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12話 靴箱に入っていたもの
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それから、半分寝た頭で家を出て、自転車を押して登校した。
本当はデカいイケメンを後ろに乗せて行きたかったのだが、本人が遠慮したので深追いはしなかった。
同じブレザー制服を着た登校する生徒たちのなか、私たちは並んで歩いて行く。
周囲の人たちが少しざわついているのは、まあ仕方がない、と眠気でぼんやりする頭で思った。
いつも遅刻している私が時間通りに来ているのだからな……! って自意識過剰はおいといて、普通に学校の王子様枠の男の隣に女子がいるのが珍しいのだろう。
だがそんな周囲の視線などお構いなしに、式根くんは嬉しそうに目を細めて、私を見下ろしていろいろと話をしてきてくれていた。多分、いまにも眠りそうな私の眠気を覚まさせてくれているのだろう。
彼との会話はなんだか楽しくて、なんだか今日は、いい一日が待っていそうな気がした。……のだが。
下駄箱に来た時、私の眠気がさーっと覚めた。嫌な覚め方だった。
なにって、丸めた紙やお菓子の包装紙などが乱雑に、私の下駄箱に入れられていたのだ。
……あ、これ嫌がらせだ、とすぐにピンと来た。
丸まった紙に文字を見つけて広げると、そこには『調子に乗るなブス』『今日も遅刻www』『式根くんに近づくな』『死ねブス』『消えろ』などの暴言が、ご丁寧に赤いボールペンで書かれていた。
「えっ、これ」
となりで式根くんがどん引きしている。
私は無言でそれをかき集めて、近くのゴミ箱へ捨てた。
昨日の女子たちだな、と思う。私みたいな地味でパッとしない、学年トップクラスの成績を誇り尚且つ眼鏡を取ったら美少女とはいえ遅刻魔の女が、高校の王子様枠のイケメンと、何故か仲良く師弟関係を結んでいるのだ。嫉妬の対象にもなるだろう。
上履きに泥や墨汁を掛けられなかっただけマシである。
私が上靴を逆さにしてなかにあるゴミを出そうと格闘していると、式根くんが「俺もやる」と言ってもう片方の上靴を逆さにして振ってくれた。
「大東さん……」
悲しそうな表情で、彼は私の名を口にする。
「そんな顔をするな」
なかのほうに詰め込まれたクッキーの包装を掻き出しながら、私は低い声で告げた。
「誇れ、式根くん」
「え?」
「これをしてきた人は一つだけ間違いを犯しているからだ、分かるか」
「……なんだい?」
「今日、私は遅刻しなかった。それだけで、私はこれをしてきた人に勝った」
それは胸を張っていいことだ。私は今日、遅刻しなかった! 犯人が「どうせ遅刻するだろう」と思い込んでいたのは、書かれた暴言を見れば分かる。私はそれを覆した――勝ったのである。
そして本当はあと一つ、これをした犯人たちが想定していなかったことがある。それは、式根くん本人にバッチリ見られている、ということだ。案外、これが一番大きい失敗な気がする。まさか昨日の今日で、一緒に登校するとは思わなかったんだろうな。
「……うん、分かった」
少し誇らしげな顔になって、彼は頷いた。
「大東さんがそういうんなら、俺もそう思うことにする。……行こ、大東さん」
「ああ」
顎を引いて頷くと、上履きを廊下の上に置き、足を入れる。
そして私は、彼に先だって歩き出した。
教室に着くと、さっそく私に向かって侮蔑の視線を送ってきた女子が数人がいた。
クスクス笑っていたが、私のすぐ後ろから背の高いイケメンが入ってきたのを見て表情を凍らせる。
さすがにその女子たちに気づいたらしき式根くんが、怖い顔になった。そして女子たちの方に行き――かけたのを、私は制した。
「いいんだ、放っておけ」
「でも」
「今日はいい、私の勝ちだから。明日同じ事をしてきたら、先生に相談しよう」
わざと彼女たちに聞こえるような大きさの声でハッキリ告げる。
まあ先生に相談したところでどうなるってもんでもない、というのは経験があることだが――。
「でも……」
「……すまん、こっちにもいろいろあるんだ。察してくれ」
頭を下げると、式根くんは恐縮したように何度も頷いた。
「分かった、分かったよ。でも次に同じ事があったら、俺も口出すからね」
「ああ、そのときは頼んだ」
「うん」
彼は少しだけ女子たちを睨み付けると、自分の席に向かって行く。
私も席に行こう。
これで机に落書きでもされてたら嫌だなぁ……とドキドキしながらそちらに向かうも、それは杞憂に終わった。
彼女たちも、さすがにそこまではしていなかったか。というか、学校の机に落書きするのは器物損壊という立派な罪である。今回は下駄箱にゴミを入れたくらいだから罪にはなっていないが……そういうギリギリのところを攻めてきている、ということなのだろうか。
まあ、いろいろあるけども。
今日は私、ちゃんと遅刻せずに来れたから、それだけを見つめようと思った。
