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31話 名前で呼ばせて
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「生徒会に関することってのは、私を生徒会庶務にすること……で相違ないな?」
確認すると、式根くんはこくんと頷いた。
「そうだよ。……怖がらせてごめんね、大東さん。怖っ……ていうか、闘争心に火を付けちゃったっていうか……? でも怖がらせたことに変わりはないし……獅子心王がどうとか……あ、リチャード一世は覚えたよ。イングランドのプラ……ナントカ朝の王……とかなんとか……」
「プランタジネット朝な。とりあえず忘れてくれ。頭が変な方向に覚醒してたんだ」
私は顔をしかめた。なんでこう、式根くんは恥ずかしいことを覚えているんだ。
「いや、さすがだなって思ったよ。よく勉強してるなーって」
「そんなことはどうでもいい。私たち二人の問題ってなんだよ?」
話を向けると、彼はハッとしたように胸に手を置いた。
「うわ、なんか大東さんからそう言われると、すごいドキッとする」
「言い出したのはあんただろうが」
「そうだね……。あのね、俺たちは、ちゃんと向き合うべきだと思うんだ」
と改まって私を見つめる式根くん。
お、なんだ。告白でもしてくる気か?
私たち二人の問題って、つまりはそういうこと……だよな?
「俺ね、会長が……」
ん? 実は颯人くんが好きとか、そういう展開か? 思い切った路線だな。
「羨ましくて羨ましくて仕方なくて」
「は?」
「君と会長が名前で呼び合うのが、凄く羨ましいんだ」
彼は前を向くと、頬を染めた。それでも顔は真剣で、少し眉をひそめている。
「俺が先に弟子になったのに、会長の方が仲よさげなんて、そんなのズルくない?」
「颯人くんは弟子じゃないし、人生単位で考えれば先に知り合ってる。何せ幼稚園時代だ」
「……そういうことじゃなくてさ」
そこで式根くんは私に、そのくりっとした瞳を向けてきた。
「俺も名前で呼んでいい?」
「一応師匠なんだろ、私? 師匠のこと名前で呼ぶのってどうなんだよ」
「えっと、名前で呼ばれるの、嫌なの?」
「どっちでもいいよ。好きに呼ぶといい。ただ一応師匠なんじゃないのか?」
「師匠でも名前で呼んでいいよね?」
前のめりになって詰め寄ってくる彼に、私は思わず身を仰け反らせた。
「分かった分かった、どっちでもいいって言っただろ。好きに呼べよ」
私の言葉に、彼の顔が一瞬でパッと輝いた。
「じゃあ、美咲ちゃんで!」
「『ちゃん』は付けるんだな。颯人くんに張り合ってるから呼び捨てかと思った」
「さすがに呼び捨ては……」
にへら、という感じで相貌を崩す式根くん。
「それにほら、やっぱり……うん。会長と同じっていうのも、なんか引っかかるし」
そこはなにか拘りがあるらしい。
「まあ好きに呼べよ……としか言えないな、私は」
呼び捨てだろうが『ちゃん』付けだろうが、ミッちゃんだろうがミサちゃんがだろうがミサキチだろうが眼鏡だろうが……呼ばれ方はなんでもいい。あ、でも眼鏡っていうのはちょっと嫌かな?
「じゃあさ、美咲ちゃんも俺のこと名前で呼んでよ」
「式根くんを? まあ、そうだな」
相手が名前で呼んできているのだから、私も名前で呼ぶのが筋というものか……。
ええと、式根くんのフルネームは……と彼の胸のネームプレートを確認する。『式根航』だ。
「じゃあ航くん、でいいかな?」
「うん!」
それはそれは嬉しそうに式根くん……いや航くんは笑った。それはもう、弾けるような笑顔で。
「よっしゃ、これで二つの問題、クリアだね!」
航くんは手に持った二つの弁当箱ごと腕を上にあげると、気持ちよさそうに伸びをした。
「よかったー! これで会長にも負けないぞ!」
「勝ち負けの問題なのか……?」
「そうだよ! 俺も必死なんだよ。会長に君をかっ攫われないようにしないといけないんだから」
「かっ攫う? 私があいつにどうかっ攫われるっていうんだよ。断固拒否するわ」
そんなの願い下げだ。理由は簡単、ムカつくから。
私と颯人くんの場合は単純明快で、勝ち負けの問題なのである。
「ていうか逆に私がかっ攫ってやる。それならいいぞ、あいつに吠え面かかせてやる」
「う……、鼻っ柱つっよぉ……。しかも美咲ちゃんのことだからやりそうなのが怖い……」
さっそく私のことを美咲ちゃんと呼びながら苦笑する彼は、それからぽつりと呟いた。
「やっぱりフォワードに合うなぁ、その性格。エースストライカーとして活躍する姿が目に浮かぶよ」
彼のサッカー話に、私はなにも反応しなかった。
また、泣かせたくなかったから。
でもひとつだけ言いたい。だから私は根っからの文系人間なんだってば、航くん。
確認すると、式根くんはこくんと頷いた。
「そうだよ。……怖がらせてごめんね、大東さん。怖っ……ていうか、闘争心に火を付けちゃったっていうか……? でも怖がらせたことに変わりはないし……獅子心王がどうとか……あ、リチャード一世は覚えたよ。イングランドのプラ……ナントカ朝の王……とかなんとか……」
「プランタジネット朝な。とりあえず忘れてくれ。頭が変な方向に覚醒してたんだ」
私は顔をしかめた。なんでこう、式根くんは恥ずかしいことを覚えているんだ。
「いや、さすがだなって思ったよ。よく勉強してるなーって」
「そんなことはどうでもいい。私たち二人の問題ってなんだよ?」
話を向けると、彼はハッとしたように胸に手を置いた。
「うわ、なんか大東さんからそう言われると、すごいドキッとする」
「言い出したのはあんただろうが」
「そうだね……。あのね、俺たちは、ちゃんと向き合うべきだと思うんだ」
と改まって私を見つめる式根くん。
お、なんだ。告白でもしてくる気か?
