14 / 71
14話 生徒会室と生徒会長
しおりを挟む
なんてこった。
そう思いながら入った生徒会室は、向かい合わせた長机と黒皮のソファーセット、それに書類戸棚が立ち並び、コピー機やPC一台があるという、けっこう広い部屋だった。
私は憮然としながらソファーに腰掛けた。
そんな私の横に腰掛けた式根くんは、お弁当を前に置く。
包みの上からとはいえ、その大きさに、私は驚いた。
かなり大きな――まさに高校二年のデカい男子が食べるに相応しい大きさのお弁当だったからだ。それが、二つあるのである。式根くんは、当然のように弁当箱の1つを私の前に置いた。……デカい。
部屋の隅に電気ポットが置いてあって、そこで颯人くんがお茶を淹れて、私たちの前に置いてくれた。
もごもごと礼を言いつつ、お茶を一口すする。
熱くてよく味が分からないが、多分、苦いんだと思った。
「会長、会長と大東さんってどういう関係なの?」
お弁当の包みを開けながら、式根くんが颯人くんに聞く。
すると颯人くんは意地悪そうにニヤリと笑った。この意地悪そうに笑うのが整った顔によく似合っていて、しかも格好いいところがムカつく。
というか颯人くんも桜川高校の王子様枠だから、生徒会長選挙って結局王子様枠二人が当選してるってことになる。結局必要だったのは顔面偏差値か……と思う。私だって眼鏡外せば当選できたのかもしれない。……目が悪いから眼鏡外せないけど。
「気になるか」
颯人くんの問いに、式根くんは大きく頷いた。
「そりゃ気になるよ、なんかやけに親しげでさ……」
「美咲とは、一緒に風呂に入る間柄だ」
「なっ……!?」
颯人くんの問題発言に目を白黒させる式根くんの横で弁当の包みを開けながら、私ははぁっと溜め息をついた。
「……ちゃんと過去形にしろよ」
「でもこの方が面白いだろ?」
「わざわざ誤解されること言ってなにが面白いんだよ、タチ悪いな」
「え……、あの……」
泡を食ってる式根くんに、私は頷いてみせた。
「昔、颯人くんとは家が隣同士だったんだ。だからほんの小さい頃は、泥付き野菜洗うみたいに一緒にお風呂に入れられたりしてたんだよ」
「そうそう、それで中学校に入学するときになって美咲が引っ越していってな……」
「そういや颯人くん、まだフンドシ履いてるの?」
あの頃彼は、お爺さんの影響でパンツ代わりに白いフンドシを履いていた。お風呂から上がる度に長い白い布をねじって腰に巻いているのが面白くて、よく観察していたっけ。あれ、かなり要領よく布を巻くんだよね。
「当然だ」
颯人くんは私と式根くんの前に座りながら頷く。
「フンドシは決意の現れ。キリッとフンドシを締めた俺にお前が選挙で負けたのは、なんら恥ではない……と言っておこう」
「やっぱり教室に帰りたくなってきたな」
「それから美咲、フンドシは履くものじゃない、締めるものだ」
「それは失礼した、覚えておくよ」
「えっと……」
式根くんが遠慮がちに口を挟んでくる。
「二人は幼馴染み……ってこと?」
私は頷いた。
「そういうことだ」
「それがいきなり生徒会長選挙でぶつかり合うことになってな……、前々から学年トップを競い合っていて名前は知っていたが、最初は我が目と耳を疑っていたよ。まさかあの美咲か……? と。眼鏡を掛けていて面影がなかったんでな。だが公約を知って確信した。これは確実にあの美咲だ、とな」
私の公約。それは言わずもがな、『ストッキングは110デニール以上、男子も寒かったら履く』である。
「大東さんって、昔からストッキングが好きだったの?」
と式根くんが私に顔を向けてくるが、颯人くんが首を振って応えた。
「変なところで逆張り的に個性を出そうとしてくるのが、美咲の昔からの悪癖なんだ」
「うるさいな、今どきフンドシ履いてる奴に言われたくないよ」
「フンドシは締めるものだっていっただろ」
「……」
すっ、と式根くんがジト目になる。
「幼馴染み、手強い……」
「安心しろ、式根。俺はお前を邪魔しない」
箸を親指の根元に挟んで手を合わせ、いただきます、をする颯人くん。
「まあ、よりにもよって美咲とは、お前正気か? とは思うが」
「いいんだ、一年間ずっと考えてたんだから」
「友人として忠告しておく。美咲は手に負えないかもしれないぞ」
「覚悟はしとくよ、けどここから先は俺の決めたことだから……」
「なんの話をしてるんだ?」
私は彼らの会話に口を挟んだ。私のことを話題にしているのは分かるのだが、なんの話をしているのかまでは分からなかったからだ。
『一年間ずっと考えてた』? 式根くんて、もしかして一年間ずっと私に弟子入りしたかったのか?
