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20話 駐輪場で絡まれる

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 一日の授業が終わり、私は帰り支度をして駐輪場に向かった。
 式根くんは最後まで抵抗していた――。

『え!? ここは響くんに褒められていい気分になって「生徒会か、顔だけは出してやる」とかいう流れじゃないの!?』

 とかほざいていたが、誰がそんなことするか。

 私はこれで忙しいんだ、勉強しないといけないからな……。塾とか行ってないから、その分勉強時間がモノをいうんだよ。
 ……まあ生徒会入る入らないにかかわらず、今夜もおやすみコールかけてくるとは言ってたけどな。

 とかいうことで自転車の前籠に鞄を放り込んでいたら、私を取り囲むように人が立ってきた。
 ――クラスメイトの女子三人である。つまり、例の、私を虐めてきている人たちだ。

「ちょっと待ちなよ」

 無視して自転車に乗ろうとする私を、一番背の高い女子が止めてきた。名前は確か、前山皐月さつきだ。

「何か? 私、これから帰って勉強しなきゃいけないんだけど」

「あたしたちの用事の方が大事よ」

 背が低くふっくらした女子がずいっとその大きな体で壁を作るように前に出てきた。城谷しろや波奈江はなえである。

「大東さんってさ、最近式根くんと仲いいみたいね」

 前山さんがうんうんと頷きながら追従する。

「そうそう、今朝だって式根くんに守ってもらってラッキー、とか思ってるんだろ。あざとい奴」

「日本語の意味について誤謬を犯しているようだな。『あざとい』の辞書的な正解を教えてあげようか?」

 わざと難しい言葉を使って切り返す私に、彼女たちの後ろにいた中くらいの背の女子――確か、山野井やまのい和香わかが「ひっ」と声を漏らした。

「い、いいです……。だってそんなことしたって、あなたの嫌な性格は変わりませんから……」

 おーおー、つまりは『お前が悪』だという共通認識で私を責めに来た、ってことか。ただ虐めてるってだけじゃ格好がつかないってことなのか? だから正義は自分たちにアリ、のポーズだけでも付けてたいのだろう。

 いまは式根くんは生徒会活動中だし、その隙を狙って……、ってところかな。

「あ、そ」

 言葉少なに、私は自転車を押して行こうとし――。

「待てっていってるでしょ!」

 背の高い前山さんにハンドルを握って止められた。

「……どいて」

 ギロリと睨むと彼女たちは一様に怯えたような目をしたが、それでもリーダー格の前山さんが私に言った。

「話があるって言ったよね?」

「手短に頼む。私も暇じゃないんだ」

 何度もいうけど勉強しないといけないんだからな! 式根くんは今夜も私を早くに眠らせてくるだろう、ということは勉強時間減ることが確定してるということになるのだ、その分の勉強時間を確保しないといけない。っていうか『早く眠らせてくる』って、自分でいっといてなんだけど、ちょっと意味深だな。

「じゃあ今から言うから耳の穴かっぽじってよく聞けよ。……これ以上、式根くんに近づくな」

 おお、ズバッと切り込んできたな。
 だがお生憎様である。私は肩をすくめてチャラけてみせた。

「近づくも何も、あっちから絡んでくるんだから私じゃどうしようもないだろ。文句なら式根くん本人に言ってくれない?」

「でも満更でもないんでしょ? あんなイケメンにイチャイチャされてさ。あんたの嬉しそうな顔がムカつくんだよ」

 そんな嬉しそうな顔してるか? 別に普通だと思うんだけどなぁ……。

「そうだな、満更でもないよ。というか、彼には感謝している」

 背筋を正してはっきりそう告げると、三人の女子たちは一斉に気色ばんだ。

「ほらやっぱり! あんた式根くんのことが好きなんだ!」

「そんな甘っちょろいことじゃない!」

 カッと目を見開き、私は声を荒げてみせる。

「遅刻に悩んだことのないあなたたちでは分からないだろうな、式根くんのありがたさが!」

「えっと……、なんの話してるのかしら?」

 太っちょの谷城さんが怯えたような目つきになるが、私は胸を張って応えた。

「彼は私の遅刻癖を直そうとしてくれている。そのために、身を粉にして働いてくれているだけだ。その代わり、彼は私の個性とやらを学んでいる。私と彼の間に横たわるのは、深くて暗いばっかりの河ってわけでもないのさ。そこにあるのは師弟関係の橋だ、彼は橋の上から私を呼んでくれているのだ、無遅刻という名の極楽浄土に一緒に行こうってな!」

「……つまり、付き合ってるってこと?」

 前山さんが首をひねるのに、私はふんと鼻で笑ってみせた。

「私のいまの言葉のどこを聞けばそうなるんだ。……いいか、私にとって式根くんは命綱みたいなものなんだよ。遅刻に縁のないあなたがたには分からないだろうけど、遅刻ってのは結構なペナルティになるんだ」

「……へ、へえ」

 と前山さんは口をすぼめるが、その目には怒りの炎が宿ってきていたのだった。

「ほんっと、あんたって昔と全っ然変わらない嫌な奴だね! よく分かんないこと並べ立ててあたしたちのこと煙に巻こうとしてるんだろ!」

「それは鏡だな」

「鏡?」

「私という鏡に映った自分を見ているのさ、前山さんは」

「なっ……、私たちが嫌な奴、って言いたいの!?」

「人の靴箱にゴミ入れるような人は嫌な奴だといっていいと思うね」

「あら、そんなこと言って」

 太っちょの城谷さんが、嫌みったらしくニヤリと笑う。

「私たちがしたって証拠でもあるのー?」

「じゃあ逆に聞くけど、あの紙に書いてあったのは何色の字だった?」

「そんなの決まってるじゃない――」

「波奈江! ストップ! 答えてどうするのよ!」

「え? あっ……」

 前山さんに制されて、はた、と止まる城谷さん。
 そりゃそうだ、ここで正解を答えたら自分たちがしたって白状していることになるんだから。

 ていうかこんな簡単なトラップに引っかかりそうになるなよ……。


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