……だって、こういう虐めって、前にもあったから……しかも同じ人たちから。だから、慣れているといえば慣れているのだ。
本当はデカいイケメンを後ろに乗せて行きたかったのだが、本人が遠慮したので深追いはしなかった。
同じブレザー制服を着た登校する生徒たちのなか、私たちは並んで歩いて行く。
周囲の人たちが少しざわついているのは、まあ仕方がない、と眠気でぼんやりする頭で思った。
いつも遅刻している私が時間通りに来ているのだからな……! って自意識過剰はおいといて、普通に学校の王子様枠の男の隣に女子がいるのが珍しいのだろう。
だがそんな周囲の視線などお構いなしに、式根くんは嬉しそうに目を細めて、私を見下ろしていろいろと話をしてきてくれていた。多分、いまにも眠りそうな私の眠気を覚まさせてくれているのだろう。
彼との会話はなんだか楽しくて、なんだか今日は、いい一日が待っていそうな気がした。……のだが。
下駄箱に来た時、私の眠気がさーっと覚めた。嫌な覚め方だった。
なにって、丸めた紙やお菓子の包装紙などが乱雑に、私の下駄箱に入れられていたのだ。
……あ、これ嫌がらせだ、とすぐにピンと来た。
丸まった紙に文字を見つけて広げると、そこには『調子に乗るなブス』『今日も遅刻www』『式根くんに近づくな』『死ねブス』『消えろ』などの暴言が、ご丁寧に赤いボールペンで書かれていた。
「えっ、これ」
となりで式根くんがどん引きしている。
私は無言でそれをかき集めて、近くのゴミ箱へ捨てた。
昨日の女子たちだな、と思う。私みたいな地味でパッとしない、学年トップクラスの成績を誇り尚且つ眼鏡を取ったら美少女とはいえ遅刻魔の女が、高校の王子様枠のイケメンと、何故か仲良く師弟関係を結んでいるのだ。嫉妬の対象にもなるだろう。
上履きに泥や墨汁を掛けられなかっただけマシである。
私が上靴を逆さにしてなかにあるゴミを出そうと格闘していると、式根くんが「俺もやる」と言ってもう片方の上靴を逆さにして振ってくれた。
「大東さん……」
悲しそうな表情で、彼は私の名を口にする。
「そんな顔をするな」
なかのほうに詰め込まれたクッキーの包装を掻き出しながら、私は低い声で告げた。
「誇れ、式根くん」
「え?」
「これをしてきた人は一つだけ間違いを犯しているからだ、分かるか」
「……なんだい?」
「今日、私は遅刻しなかった。それだけで、私はこれをしてきた人に勝った」
それは胸を張っていいことだ。私は今日、遅刻しなかった! 犯人が「どうせ遅刻するだろう」と思い込んでいたのは、書かれた暴言を見れば分かる。私はそれを覆した――勝ったのである。
そして本当はあと一つ、これをした犯人たちが想定していなかったことがある。それは、式根くん本人にバッチリ見られている、ということだ。案外、これが一番大きい失敗な気がする。まさか昨日の今日で、一緒に登校するとは思わなかったんだろうな。
「……うん、分かった」
少し誇らしげな顔になって、彼は頷いた。
「大東さんがそういうんなら、俺もそう思うことにする。……行こ、大東さん」
「ああ」
顎を引いて頷くと、上履きを廊下の上に置き、足を入れる。
そして私は、彼に先だって歩き出した。
教室に着くと、さっそく私に向かって侮蔑の視線を送ってきた女子が数人がいた。
クスクス笑っていたが、私のすぐ後ろから背の高いイケメンが入ってきたのを見て表情を凍らせる。
さすがにその女子たちに気づいたらしき式根くんが、怖い顔になった。そして女子たちの方に行き――かけたのを、私は制した。
「いいんだ、放っておけ」
「でも」
「今日はいい、私の勝ちだから。明日同じ事をしてきたら、先生に相談しよう」
わざと彼女たちに聞こえるような大きさの声でハッキリ告げる。
まあ先生に相談したところでどうなるってもんでもない、というのは経験があることだが――。
「でも……」
「……すまん、こっちにもいろいろあるんだ。察してくれ」
頭を下げると、式根くんは恐縮したように何度も頷いた。
「分かった、分かったよ。でも次に同じ事があったら、俺も口出すからね」
「ああ、そのときは頼んだ」
「うん」
彼は少しだけ女子たちを睨み付けると、自分の席に向かって行く。
私も席に行こう。
これで机に落書きでもされてたら嫌だなぁ……とドキドキしながらそちらに向かうも、それは杞憂に終わった。
彼女たちも、さすがにそこまではしていなかったか。というか、学校の机に落書きするのは器物損壊という立派な罪である。今回は下駄箱にゴミを入れたくらいだから罪にはなっていないが……そういうギリギリのところを攻めてきている、ということなのだろうか。
まあ、いろいろあるけども。
今日は私、ちゃんと遅刻せずに来れたから、それだけを見つめようと思った。
……だって、こういう虐めって、前にもあったから……しかも同じ人たちから。だから、慣れているといえば慣れているのだ。
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