すると男二人は同時に首を振った。
「ううん、こっちの話」
「美咲、それより弁当を食べろ。見た感じ、式根に作らせたんだろ?」
「人聞きの悪いこと言うな、式根くんが自分から作ってくれたんだよ、ね、式根くん」
「そうそう、美味しいおかずばっかり詰め込んだからね、いっぱい食べてね」
「……そうだな」
なんて喋りながら、意を決した私は、デカい弁当箱の蓋をパカリと開けた。
美味しいおかずばかり詰め込んだ、という彼の言に嘘はなかった。
厚焼き玉子、唐揚げ、ほうれん草のおひたし、プチトマト、ブロッコリーのおかか和え。ご飯にはごま塩が掛けてある。全体的にお弁当で人気のおかずばかりである。
ただ、量が。やっぱり量が多いんだ……。
そう思いながら入った生徒会室は、向かい合わせた長机と黒皮のソファーセット、それに書類戸棚が立ち並び、コピー機やPC一台があるという、けっこう広い部屋だった。
私は憮然としながらソファーに腰掛けた。
そんな私の横に腰掛けた式根くんは、お弁当を前に置く。
包みの上からとはいえ、その大きさに、私は驚いた。
かなり大きな――まさに高校二年のデカい男子が食べるに相応しい大きさのお弁当だったからだ。それが、二つあるのである。式根くんは、当然のように弁当箱の1つを私の前に置いた。……デカい。
部屋の隅に電気ポットが置いてあって、そこで颯人くんがお茶を淹れて、私たちの前に置いてくれた。
もごもごと礼を言いつつ、お茶を一口すする。
熱くてよく味が分からないが、多分、苦いんだと思った。
「会長、会長と大東さんってどういう関係なの?」
お弁当の包みを開けながら、式根くんが颯人くんに聞く。
すると颯人くんは意地悪そうにニヤリと笑った。この意地悪そうに笑うのが整った顔によく似合っていて、しかも格好いいところがムカつく。
というか颯人くんも桜川高校の王子様枠だから、生徒会長選挙って結局王子様枠二人が当選してるってことになる。結局必要だったのは顔面偏差値か……と思う。私だって眼鏡外せば当選できたのかもしれない。……目が悪いから眼鏡外せないけど。
「気になるか」
颯人くんの問いに、式根くんは大きく頷いた。
「そりゃ気になるよ、なんかやけに親しげでさ……」
「美咲とは、一緒に風呂に入る間柄だ」
「なっ……!?」
颯人くんの問題発言に目を白黒させる式根くんの横で弁当の包みを開けながら、私ははぁっと溜め息をついた。
「……ちゃんと過去形にしろよ」
「でもこの方が面白いだろ?」
「わざわざ誤解されること言ってなにが面白いんだよ、タチ悪いな」
「え……、あの……」
泡を食ってる式根くんに、私は頷いてみせた。
「昔、颯人くんとは家が隣同士だったんだ。だからほんの小さい頃は、泥付き野菜洗うみたいに一緒にお風呂に入れられたりしてたんだよ」
「そうそう、それで中学校に入学するときになって美咲が引っ越していってな……」
「そういや颯人くん、まだフンドシ履いてるの?」
あの頃彼は、お爺さんの影響でパンツ代わりに白いフンドシを履いていた。お風呂から上がる度に長い白い布をねじって腰に巻いているのが面白くて、よく観察していたっけ。あれ、かなり要領よく布を巻くんだよね。
「当然だ」
颯人くんは私と式根くんの前に座りながら頷く。
「フンドシは決意の現れ。キリッとフンドシを締めた俺にお前が選挙で負けたのは、なんら恥ではない……と言っておこう」
「やっぱり教室に帰りたくなってきたな」
「それから美咲、フンドシは履くものじゃない、締めるものだ」
「それは失礼した、覚えておくよ」
「えっと……」
式根くんが遠慮がちに口を挟んでくる。
「二人は幼馴染み……ってこと?」
私は頷いた。
「そういうことだ」
「それがいきなり生徒会長選挙でぶつかり合うことになってな……、前々から学年トップを競い合っていて名前は知っていたが、最初は我が目と耳を疑っていたよ。まさかあの美咲か……? と。眼鏡を掛けていて面影がなかったんでな。だが公約を知って確信した。これは確実にあの美咲だ、とな」
私の公約。それは言わずもがな、『ストッキングは110デニール以上、男子も寒かったら履く』である。
「大東さんって、昔からストッキングが好きだったの?」
と式根くんが私に顔を向けてくるが、颯人くんが首を振って応えた。
「変なところで逆張り的に個性を出そうとしてくるのが、美咲の昔からの悪癖なんだ」
「うるさいな、今どきフンドシ履いてる奴に言われたくないよ」
「フンドシは締めるものだっていっただろ」
「……」
すっ、と式根くんがジト目になる。
「幼馴染み、手強い……」
「安心しろ、式根。俺はお前を邪魔しない」
箸を親指の根元に挟んで手を合わせ、いただきます、をする颯人くん。
「まあ、よりにもよって美咲とは、お前正気か? とは思うが」
「いいんだ、一年間ずっと考えてたんだから」
「友人として忠告しておく。美咲は手に負えないかもしれないぞ」
「覚悟はしとくよ、けどここから先は俺の決めたことだから……」
「なんの話をしてるんだ?」
私は彼らの会話に口を挟んだ。私のことを話題にしているのは分かるのだが、なんの話をしているのかまでは分からなかったからだ。
『一年間ずっと考えてた』? 式根くんて、もしかして一年間ずっと私に弟子入りしたかったのか?
