緒に見回れるの楽しみにしてたのに」

「別に航くんと一緒にいたいわけではないが」

 と前置きしておいて、私は颯人くんに冷静に口を開いた。

「本人が希望してるんだから、杓子定規にルールを守る必要もないだろ? せっかくやる気見せてるんだから汲んでやれよ」

「これは学校の行事だ。規律はきちんと守らないといかん」

「町内クリーニング大会ってボランティア活動だろ。ボランティアなら個人の意志を大事にすべきなんじゃないの?」

「一般生徒はボランティアだが、俺たち生徒会執行部にとってこれは仕事だ。俺たちが規律をきっちり守るからこそ、一般生徒たちがある程度自由にやれるんだよ」

「なにが一般生徒だよ。生徒会だって一般生徒の集まりだろ。そこに線引きは必要ない」

「線は引くさ、物事を滞りなく進ませるための知恵としてな」

「わ、分かった、分かったよ」

 航くんが慌てた様子で口を挟んできた。

「我が儘言った俺が悪かった、俺も本部に残る。美咲ちゃんとは別の機会に一緒になるよ」

「おい、いいのか? こんな古くさい頑固頭の言うことなんか聞く必要ないぞ」

「必要あるよ、生徒会長なんだし……」

 それから彼は、少し目元を緩ませた。

「でも嬉しかった、美咲ちゃんも俺と一緒にいたいって思ってくれて……」

「別にあんたと一緒にいたいわけではないって断っただろ。私はただ、上から決めつけられるのが嫌いなだけだ」

 ほんと、こういう決めつけって嫌いなんだよな。
 特に今回なんて航くんがやる気見せてるんだから、それを承認するのが上の役目だろうによ。なんで相手が『生徒会長』で、これが『規則』だからって従わななけりゃいけないんだ。だいたい本部に留守番なんて一人で事足りるんじゃないの?

 規則に異を唱えるだけで、それが我が儘だなんて、そんなのおかしいだろ。




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