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第2話 罠にかかったのは……
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一日の仕事を終え、ガチャリ、と鍵を開けて寝室に入るメリア。
(さーて、掛かってるかなー)
いつもならこのタイミングでベッドに下着のセットアップが置かれているので、犯人が捕まっているとしたら今なのだが……。
(リリアーヌに頼んだんだからトラップは完璧なはずよ。変態下着置きストーカー犯が今日に限って下着を置きに来ていない、とかでもないかぎり……)
だが静まりかえった暗い室内に、なんとなく嫌な予感がする。メリアはその感覚を抱えたままゆっくりとベッドに近づく。
そこには――
「え?」
なにもなかった。
いつもなら置かれているはずの下着が、ベッドの上になかったのである。
「どういうこと? いつもならここに……」
もしかしてどこかに落ちてるの?
詳しく調べようとベッドに近づいていくメリア。
とその時。
メリアの足が何かの線を踏みつけ……
「!?」
その瞬間。
床に隠されていた網がメリアの身体を一瞬にして包み込み、天井に引き上げた!
「ちょっ……ええっ!?」
驚くメリア。
(こんなトラップ仕掛けたっけ!?)
あ、リリアーヌだ! と思い当たるが時すでに遅し。
リリアーヌに頼んだトラップに自分がかかってしまったのだ。
「……ふむ」
不意に、男の声がした。
「え?」
「まさか、本当に引っかかるとは思いませんでしたよ。自分の仕掛けた罠なのに……」
「誰!?」
「僕ですか?」
室内にパッと魔法の明かりが灯る。そして物陰から出て来たのは――
その顔に、思わずドキッとしてしまうメリア。
「グ、グラーツ……!」
「おや、僕の名前を知っているのですか。光栄だなぁ」
「そりゃ……」
仮想ライバルにしているから覚えていた、なんて恥ずかしくて言えない。だがかわりに叫んだ。
「っていうかあなた、その格好は何なのよ!?」
王立騎士団の新入り金髪碧眼イケメン騎士、グラーツ・ファツィオ。しかし彼の格好は変わっていた。
けっこう胸板の厚い筋肉質なグラーツが身につけているのは、薄緑色のブラジャーとショーツのセットアップだったのだ。しかもフリルとレースをたっぷり使った可愛いデザインの、見るからに高級品と分かるものである。
(こ、こいつ。見た目からして明らかに変態じゃないの……!)
こんな奴とは知らず仮想ライバルにしていた自分って、いったい。
「これですか」
グラーツはイケメン顔できっぱりと言い放った。
「僕が開発した男性用女性用下着です!」
「は?」
「僕が開発した下着です!」
「いま意図的に飛ばしたところを丁寧に言いなさい」
「男性用・女性用・下着、ですっ!」
「それよ! なんなの! それ!」
「女性用下着を男性が身につける場合、サイズ以外にもいろいろと変えなければならないことがあります。それを考慮し作ったのがこの男性用女性用下着というわけなんです」
「ていうか降ろしてくれる?」
網に包まれ天井から吊されたメリアは頼むが、しかしグラーツは首を横に振ったのだった。
「それには条件があります」
「は? 条件? 変態のくせに私に条件出すわけ?」
「ふふふ。その減らず口、嫌いじゃないですよ。いいですか、条件とは……」
一拍おいて、グラーツはまたイケメン顔をキリッとさせて言い放った。
「僕の作った下着を身につけたところを僕に見せて下さい! そして! 新たなる下着制作のためにデータをとらせてください!」
「……は?」
(えーっと……あっ、そうだったわ)
少し逡巡してからハッとする。
あまりのインパクトについすっ飛んでしまっていた。
そうだ、自分は毎日デリバリーされる下着を作った犯人を捕まえようとしてトラップを仕掛けてもらったのだった。
それで自分がトラップにかかってしまったが、犯人は自分から出てきてくれた。
目の前にいるのは明らかな変態……彼が下着の製作者なのだ。
まさか仮想ライバルが作っていたとは……!
というか仮想ライバルがどこに出しても恥ずかしくない変態だったとは!
