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28話 運動部か庶務か

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「あのね? 選んで欲しかったのは、運動部に入るか、生徒会の庶務になるかのどっちか。選ぶまではこの部屋からは出さない……っていう覚悟……なんだけど……」

 言葉の最後の方が小さくて尻つぼみになっていてよく聞こえなかった。

 式根くんはばっと顔の前で手を合わせ、真っ赤な顔で私を拝んできた。

「ほんとごめん! 俺の配慮が足りなかった。そうだよね、こんなことされたら女子なら怖いよね……怖っ……ってはないみたいだけど……大東さんの場合……」

 上目遣いで私を見上げる彼に、私は眉根を寄せた。

「あんた、本気かそれ」

「うっ、ごめん! 怖いよね、当然だよね。俺、また失言した……!」

「いや、そうじゃなくて。その、私に選ばせようとしてるやつ」

 彼は手を下ろすと、くりっとした瞳をほとんど泣きそうに潤ませて私を見上げる。

「……そうだよ。大東さんに選んで欲しいんだ。運動部か庶務か」

「……」

 私は、しばらく無言で彼を見下ろしていた。

 ほんと、何考えてんだ、こいつ?

 私のこと閉じ込めて迫ることが、それなのか? っていうか人のことこんなふうに閉じ込めていいと思ってんのか? それで選ばせるだと? まあどうせ昼休み終わったら出られるんだろうけど。……出られるよね?

 しかも選ばせる内容が、運動部か生徒会の庶務か、だって?

 私は混乱する頭を少しでも落ち着けようと、指先で軽く額を撫でた。

「私は人に強制されることがこの世で一番大っ嫌いなんだが、一応聞いといてやる」

 立ったまま、私はくっと顎を引いた。

「なんなんだ、その二択。私にその二つから一つを選ばせる理由を言え」

「ええとね、まず生徒会庶務は、ずっと一緒にいたいから、だよ」

 どストレートに彼は言った。……いや、理由を言えっていったのは私だから文句はいえないが。
 かなりドキドキするような台詞ではあるのだが、今の私はとくにドキドキしなかった。状況が状況だからだろう。

 彼は懇願するように続ける。

「活動時間一緒にいられるし、下校だって一緒に帰れる。そうしたら、君のことをずっと守れる」

「私を守る、だと?」

「……俺が一緒にいれば、少なくともあの女子たちは、君に近づいてこないでしょ?」

 ああ、そういうことか。つまり、私を虐めてきているあの例の三人女子を、式根くんは式根くんなりに警戒しているのだ。
 私はふっと笑ってみせる。微笑みではない、あざけりだ。

「永遠に一緒にいられるわけでもないのに、簡単にそんなこと言うなよ。女子だけの行事とかあるだろうが。まさか女装でもして常に私の側にはべるつもりか?」

「うっ、それは……」

「それで? 運動部ってのはなんだ?」

「君には運動が必要だよ」

 真面目な顔になって、式根くんはそう言った。

「君の生活サイクル――ちょっとだけど見てみてね、分かったんだ。大東さんは、運動しなさすぎる」

「ほっとけ、私は文系人間なんだよ」

「夜ベッドに入ってから3時間も寝れないなんて、ちょっと考えられない。ここはね、運動の力を借りるのが一番いいと思うんだ。昼にヘトヘトになるまで追い込んで、夜はただ寝るだけって状態にすれば、きっとすぐに寝れるようになる」

「やめてくれ。私にそんな根性ない」

「そんなことないよ、大東さんはかなり根性ある。鼻っ柱も強いし努力家だし、フォワード向いてると思う」

 フォワード? 一拍遅れて、ああサッカーの話か、と思い至る。フォワードは、確か攻撃する役目の選手のことだ。

「筋肉付けて体作ったら、ワントップもいける選手になれるよ」

「ワントップ……?」

「一人で点取りに行くポジションのことだよ。君は君らしく強気にいってディフェンダーに次々に競り勝ってさ、ゴールを決めるんだ。それで仲間に祝福されながらスタンドの俺を探して。静かに親指立てて俺に合図するんだよ――それを見つけた俺は大声で君の名前を呼ぶんだ。そういうの、正直、すっげぇ憧れる」

 おお、なんか式根くんの目がキラキラしてるぞ。式根くん、サッカーでもやってるのかな?
 でも生徒会に所属してるってことはサッカー部には入っていないってことだから……、日曜日に地元のサッカークラブに行ってるとかなのかな?



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