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22話 一年前のこと

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 夜になるまで待つもなく、夕方くらいにもう式根くんからのLINEがあった。

『ちゃんと家に帰れた?』

 だそうである。
 馬鹿にしてんのか、こいつ……と思いつつも、私は返信をした。

『そんなこと心配するな。私は無事だ』

 すると、すぐに返信が来た。

『よかったー!』

 それから、猫が胸に手を当てて微笑んでいるスタンプが来る。
 ……こいつ、なんていうか、こういうところが女子っぽい感性だと思う。本物女子高生の私より女子力が高い気配がビュンビュンするのだ。
 私、スタンプどころか絵文字も使わないから……。

『もうすぐお夕飯だね、ちゃんと食べるんだよ』

『私の夕飯は7時からだ』

『あ、そうなんだ。ごめん』

『謝ることはない』

『俺、今日は焼き肉だよ』

 背が高くガッシリした体つきの彼が焼き肉をかっ込む姿を想像すると、ちょっと笑ってしまう。きっと様になるだろう。

『いっぱい食べろ』

『うん、ありがと』

 それからラーメンをずずずっとすする猫のイラストのスタンプ。たぶん、「食べる」という要素を含むスタンプがこれしかなかったから、これで妥協したのだろう。

『ところで式根くん、去年の町内クリーニング大会なんだけど』

 私がそのメッセージを送ると、すぐに電話が掛かってきた。

「大東さん!」

 その声は嬉しそうに弾んでいた。

「あのこと、思いだしてくれたんだね!」

「……」

 うわ、なんか期待されてたのか。面倒くさい気配がする……。

「いや、全然。ええとな……」

 下校時にあの三人に詰め寄られたから知った……のだが、それを正直に言っていいものかどうか……。

「ちょっとしたことで、その情報が必要になったんだ」

「え? どういうこと?」

「私がある女子の勇気ある行動を邪魔したってことになってるらしいんだが、それについて詳しく知りたい」

 できるだけ言葉を濁したのだが。

「……」

 彼は押し黙ったが、静かな声音で告げた。

「……あの三人に、なにか言われたんだね。俺が一緒にいないから……」

 ぐっ、と下唇を噛むような気配があった。

「やっぱり、大東さんのこと一人で帰すんじゃなかった」

「別に平気だよ。子供扱いするな」

「俺は大東さんが心配なんだよ」

 平行線だなぁ、と思う。
 私は平気だというし、彼は心配だという。その線が交わることはないだろう。

「とにかく、教えてくれ。去年の町内クリーニング大会でなにがあった?」

「あのね、大東さんが俺のこと助けてくれたんだよ」

 それから式根くんは、ことの顛末を話してくれた。


◇◇◇


 町内クリーニング大会――それは、桜川高校の全生徒が一斉にジャージ姿で町に出て、トングを持ってゴミ拾いをする、というイベントである。

「それで俺、ゴミ拾いしてたら合唱部の場所に迷い込んじゃってさ……」

 電話越しに、彼は苦笑した。

 あ、ゴミだ! 次のゴミ発見! 更に次のゴミ発見! と次々にゴミを拾っていったら、いつの間にか合唱部の受け持ちエリアに入り込んでしまっていた……ということらしい。

「すぐクラスの場所に戻ろうって思ったら、あの三人に取り囲まれて……」

 式根くん! なんでここにいるの? ここ合唱部のエリアだよ? もしかして合唱部の誰かに会いに来たとか?

 ――違う、と説明するような隙もないほど質問攻めにあったそうである。
 背の高い女の子とふっくらしている女の子が次々と話してきて、そのちょっと後ろから、瞳を潤ませた大人しそうな女の子が見つめてきていたそうだ。

『あの、俺――』

『もしかして和香に話があるの? うわっ、青春じゃん!』

 と背の高い女子がはしゃいでいる横で、ふっくらした女子が大人しそうな女の子の背を押して前に出してきたそうだ。

『和香、式根くんが和香に話があるんだって!』

『え? そんなんじゃなくて』

『式根くん』

 大人しそうな女の子は、顔を真っ赤にして式根くんのジャージの袖を摘まんで引っ張って、潤んだ瞳で見上げてきたという。

『あの……、私、そういうの……、迷惑だけど……、でも式根くんがどうしてもっていうんなら……、聞いてあげてもいいよ……?』

 たどたどしく語られる彼女の言葉に、式根くんはいよいよ困窮してしまった。

 ――で、そこに私・大東美咲が登場した、というわけである。




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