私たち二人の問題って、つまりはそういうこと……だよな?
「俺ね、会長が……」
ん? 実は颯人くんが好きとか、そういう展開か? 思い切った路線だな。
「羨ましくて羨ましくて仕方なくて」
「は?」
「君と会長が名前で呼び合うのが、凄く羨ましいんだ」
彼は前を向くと、頬を染めた。それでも顔は真剣で、少し眉をひそめている。
「俺が先に弟子になったのに、会長の方が仲よさげなんて、そんなのズルくない?」
「颯人くんは弟子じゃないし、人生単位で考えれば先に知り合ってる。何せ幼稚園時代だ」
「……そういうことじゃなくてさ」
そこで式根くんは私に、そのくりっとした瞳を向けてきた。
「俺も名前で呼んでいい?」
「一応師匠なんだろ、私? 師匠のこと名前で呼ぶのってどうなんだよ」
「えっと、名前で呼ばれるの、嫌なの?」
「どっちでもいいよ。好きに呼ぶといい。ただ一応師匠なんじゃないのか?」
「師匠でも名前で呼んでいいよね?」
前のめりになって詰め寄ってくる彼に、私は思わず身を仰け反らせた。
「分かった分かった、どっちでもいいって言っただろ。好きに呼べよ」
私の言葉に、彼の顔が一瞬でパッと輝いた。
「じゃあ、美咲ちゃんで!」
「『ちゃん』は付けるんだな。颯人くんに張り合ってるから呼び捨てかと思った」
「さすがに呼び捨ては……」
にへら、という感じで相貌を崩す式根くん。
「それにほら、やっぱり……うん。会長と同じっていうのも、なんか引っかかるし」
そこはなにか拘りがあるらしい。
「まあ好きに呼べよ……としか言えないな、私は」
呼び捨てだろうが『ちゃん』付けだろうが、ミッちゃんだろうがミサちゃんがだろうがミサキチだろうが眼鏡だろうが……呼ばれ方はなんでもいい。あ、でも眼鏡っていうのはちょっと嫌かな?
「じゃあさ、美咲ちゃんも俺のこと名前で呼んでよ」
「式根くんを? まあ、そうだな」
相手が名前で呼んできているのだから、私も名前で呼ぶのが筋というものか……。
ええと、式根くんのフルネームは……と彼の胸のネームプレートを確認する。『式根航』だ。
「じゃあ航くん、でいいかな?」
「うん!」
それはそれは嬉しそうに式根くん……いや航くんは笑った。それはもう、弾けるような笑顔で。
「よっしゃ、これで二つの問題、クリアだね!」
航くんは手に持った二つの弁当箱ごと腕を上にあげると、気持ちよさそうに伸びをした。
「よかったー! これで会長にも負けないぞ!」
「勝ち負けの問題なのか……?」
「そうだよ! 俺も必死なんだよ。会長に君をかっ攫われないようにしないといけないんだから」
「かっ攫う? 私があいつにどうかっ攫われるっていうんだよ。断固拒否するわ」
そんなの願い下げだ。理由は簡単、ムカつくから。
私と颯人くんの場合は単純明快で、勝ち負けの問題なのである。
「ていうか逆に私がかっ攫ってやる。それならいいぞ、あいつに吠え面かかせてやる」
「う……、鼻っ柱つっよぉ……。しかも美咲ちゃんのことだからやりそうなのが怖い……」
さっそく私のことを美咲ちゃんと呼びながら苦笑する彼は、それからぽつりと呟いた。
「やっぱりフォワードに合うなぁ、その性格。エースストライカーとして活躍する姿が目に浮かぶよ」
彼のサッカー話に、私はなにも反応しなかった。
また、泣かせたくなかったから。
でもひとつだけ言いたい。だから私は根っからの文系人間なんだってば、航くん。
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