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6話 式根に自信あり
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「モーニングコールぅ?」
思いっきりバカにした声を出してやった。
「そんなんで生活リズムが整うわけないだろ、私の人並み外れた生活サイクル舐めるなよ」
「自慢しないの」
彼は私に向き直ると、にっこりと笑うのだ。
「一緒にがんばろ、大東さん。俺、大東さんがこのまま退学になったら嫌だよ」
「うッッッッ」
心臓を鋭利なナイフで刺されたかのごとく呻くと、私は自分の胸を押さえた。確かにそうなのだ、このまま遅刻が続けば、さすがに退学の「た」の字が見えてきてしまうのである。
いや、これでも一年のころはちゃんと週に四日は普通に学校に来ていたんだよ。それでも十分遅刻が多いって? いやこれはまだマシな方で、二年生になった途端、ちょっとしたストレスにぶち当たって全日起きれなくなってしまったのだ。
じゃあとにかく早く寝ろよって話なんだが、そう簡単に寝れたら苦労はしない。ベッドに入ってもちっとも眠くなんかならないし、気を紛らわせるために参考書を開いたり、勉強系の動画を見たりしていたらかえって目が冴えてきちゃって、気がついたら深夜二時とかになっているのだ。
当然、朝起きるのが辛くなる。で、午前中はまったく頭が働かないわけだ。それで学校来ている間に寝るだろ、そうしたらまた夜寝れなくて目が冴えちゃうだろ……負のスパイラルってやつだ。それは自分でもよく分かっているのだが、どうしようもなかった。だって、なんどもいうが、ベッドに入っても寝れないんだから……。
「いくら勉強ができたって、毎日遅刻してたら駄目だからね……?」
「そんなこと分かってる」
自分の遅刻癖は自分がいちばんよく分かっていた。だからこそ私は、自分の成績をキープしようと躍起になっていた。――遅刻したって成績がよければ、ちょっとは大目に見てもらえるんじゃないかな、とか、そんな期待をして。
でも、まあ、そりゃそうなのだ。遅刻と成績は別物である……。
「……式根くん、本当に私の生活サイクルを改善できるの?」
「できるよ」
彼はしっかりと頷いた。私の手をとり、包み込んで優しく微笑む。
「俺、早寝早起きには自信あるんだ。その俺がサポートすれば、大東さんだってきっと遅刻しなくなるよ」
「式根くん……」
ああ――なんだか式根くんがキラキラ輝いて見える。と思ったら、実際に彼の背後から、太陽光が差し込んでいた。五月下旬の風でカーテンが揺れて、光が式根くんをチラチラと瞬かせているのだ。
……正直、心奪われた。
この人なら私の遅刻癖を改善させてくれるんじゃないか、って。そう信じられた。
「あ、ご、ごめん」
ぱっ、と手を離す式根くんは、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「つまり、式根くんに助けてもらうためには――」
私は前のめりになって話を続ける。
「式根くんを私の弟子にすればいいって、これはそういうバーターなわけだね?」
「そ、そうそう」
頬を染めて、ちらり、とこちらを上目遣いで見てくる式根くん。いやほんと、この人、背がデカいっていうのを忘れるくらい、なんていうか動作が女の子みたいだよな……。
「俺は君に弟子入りして個性を磨けるし、君も遅刻しなくなるっていう、Win-Winな関係。そういう約束……どうかな」
「……」
彼が私の弟子になる――とか、そういうのは正直よく分からないし、面倒くさそうだった。でも、生活面でまともな人に助けてもらえるっていうのは、この上なく魅力的だ。
遅刻癖をなくせるのと、弟子とかいう面倒くさいのを抱えるのと、どっちがいいか。
そんなの、決まっていた。私は普通になりたいんだ!
「……いいだろう、式根くん。私の弟子になるといい」
「ほんとに!?」
式根くんはパッと顔を輝かせた。
「ああ、二言はない。その代わり、私の遅刻を改善してください」
「もちろん!」
「ただし、私の遅刻癖が治らないときは……」
タメを作って、それから真剣な顔で彼を見つめた。
「そのときは、破門する」
「大丈夫だよ」
頼もしげに、にっこり笑う式根くん。背後から風が入り込んできて、栗色の髪を揺らしていく。
「破門になんかならない。必ず、大東さんを朝のホームルームから学校に来させてあげるよ」
「……ふふふ」
思わず含み笑いしてしまった。
これで……、これで、遅刻常習犯から卒業できる……。頼んだぞ、式根くん!