すると男二人は同時に首を振った。
「ううん、こっちの話」
「美咲、それより弁当を食べろ。見た感じ、式根に作らせたんだろ?」
「人聞きの悪いこと言うな、式根くんが自分から作ってくれたんだよ、ね、式根くん」
「そうそう、美味しいおかずばっかり詰め込んだからね、いっぱい食べてね」
「……そうだな」
なんて喋りながら、意を決した私は、デカい弁当箱の蓋をパカリと開けた。
美味しいおかずばかり詰め込んだ、という彼の言に嘘はなかった。
厚焼き玉子、唐揚げ、ほうれん草のおひたし、プチトマト、ブロッコリーのおかか和え。ご飯にはごま塩が掛けてある。全体的にお弁当で人気のおかずばかりである。
ただ、量が。やっぱり量が多いんだ……。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
私の話を聞いて頂けませんか?
鈴音いりす
青春
風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。
幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。
そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
【完結】眠り姫は夜を彷徨う
龍野ゆうき
青春
夜を支配する多数のグループが存在する治安の悪い街に、ふらりと現れる『掃除屋』の異名を持つ人物。悪行を阻止するその人物の正体は、実は『夢遊病』を患う少女だった?!
今夜も少女は己の知らぬところで夜な夜な街へと繰り出す。悪を殲滅する為に…
BUZZER OF YOUTH
Satoshi
青春
BUZZER OF YOUTH
略してBOY
この物語はバスケットボール、主に高校~大学バスケを扱います。
主人公である北条 涼真は中学で名を馳せたプレイヤー。彼とその仲間とが高校に入学して高校バスケに青春を捧ぐ様を描いていきます。
実は、小説を書くのはこれが初めてで、そして最後になってしまうかもしれませんが
拙いながらも頑張って更新します。
最初は高校バスケを、欲をいえばやがて話の中心にいる彼らが大学、その先まで書けたらいいなと思っております。
長編になると思いますが、最後までお付き合いいただければこれに勝る喜びはありません。
コメントなどもお待ちしておりますが、あくまで自己満足で書いているものなので他の方などが不快になるようなコメントはご遠慮願います。
応援コメント、「こうした方が…」という要望は大歓迎です。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などには、名前のモデルこそ(遊び心程度では)あれど関係はございません。
ペア
koikoiSS
青春
中学生の桜庭瞬(さくらばしゅん)は所属する強豪サッカー部でエースとして活躍していた。
しかし中学最後の大会で「負けたら終わり」というプレッシャーに圧し潰され、チャンスをことごとく外してしまいチームも敗北。チームメイトからは「お前のせいで負けた」と言われ、その試合がトラウマとなり高校でサッカーを続けることを断念した。
高校入学式の日の朝、瞬は目覚まし時計の電池切れという災難で寝坊してしまい学校まで全力疾走することになる。すると同じく遅刻をしかけて走ってきた瀬尾春人(せおはると)(ハル)と遭遇し、学校まで競争する羽目に。その出来事がきっかけでハルとはすぐに仲よくなり、ハルの誘いもあって瞬はテニス部へ入部することになる。そんなハルは練習初日に、「なにがなんでも全国大会へ行きます」と監督の前で豪語する。というのもハルにはある〝約束〟があった。
友との絆、好きなことへ注ぐ情熱、甘酸っぱい恋。青春の全てが詰まった高校3年間が、今、始まる。
※他サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる