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27話 目覚める心の獅子心王

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 生徒会室につくと、すでに颯人くんがいてお弁当を食べていた。

「来たか……」

 彼はそう言って弁当途中でソファーから立ち上がり、そっと式根くんの肩に手を置いた。

「まあ、うまくやれよ」

「うん」

 私たちは中央のソファーセットに移動するが、颯人くんは逆にドアに歩いて行く。

 なんだ?

 と不思議がりながら、私はソファーに座って――。

 カチリ、と。鍵が掛けられる音がしてそちらを見ると、颯人くんがドアの前に立ち、鍵をかけたところだった。

 目が合うと、颯人くんは肩をすくめてみせる。

「……俺は何もしない。二人でよろしくやってくれ」

「はッ!?」

 声が裏返り、全身の血の気がサーッと下がった。
 と、閉じ込められた!?

 しかも颯人くんの今の言葉――『二人でよろしくやってくれ』?

 慌てて横に座った式根くんを見ると、少しすまなそうな顔をした彼が、それでも真剣な眼差しで私を見つめていた。

「ごめんね大東さん、こんなだまし討ちみたいなことして」

 冷や汗がどばっと背中に吹き出した。
 奥歯を噛みしめながら、自分の浅はかさを悔いる。

 やっぱり、男子二人と密室はヤバいか……! 式根くんいい人だけど、図体でかいし、力じゃかなわないし……。ちょっと心を許しすぎた。

 昨日のはブラフだったのだろう。生徒会室に一回連れてきて、何もしない、と安心させるための。
 そんな手の込んだことをして……もうちょっと別の所に頭を使えよな。

 でもこうなってしまったからには順応しよう。後悔するのは今じゃない、今はどうすればいいかを考えるんだ。

「……だまし討ち、ね。思えば昨日もだまし討ちみたいなもんだったな。いきなり生徒会室に連れ込まれるわ、颯人くんはくるわ。お弁当は美味しかったけどな」

 喋りながら、私は必死に考えを巡らせていた。

 ここで声をあげても誰も助けには来てくれないだろう。生徒会室は学校でも人気のない場所にあるからだ。
 ここから逃げるには、とりあえずドアの前の颯人くんをなんとかしないといけない……。殴ったり蹴ったりの荒事なんて、私にできるか? いやしなければ。
 その前にこのデカい奴をかいくぐってドアの前まで行かないとな。どうする? やっぱり後ろにダッシュするか? くそっ、護身術でも習っとけばよかったな……。根っからの文系な自分が恨めしい。

 いや、窓から逃げるか? と窓を目の端で確認したら、閉まっていた。まずは窓の鍵を開けて、スライドをずらして――という手間がかかるが、颯人くんを力仕事でなんとかするよりは可能性が見える。
 ここは二階だけど、二階くらいなら飛び降りても軽傷で済むだろうし。

 ……ははは、なんか楽しくなってきたぞ。どうしてくれようか、この私をハメやがって! 証拠とかとっておいたほうがいいだろうな、でもスマホの録音アプリを起動する暇はなさそうだ。もうぶっつけ本番でやるしかない。

「……大東さん、選んで。選ぶまでは、ここから出さないから」

 ソファーに腰掛けている彼は、じっと私の目を見つめてくる。

「選ぶだと? しゃらくさいことを言いやがる。私はどっちも嫌だね」

 目がギラギラしてきたのを感じながら、私は震える胸から深い声を出した。
 大方、自分か颯人くんかどっちか選んでーとか、そういう甘っちょろいことだろう。

 そんなの、どっちもお断りだっていうの! こんな方法で女子を手籠めにしようだなんて男、願い下げだ。

 すると式根くんは、ちょっと怯えたような表情になった。

「ちょ……、ちょっと、落ち着いて? なんか大東さん、手負いのライオンみたいな雰囲気になってるよ?」

「普段休みがちな私の脳が完全に覚醒している」

 ぎゅるんぎゅるん回転する脳みそが命令するまま、私は立ち上がると式根くんに指を突きつけてやった。

「窮鼠猫を噛む――、私の場合はライオンだったようだな。逆に食べられる覚悟はできているか、トムソンガゼルども。お前らの思い通りには行かない。何故なら私は大東美咲だからだ、獅子心王だ、ライオンハートだ。知っているか獅子心王! リチャード一世だぞ! イングランドはプランタジネット朝の2代めの王だ!」

 ドアの前から、はぁ、という溜め息が聞こえた。

「美咲は完全に勘違いしてるぞ、式根。無理もないとは思うがな」

「勘違い? 大東さん、なにを勘違いして――」

 それから彼は私と颯人くんにぱっぱと視線を送り――はっと気づいたような顔をして、顔をガッと赤くした。両手を顔の前でぶんぶん振り始める。

「ちちちちちち違うよ! ご、ごめん! ほんと違うから! 俺はただ選んで欲しかっただけで……」

「どっちも嫌だと言ったはずだ」

「えっと、あの、運動部に入るか、生徒会の庶務になるか、のどっちかなんだけど」

「は?」

 彼の動揺しきって震えた声に――その内容に、私は真顔で彼の顔を見下ろしたのだった。

 なに言ってんだ、こいつ?


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