もう何に驚いたらいいか分からない。
「ええと。確認するけど、あなたがこの下着を作ったのね?」
「そうです。僕のセットアップ、お気に召していただけましたか?」
そりゃもう、大のお気に入りである。
だがそれをここで認めるのも悔しい。
「くっ……ま、まあ、その。答えは持ち帰って検討させていただくわ」
「お断りの常套句……! 気に入っていただけなかったのですか……それは残念です」
「そ、そんな事はないんだけど……」
(どうしよう……。でも認めたら負けのような気がするし……)
メリアはただ唸るしかなかった。
(さーて、掛かってるかなー)
いつもならこのタイミングでベッドに下着のセットアップが置かれているので、犯人が捕まっているとしたら今なのだが……。
(リリアーヌに頼んだんだからトラップは完璧なはずよ。変態下着置きストーカー犯が今日に限って下着を置きに来ていない、とかでもないかぎり……)
だが静まりかえった暗い室内に、なんとなく嫌な予感がする。メリアはその感覚を抱えたままゆっくりとベッドに近づく。
そこには――
「え?」
なにもなかった。
いつもなら置かれているはずの下着が、ベッドの上になかったのである。
「どういうこと? いつもならここに……」
もしかしてどこかに落ちてるの?
詳しく調べようとベッドに近づいていくメリア。
とその時。
メリアの足が何かの線を踏みつけ……
「!?」
その瞬間。
床に隠されていた網がメリアの身体を一瞬にして包み込み、天井に引き上げた!
「ちょっ……ええっ!?」
驚くメリア。
(こんなトラップ仕掛けたっけ!?)
あ、リリアーヌだ! と思い当たるが時すでに遅し。
リリアーヌに頼んだトラップに自分がかかってしまったのだ。
「……ふむ」
不意に、男の声がした。
「え?」
「まさか、本当に引っかかるとは思いませんでしたよ。自分の仕掛けた罠なのに……」
「誰!?」
「僕ですか?」
室内にパッと魔法の明かりが灯る。そして物陰から出て来たのは――
その顔に、思わずドキッとしてしまうメリア。
「グ、グラーツ……!」
「おや、僕の名前を知っているのですか。光栄だなぁ」
「そりゃ……」
仮想ライバルにしているから覚えていた、なんて恥ずかしくて言えない。だがかわりに叫んだ。
「っていうかあなた、その格好は何なのよ!?」
王立騎士団の新入り金髪碧眼イケメン騎士、グラーツ・ファツィオ。しかし彼の格好は変わっていた。
けっこう胸板の厚い筋肉質なグラーツが身につけているのは、薄緑色のブラジャーとショーツのセットアップだったのだ。しかもフリルとレースをたっぷり使った可愛いデザインの、見るからに高級品と分かるものである。
(こ、こいつ。見た目からして明らかに変態じゃないの……!)
こんな奴とは知らず仮想ライバルにしていた自分って、いったい。
「これですか」
グラーツはイケメン顔できっぱりと言い放った。
「僕が開発した男性用女性用下着です!」
「は?」
「僕が開発した下着です!」
「いま意図的に飛ばしたところを丁寧に言いなさい」
「男性用・女性用・下着、ですっ!」
「それよ! なんなの! それ!」
「女性用下着を男性が身につける場合、サイズ以外にもいろいろと変えなければならないことがあります。それを考慮し作ったのがこの男性用女性用下着というわけなんです」
「ていうか降ろしてくれる?」
網に包まれ天井から吊されたメリアは頼むが、しかしグラーツは首を横に振ったのだった。
「それには条件があります」
「は? 条件? 変態のくせに私に条件出すわけ?」
「ふふふ。その減らず口、嫌いじゃないですよ。いいですか、条件とは……」
一拍おいて、グラーツはまたイケメン顔をキリッとさせて言い放った。
「僕の作った下着を身につけたところを僕に見せて下さい! そして! 新たなる下着制作のためにデータをとらせてください!」
「……は?」
(えーっと……あっ、そうだったわ)
少し逡巡してからハッとする。
あまりのインパクトについすっ飛んでしまっていた。
そうだ、自分は毎日デリバリーされる下着を作った犯人を捕まえようとしてトラップを仕掛けてもらったのだった。
それで自分がトラップにかかってしまったが、犯人は自分から出てきてくれた。
目の前にいるのは明らかな変態……彼が下着の製作者なのだ。
まさか仮想ライバルが作っていたとは……!
というか仮想ライバルがどこに出しても恥ずかしくない変態だったとは!
もう何に驚いたらいいか分からない。
「ええと。確認するけど、あなたがこの下着を作ったのね?」
「そうです。僕のセットアップ、お気に召していただけましたか?」
そりゃもう、大のお気に入りである。
だがそれをここで認めるのも悔しい。
「くっ……ま、まあ、その。答えは持ち帰って検討させていただくわ」
「お断りの常套句……! 気に入っていただけなかったのですか……それは残念です」
「そ、そんな事はないんだけど……」
(どうしよう……。でも認めたら負けのような気がするし……)
メリアはただ唸るしかなかった。
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