28 / 71
28話 運動部か庶務か
しおりを挟む
「あのね? 選んで欲しかったのは、運動部に入るか、生徒会の庶務になるかのどっちか。選ぶまではこの部屋からは出さない……っていう覚悟……なんだけど……」
言葉の最後の方が小さくて尻つぼみになっていてよく聞こえなかった。
式根くんはばっと顔の前で手を合わせ、真っ赤な顔で私を拝んできた。
「ほんとごめん! 俺の配慮が足りなかった。そうだよね、こんなことされたら女子なら怖いよね……怖っ……ってはないみたいだけど……大東さんの場合……」
上目遣いで私を見上げる彼に、私は眉根を寄せた。
「あんた、本気かそれ」
「うっ、ごめん! 怖いよね、当然だよね。俺、また失言した……!」
「いや、そうじゃなくて。その、私に選ばせようとしてるやつ」
彼は手を下ろすと、くりっとした瞳をほとんど泣きそうに潤ませて私を見上げる。
「……そうだよ。大東さんに選んで欲しいんだ。運動部か庶務か」
「……」
私は、しばらく無言で彼を見下ろしていた。
ほんと、何考えてんだ、こいつ?
私のこと閉じ込めて迫ることが、それなのか? っていうか人のことこんなふうに閉じ込めていいと思ってんのか? それで選ばせるだと? まあどうせ昼休み終わったら出られるんだろうけど。……出られるよね?
しかも選ばせる内容が、運動部か生徒会の庶務か、だって?
私は混乱する頭を少しでも落ち着けようと、指先で軽く額を撫でた。
「私は人に強制されることがこの世で一番大っ嫌いなんだが、一応聞いといてやる」
立ったまま、私はくっと顎を引いた。
「なんなんだ、その二択。私にその二つから一つを選ばせる理由を言え」
「ええとね、まず生徒会庶務は、ずっと一緒にいたいから、だよ」
どストレートに彼は言った。……いや、理由を言えっていったのは私だから文句はいえないが。
かなりドキドキするような台詞ではあるのだが、今の私はとくにドキドキしなかった。状況が状況だからだろう。
彼は懇願するように続ける。
「活動時間一緒にいられるし、下校だって一緒に帰れる。そうしたら、君のことをずっと守れる」
「私を守る、だと?」
「……俺が一緒にいれば、少なくともあの女子たちは、君に近づいてこないでしょ?」
ああ、そういうことか。つまり、私を虐めてきているあの例の三人女子を、式根くんは式根くんなりに警戒しているのだ。
私はふっと笑ってみせる。微笑みではない、あざけりだ。
「永遠に一緒にいられるわけでもないのに、簡単にそんなこと言うなよ。女子だけの行事とかあるだろうが。まさか女装でもして常に私の側にはべるつもりか?」
「うっ、それは……」
「それで? 運動部ってのはなんだ?」
「君には運動が必要だよ」
真面目な顔になって、式根くんはそう言った。
「君の生活サイクル――ちょっとだけど見てみてね、分かったんだ。大東さんは、運動しなさすぎる」
「ほっとけ、私は文系人間なんだよ」
「夜ベッドに入ってから3時間も寝れないなんて、ちょっと考えられない。ここはね、運動の力を借りるのが一番いいと思うんだ。昼にヘトヘトになるまで追い込んで、夜はただ寝るだけって状態にすれば、きっとすぐに寝れるようになる」
「やめてくれ。私にそんな根性ない」
「そんなことないよ、大東さんはかなり根性ある。鼻っ柱も強いし努力家だし、フォワード向いてると思う」
フォワード? 一拍遅れて、ああサッカーの話か、と思い至る。フォワードは、確か攻撃する役目の選手のことだ。
「筋肉付けて体作ったら、ワントップもいける選手になれるよ」
「ワントップ……?」
「一人で点取りに行くポジションのことだよ。君は君らしく強気にいってディフェンダーに次々に競り勝ってさ、ゴールを決めるんだ。それで仲間に祝福されながらスタンドの俺を探して。静かに親指立てて俺に合図するんだよ――それを見つけた俺は大声で君の名前を呼ぶんだ。そういうの、正直、すっげぇ憧れる」
おお、なんか式根くんの目がキラキラしてるぞ。式根くん、サッカーでもやってるのかな?
でも生徒会に所属してるってことはサッカー部には入っていないってことだから……、日曜日に地元のサッカークラブに行ってるとかなのかな?