思いっきりバカにした声を出してやった。
「そんなんで生活リズムが整うわけないだろ、私の人並み外れた生活サイクル舐めるなよ」
「自慢しないの」
彼は私に向き直ると、にっこりと笑うのだ。
「一緒にがんばろ、大東さん。俺、大東さんがこのまま退学になったら嫌だよ」
「うッッッッ」
心臓を鋭利なナイフで刺されたかのごとく呻くと、私は自分の胸を押さえた。確かにそうなのだ、このまま遅刻が続けば、さすがに退学の「た」の字が見えてきてしまうのである。
いや、これでも一年のころはちゃんと週に四日は普通に学校に来ていたんだよ。それでも十分遅刻が多いって? いやこれはまだマシな方で、二年生になった途端、ちょっとしたストレスにぶち当たって全日起きれなくなってしまったのだ。
じゃあとにかく早く寝ろよって話なんだが、そう簡単に寝れたら苦労はしない。ベッドに入ってもちっとも眠くなんかならないし、気を紛らわせるために参考書を開いたり、勉強系の動画を見たりしていたらかえって目が冴えてきちゃって、気がついたら深夜二時とかになっているのだ。
当然、朝起きるのが辛くなる。で、午前中はまったく頭が働かないわけだ。それで学校来ている間に寝るだろ、そうしたらまた夜寝れなくて目が冴えちゃうだろ……負のスパイラルってやつだ。それは自分でもよく分かっているのだが、どうしようもなかった。だって、なんどもいうが、ベッドに入っても寝れないんだから……。
「いくら勉強ができたって、毎日遅刻してたら駄目だからね……?」
「そんなこと分かってる」
自分の遅刻癖は自分がいちばんよく分かっていた。だからこそ私は、自分の成績をキープしようと躍起になっていた。――遅刻したって成績がよければ、ちょっとは大目に見てもらえるんじゃないかな、とか、そんな期待をして。
でも、まあ、そりゃそうなのだ。遅刻と成績は別物である……。
「……式根くん、本当に私の生活サイクルを改善できるの?」
「できるよ」
彼はしっかりと頷いた。私の手をとり、包み込んで優しく微笑む。
「俺、早寝早起きには自信あるんだ。その俺がサポートすれば、大東さんだってきっと遅刻しなくなるよ」
「式根くん……」
ああ――なんだか式根くんがキラキラ輝いて見える。と思ったら、実際に彼の背後から、太陽光が差し込んでいた。五月下旬の風でカーテンが揺れて、光が式根くんをチラチラと瞬かせているのだ。
……正直、心奪われた。
この人なら私の遅刻癖を改善させてくれるんじゃないか、って。そう信じられた。
「あ、ご、ごめん」
ぱっ、と手を離す式根くんは、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「つまり、式根くんに助けてもらうためには――」
私は前のめりになって話を続ける。
「式根くんを私の弟子にすればいいって、これはそういうバーターなわけだね?」
「そ、そうそう」
頬を染めて、ちらり、とこちらを上目遣いで見てくる式根くん。いやほんと、この人、背がデカいっていうのを忘れるくらい、なんていうか動作が女の子みたいだよな……。
「俺は君に弟子入りして個性を磨けるし、君も遅刻しなくなるっていう、Win-Winな関係。そういう約束……どうかな」
「……」
彼が私の弟子になる――とか、そういうのは正直よく分からないし、面倒くさそうだった。でも、生活面でまともな人に助けてもらえるっていうのは、この上なく魅力的だ。
遅刻癖をなくせるのと、弟子とかいう面倒くさいのを抱えるのと、どっちがいいか。
そんなの、決まっていた。私は普通になりたいんだ!
「……いいだろう、式根くん。私の弟子になるといい」
「ほんとに!?」
式根くんはパッと顔を輝かせた。
「ああ、二言はない。その代わり、私の遅刻を改善してください」
「もちろん!」
「ただし、私の遅刻癖が治らないときは……」
タメを作って、それから真剣な顔で彼を見つめた。
「そのときは、破門する」
「大丈夫だよ」
頼もしげに、にっこり笑う式根くん。背後から風が入り込んできて、栗色の髪を揺らしていく。
「破門になんかならない。必ず、大東さんを朝のホームルームから学校に来させてあげるよ」
「……ふふふ」
思わず含み笑いしてしまった。
これで……、これで、遅刻常習犯から卒業できる……。頼んだぞ、式根くん!
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