上 下
27 / 71

27話 目覚める心の獅子心王

しおりを挟む
 生徒会室につくと、すでに颯人くんがいてお弁当を食べていた。

「来たか……」

 彼はそう言って弁当途中でソファーから立ち上がり、そっと式根くんの肩に手を置いた。

「まあ、うまくやれよ」

「うん」

 私たちは中央のソファーセットに移動するが、颯人くんは逆にドアに歩いて行く。

 なんだ?

 と不思議がりながら、私はソファーに座って――。

 カチリ、と。鍵が掛けられる音がしてそちらを見ると、颯人くんがドアの前に立ち、鍵をかけたところだった。

 目が合うと、颯人くんは肩をすくめてみせる。

「……俺は何もしない。二人でよろしくやってくれ」

「はッ!?」

 声が裏返り、全身の血の気がサーッと下がった。
 と、閉じ込められた!?

 しかも颯人くんの今の言葉――『二人でよろしくやってくれ』?

 慌てて横に座った式根くんを見ると、少しすまなそうな顔をした彼が、それでも真剣な眼差しで私を見つめていた。

「ごめんね大東さん、こんなだまし討ちみたいなことして」

 冷や汗がどばっと背中に吹き出した。
 奥歯を噛みしめながら、自分の浅はかさを悔いる。

 やっぱり、男子二人と密室はヤバいか……! 式根くんいい人だけど、図体でかいし、力じゃかなわないし……。ちょっと心を許しすぎた。

 昨日のはブラフだったのだろう。生徒会室に一回連れてきて、何もしない、と安心させるための。
 そんな手の込んだことをして……もうちょっと別の所に頭を使えよな。

 でもこうなってしまったからには順応しよう。後悔するのは今じゃない、今はどうすればいいかを考えるんだ。

「……だまし討ち、ね。思えば昨日もだまし討ちみたいなもんだったな。いきなり生徒会室に連れ込まれるわ、颯人くんはくるわ。お弁当は美味しかったけどな」

 喋りながら、私は必死に考えを巡らせていた。

 ここで声をあげても誰も助けには来てくれないだろう。生徒会室は学校でも人気のない場所にあるからだ。
 ここから逃げるには、とりあえずドアの前の颯人くんをなんとかしないといけない……。殴ったり蹴ったりの荒事なんて、私にできるか? いやしなければ。
 その前にこのデカい奴をかいくぐってドアの前まで行かないとな。どうする? やっぱり後ろにダッシュするか? くそっ、護身術でも習っとけばよかったな……。根っからの文系な自分が恨めしい。

 いや、窓から逃げるか? と窓を目の端で確認したら、閉まっていた。まずは窓の鍵を開けて、スライドをずらして――という手間がかかるが、颯人くんを力仕事でなんとかするよりは可能性が見える。
 ここは二階だけど、二階くらいなら飛び降りても軽傷で済むだろうし。

 ……ははは、なんか楽しくなってきたぞ。どうしてくれようか、この私をハメやがって! 証拠とかとっておいたほうがいいだろうな、でもスマホの録音アプリを起動する暇はなさそうだ。もうぶっつけ本番でやるしかない。

「……大東さん、選んで。選ぶまでは、ここから出さないから」

 ソファーに腰掛けている彼は、じっと私の目を見つめてくる。

「選ぶだと? しゃらくさいことを言いやがる。私はどっちも嫌だね」

 目がギラギラしてきたのを感じながら、私は震える胸から深い声を出した。
 大方、自分か颯人くんかどっちか選んでーとか、そういう甘っちょろいことだろう。

 そんなの、どっちもお断りだっていうの! こんな方法で女子を手籠めにしようだなんて男、願い下げだ。

 すると式根くんは、ちょっと怯えたような表情になった。

「ちょ……、ちょっと、落ち着いて? なんか大東さん、手負いのライオンみたいな雰囲気になってるよ?」

「普段休みがちな私の脳が完全に覚醒している」

 ぎゅるんぎゅるん回転する脳みそが命令するまま、私は立ち上がると式根くんに指を突きつけてやった。

「窮鼠猫を噛む――、私の場合はライオンだったようだな。逆に食べられる覚悟はできているか、トムソンガゼルども。お前らの思い通りには行かない。何故なら私は大東美咲だからだ、獅子心王だ、ライオンハートだ。知っているか獅子心王! リチャード一世だぞ! イングランドはプランタジネット朝の2代めの王だ!」

 ドアの前から、はぁ、という溜め息が聞こえた。

「美咲は完全に勘違いしてるぞ、式根。無理もないとは思うがな」

「勘違い? 大東さん、なにを勘違いして――」

 それから彼は私と颯人くんにぱっぱと視線を送り――はっと気づいたような顔をして、顔をガッと赤くした。両手を顔の前でぶんぶん振り始める。

「ちちちちちち違うよ! ご、ごめん! ほんと違うから! 俺はただ選んで欲しかっただけで……」

「どっちも嫌だと言ったはずだ」

「えっと、あの、運動部に入るか、生徒会の庶務になるか、のどっちかなんだけど」

「は?」

 彼の動揺しきって震えた声に――その内容に、私は真顔で彼の顔を見下ろしたのだった。

 なに言ってんだ、こいつ?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

リストカット伝染圧

クナリ
青春
高校一年生の真名月リツは、二学期から東京の高校に転校してきた。 そこで出会ったのは、「その生徒に触れた人は、必ず手首を切ってしまう」と噂される同級生、鈍村鉄子だった。 鉄子は左手首に何本もの傷を持つ自殺念慮の持ち主で、彼女に触れると、その衝動が伝染してリストカットをさせてしまうという。 リツの両親は春に離婚しており、妹は不登校となって、なにかと不安定な状態だったが、不愛想な鉄子と少しずつ打ち解けあい、鉄子に触れないように気をつけながらも関係を深めていく。 表面上は鉄面皮であっても、内面はリツ以上に不安定で苦しみ続けている鉄子のために、内向的過ぎる状態からだんだんと変わっていくリツだったが、ある日とうとう鉄子と接触してしまう。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

ゆめまち日記

三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。 一般的にそれを――秘密という―― ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。 二つの名前に縛られる者。 過去に後悔した者 とある噂の真相を待ち続ける者。 秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。 『日記』シリーズ第一作!

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

処理中です...