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16話 スパイスになる所存

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「ところで師匠ってなんだ? 美咲お前お花でも始めたのか?」

「違うよ、式根くんがね、私に個性を教えて欲しいんだってさ。その師匠」

「なるほど、そういう師匠か」

 意味ありげに薄く笑う颯人くんに、式根くんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにした。

「……悪い?」

「いや。よかったな式根、弟子入りできて」

 颯人くんがニヤリと笑う。……いやほんと、颯人くんはこういう顔すると凄く似合うの、ズルい。

「……うん」

 しゅうううう、という音が聞こえてきそうなほど、式根くんは真っ赤になって俯いてしまった。

 式根くんは式根くんで、デカいのにこういう細やかな仕草が可愛い。いやほんとうちの学校の生徒会長と副会長ってどうなってるんだ、桜川高校を代表するイケメンが二人揃ってなってるなんて。一女子生徒として、私も鼻が高いぞ。
 ま、それはいいとして。

「なぁ颯人くん、私さ、師匠として式根くんに何したらいいと思う?」

 ずっと気になっていたことを颯人くんに投げてみた。彼は式根くんと知り合いなわけだし、ちょっとした相談である。
 今日は遅刻しないで来れたし、私も式根くんにちゃんと師匠っぽいことをしたいのだ。それが恩返しになるだろうから。

「そうだな、特別なことはしなくていいんじゃないか。こうして弁当に付き合ってやったり、話し相手になってやったりすればいいさ」

「別にそれは、師匠じゃなくてもできることだろ?」

「いいんだよ、大東さん!」

 慌てたように式根くんが首を振る。

「ほら、背中を見て学ぶってあるじゃない? それをしてるんだよ、俺は」

「はぁ……?」

 それでいいのか?

「徒弟制度、徒弟制度! 師の背中を見て技を盗むの。そういう最中なの俺」

「そうなのか……?」

「式根がそれでいいって言ってるんだから、それでいいんだろ」

 すまし顔でずずっとお茶をすする颯人くん。

「式根に恩義を感じているんなら黙って付き合ってやれ。それが、式根が求めていることだ」

「……納得しかねるが、颯人くんがそう言うんならそうなのかな」

「あ、会長の言うことはすんなり聞くんだ……」

「颯人くんってムカつくけど、昔から要領いいんだよ。その要領の良さは私も利用したいと思っている」

 つまり、颯人くんのアドバイスはかなり的を射ていることが多いんである。まことに不本意ながら、非常に頼りになる存在なのだ。
 この辺のカリスマ性がある颯人くんだからこそ、ぶっちぎりで生徒会長選挙で一位になったんだろう。私がぶっちぎりで最下位だったのは、イケメンでもなければカリスマ性もなかったから、かな。……って、自分でいってて悲しい。

「うぅ、幼馴染みってやっぱり強いな……」

「悔しいならとっとと美咲と関係性を築け。ポヤポヤしてるとかっさらうぞ」

「え、さっき邪魔はしないって……」

「少しくらいスパイスがあったほうが盛り上がるだろ、そのためになら俺も一肌脱いでやる」

 白い歯を見せて笑う颯人くん。

「いいよ! 脱がないで! 何重にも厚着してて!!」

「厚着? ストッキングの出番か?」

 青くなったり赤くなったり、忙しくあわあわする式根くんに、私は首を傾げた。

「違うよ大東さん、そういうんじゃなくて……!」

 慌ててフォローしようとする式根くんだったが、よく分からない。
 本当に、さっきから何を男二人で符牒あわせて話してるんだ。

 やっぱり、生徒会の会長と副会長って、なにか腹の底で通じ合うようになってるってことなのかな。二人の関係性が羨ましい。私も生徒会長選挙を一位か二位で通過して、この腹芸を会得してみたかった。

 ていうかお弁当、食べても食べても次があるんだけど……とお弁当を見ると、各おかずに一口二口と口を付けただけで、まだまだ可食スペースが幅をきかせていた。

 やっぱり量多いよ、式根くん。

 彼のお弁当を見ると、すでに半分以上食べていた。
 ……さすが、自分で作っただけのことはある。自分の食べる量は間違えないんだな……。




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