言葉の最後の方が小さくて尻つぼみになっていてよく聞こえなかった。
式根くんはばっと顔の前で手を合わせ、真っ赤な顔で私を拝んできた。
「ほんとごめん! 俺の配慮が足りなかった。そうだよね、こんなことされたら女子なら怖いよね……怖っ……ってはないみたいだけど……大東さんの場合……」
上目遣いで私を見上げる彼に、私は眉根を寄せた。
「あんた、本気かそれ」
「うっ、ごめん! 怖いよね、当然だよね。俺、また失言した……!」
「いや、そうじゃなくて。その、私に選ばせようとしてるやつ」
彼は手を下ろすと、くりっとした瞳をほとんど泣きそうに潤ませて私を見上げる。
「……そうだよ。大東さんに選んで欲しいんだ。運動部か庶務か」
「……」
私は、しばらく無言で彼を見下ろしていた。
ほんと、何考えてんだ、こいつ?
私のこと閉じ込めて迫ることが、それなのか? っていうか人のことこんなふうに閉じ込めていいと思ってんのか? それで選ばせるだと? まあどうせ昼休み終わったら出られるんだろうけど。……出られるよね?
しかも選ばせる内容が、運動部か生徒会の庶務か、だって?
私は混乱する頭を少しでも落ち着けようと、指先で軽く額を撫でた。
「私は人に強制されることがこの世で一番大っ嫌いなんだが、一応聞いといてやる」
立ったまま、私はくっと顎を引いた。
「なんなんだ、その二択。私にその二つから一つを選ばせる理由を言え」
「ええとね、まず生徒会庶務は、ずっと一緒にいたいから、だよ」
どストレートに彼は言った。……いや、理由を言えっていったのは私だから文句はいえないが。
かなりドキドキするような台詞ではあるのだが、今の私はとくにドキドキしなかった。状況が状況だからだろう。
彼は懇願するように続ける。
「活動時間一緒にいられるし、下校だって一緒に帰れる。そうしたら、君のことをずっと守れる」
「私を守る、だと?」
「……俺が一緒にいれば、少なくともあの女子たちは、君に近づいてこないでしょ?」
ああ、そういうことか。つまり、私を虐めてきているあの例の三人女子を、式根くんは式根くんなりに警戒しているのだ。
私はふっと笑ってみせる。微笑みではない、あざけりだ。
「永遠に一緒にいられるわけでもないのに、簡単にそんなこと言うなよ。女子だけの行事とかあるだろうが。まさか女装でもして常に私の側にはべるつもりか?」
「うっ、それは……」
「それで? 運動部ってのはなんだ?」
「君には運動が必要だよ」
真面目な顔になって、式根くんはそう言った。
「君の生活サイクル――ちょっとだけど見てみてね、分かったんだ。大東さんは、運動しなさすぎる」
「ほっとけ、私は文系人間なんだよ」
「夜ベッドに入ってから3時間も寝れないなんて、ちょっと考えられない。ここはね、運動の力を借りるのが一番いいと思うんだ。昼にヘトヘトになるまで追い込んで、夜はただ寝るだけって状態にすれば、きっとすぐに寝れるようになる」
「やめてくれ。私にそんな根性ない」
「そんなことないよ、大東さんはかなり根性ある。鼻っ柱も強いし努力家だし、フォワード向いてると思う」
フォワード? 一拍遅れて、ああサッカーの話か、と思い至る。フォワードは、確か攻撃する役目の選手のことだ。
「筋肉付けて体作ったら、ワントップもいける選手になれるよ」
「ワントップ……?」
「一人で点取りに行くポジションのことだよ。君は君らしく強気にいってディフェンダーに次々に競り勝ってさ、ゴールを決めるんだ。それで仲間に祝福されながらスタンドの俺を探して。静かに親指立てて俺に合図するんだよ――それを見つけた俺は大声で君の名前を呼ぶんだ。そういうの、正直、すっげぇ憧れる」
おお、なんか式根くんの目がキラキラしてるぞ。式根くん、サッカーでもやってるのかな?
でも生徒会に所属してるってことはサッカー部には入っていないってことだから……、日曜日に地元のサッカークラブに行ってるとかなのかな?
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
ゴーホーム部!
野崎 零
青春
決められた時間に行動するのが嫌なため部活動には所属していない 運動、勉強共に普通、顔はイケメンではない 井上秋と元テニス部の杉田宗が放課後という時間にさまざまなことに首を突っ込む青春ストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる