拾ったのはトナカイ(自称)のイケメンでした

卯月ミント

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拾ったのはトナカイ(自称)のイケメンでした2

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 というわけで、二人は近くにあるハンバーガーチェーン店に入った。

 カウンターに並んだときに、そこで改めて少年を見る。
 アカネは思わず驚いてしまった。少年は、それはそれはイケメンだったのだ。
 外国の血が入っているのだろうか――栗色の髪に、青みがかった綺麗な瞳をしている。

「やっだ、アンタイケメンじゃん。はいチーズ!」

 パシャリ。まずはスマホで一枚だ。

「あとでミズホに自慢しよーっと」

 並んで映ったイケメンと自分をスマホ画面で確認しつつ、アカネはニヤニヤ笑っている。

「……………」

 だが、イケメン少年は無言でメニュー表を見上げているだけだった。

「ん、どったの?」

「……僕、この国のお金を持っていなくて……」

「なんだ、やっぱり外国の人かぁ。しょうがないな、アタシがおごってあげるよ」

「本当?」

「もち、もち。バイト代入ったばっかだしね~。遠慮しなくていいからね、キミぃ」

 なんて冗談めかして言うアカネは、やっぱり困った人を見捨てられないのだ。


 *****


「……………遠慮しなくていい、とはいったけどさ」

 テーブル席にて向かい合い、パクり、とチーズバーガーを一口食べるアカネ。

「食べ過ぎじゃね?」

「そうかな」

 つい先ほどまで猛烈な勢いでもぐもぐとポテトを食べていたイケメン少年は、小さく首を傾げる。その様子もまた様になる。……イケメンというのは得だなぁ、とアカネは思う。

「それもポテトばっかり」

 彼の目の前に積み上がるのは、ポテトの空箱の山である……。

「バーガー食べればいいのに。頼んでこよっか?」

「ありがとう、でも僕は草食だから」

「草食男子~? はーっ、自分で言うとか、最近の若いモンは情けない。もっとガツガツいきなさいよね~」

「歳は関係ないよ、胃が受け付けないってだけ」

「……うーん?」

 どうも話が噛み合っていないが、まあいいか、とアカネはチーズバーガーをパクりとする。うん、肉とチーズのハーモニーがベストマッチ。

「でも助かったよ、ありがとう。この辺りには食べられる草が生えていなくてね……」

「は? ガチで草食ってんの?」

「道組みの下調べの途中で」

「ふぅん?」

「突然に空腹に襲われたんだ」

「……そっすか」

 アカネの理解の範疇を超えた回答に、彼女はそれ以上追求するのをやめた。
 オレンジジュースをチューッと吸う。甘酸っぱい柑橘系が心地いい。

「あ、道組みっていうのは配達の順番なんかを決めることをいうんだ。24日の深夜にプレゼントを送り届けるのが僕の仕事だからね」

「なにそれ。アンタ、サンタさんってわけ?」

「サンタさんじゃないよ」

 イケメン少年は真面目な顔で答える。

「僕は、トナカイだ」

「トナカイぃ?」

「名前はキューピッド」

「キューピッドって、あの、羽の生えた赤ちゃん?」

「そう。そこからとってる。別の存在だけどね」

 イケメン少年――キューピッドはあくまでも真面目な顔で頷いた。

「……さて、と。お腹もふくれたし、そろそろ仕事に戻らないと」

「ほんとによく食べたわねぇ」

 と呆れ半分でキューピッドの前に積み上げられたポテトの空箱を見るアカネ。

「私のお小遣い、すっからかんだわ」

「……すまない。キミに代金を支払わなければならないのに……」

「あ~、いいの、いいの。アタシもアンタと話せて楽しかったし。自称サンタのイケメンなんて、なかなかいないタイプだもん」

「サンタじゃなくてトナカイだよ。……そのかわり、といってはなんだけど……」

 キューピッドは、青みがかった綺麗な瞳でアカネを真っ直ぐに見つめてきた。

「24日の夜に、キミの欲しいものを届けてあげる」

「あらあら。あくまでも『自分はサンタ』って設定でいくわけ?」

「トナカイだってば。さぁ、欲しいものをいってくれ」

「うーん……」

 欲しいもの、欲しいもの。
 アカネは思い巡らすが……。

「……特にないかなぁ」

「ブランド物のバッグとか、宝石とかは?」

「そういうのは自分でバイトして買うわよ」

「じゃあ、願い事は? 願いを叶える天使様に君の願い事を直接届けてあげるよ」

 ――お医者さんに、なりたい。特に、病気の子供を救うお医者さんに。そのために医大に入る学力が欲しい……。

 喉まで出かかったその言葉を、アカネは飲み込んだ。

「……願いを叶える天使様、か。でもいいや、自分の夢は自分で叶えたいのよ」

「困ったな。キミの願いを叶えられないんじゃ、僕は掟に反してしまう……」

「掟? なにそれ」

「人間に親切にされたら奇跡を返すんだ。それが妖精界の掟だ」

「よ、妖精界」

 思わず吹き出すアカネ。妖精界ときたもんだ、なんとまぁファンタジックな設定だろうか。
 クスクス笑いながら、アカネは言った。

「じゃあさ、それ、その奇跡を起こす権利さ。本当に奇跡が必要な誰かに譲るわ。それが私の願いってことで」

「……いいのかい?」

「もちろんよ」

 すると、キューピッドの目が優しそうに緩んだ。

「そうか、分かった。清き心を持つ者よ……、助けてくれたのがキミで良かった。キミにノエルの祝福を」

 ――ノエル。その単語に、アカネは小首を傾げる。聞き覚えのある単語だった。

「ノエル……?」

「クリスマスって意味だよ。ポテトをどうもありがとう、アカネ。いいクリスマスを」

「え、どうしてアタシの名前を……」

 そのとき。急に空っ風が吹き荒れて、窓がガタガタと揺れた。

「え……」

 一瞬目を離した隙に、イケメン少年の姿はすでになく。
 後に残されたのは、空っぽになったポテトの箱の山……。

「…………………………」

 しばらく呆然としていたアカネは、やがてスマホを取り出して写真を確認した。
 そこにはアカネが一人映っているだけだった。

「あー。本物かぁ」

 と、いうことは。彼が言っていたことは本当のことで。奇跡をくれるというのも、本当のことだったのだ……。

 ――ちょっと、もったいなかったかも。

「でも、まっ、いっか」

 アカネは窓の外に目をやる。

 サンタのトナカイが道を探していても、たぶんまったく違和感のない、晴れ渡った広い冬の空だった。


 24日の夜。奇跡が一つ、きっと誰かに届く。



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