2 / 9
二
しおりを挟む(長引いちゃった…)
今日は予約がたくさん入っていたために残業状態だ。
ヒートを一週間前に控えたこの体調での残業と、番健診は、身体への負担が大きい。
いつも以上に疲れを感じていた。
…そうだ、ヒートどうしよう、忘れていたはずの問題を思い出す。
「今日はお疲れ様ーって、神崎くん少しお疲れ?」
「いや、そんなことはないです…。」
「そうなの?」
休憩室でお茶を飲んでいると立花さんがやってきて近くに座る。これ美味しいよ?と渡されたバームクーヘンをありがたく頂いて、口に入れる。
「それじゃあ、何か悩み事?」
首をこてん、と曲げる立花さんからいい香りがする。
「俺で良ければ、話聞くよ?」
優しい立花さんの雰囲気にやられて、事情を話してしまう。αでまだ番もいない人に、話すことではないなと思ったけれど、立花さんが凄く優しくしてくれるから、絆されてしまうのだ。
「そっか…それは大変だね…次のヒートを抑制剤無しか……」
「もしよかったらなんだけど…神崎くん、俺と一緒にヒート期間を過ごさない?」
「へ?」
「この前も思ったんだけど、神崎くんのヒート期間と俺のラット期間、被ってるよね?それならお互いに気兼ねなく過ごせるし、実は俺も最近ラットで悩んでて…神崎くんが一緒に過ごしてもらえると俺も嬉しいんだけど、駄目かな?」
(立花先生と、ヒート?!駄目じゃないです…!)
まさに渡りに舟。その話にすぐ乗ってしまった。
✿
…俺は今世界で一番幸せな男だ。
好きな人と、ヒートを一緒に過ごす約束を合法的にかわせた。
最高の気分だ。
まって、神崎くん可愛過ぎる。え、抱きしめてもいいかな?
そう。俺は神崎くんが、大好きなのだ。
もともと、俺のαとしての欲望というのは、可愛いΩちゃんをどろどろに愛して、尽くしてお世話して、自分の巣の中で安心して貰いたい、という、いわば愛したくて仕方がない、というものだった。
勿論、俺はαなので、Ωちゃんを気絶するまで抱き潰したいという欲求は常にある。しかし、俺は抱き潰したい気持ちと同じくらいΩちゃんのお世話をしつくしたいのだ。
…初めて神崎くんと出会ったときは衝撃だった。
見た目、タイプ。
フェロモン、タイプ。
しかも性格までドンピシャときた。
…もう、デロデロになっちゃうよね?
隠しきれない甘やかしたい欲で、神崎くんには優しく話しかけてしまう。お菓子とかもあげちゃうし。
それに、休憩室でも頻繁に話しかけてしまうので上司に注意されかける始末。
…そんなときに、神崎くんからヒートのお悩み相談だよ?
抑制剤無しで不安なんだって。
抱いてもらえばいいのにって言われちゃったんだって。
もうさぁ、立候補するしかないでしょ俺。
こんな可愛いΩの神崎くん、放ってなんかおけないでしょ。
俺自身もラット期間の欲望が高まり過ぎちゃって悩んでるのも確かだし、とりあえずアピールしたよね。
そしたら神崎くんがうんって、しかもちょっと嬉しそうにうんって……!
やったよ俺。当選!
神崎くんが来る前に、家を神崎くんヒート仕様にしなくては…!
母親がオメガだから、どういう準備をしておけばいいのかなんてことは昔から心得ている。
ヒート中はゼリーとかプリンとか、食べやすくて胃に優しいものを。
買い物なんて行けないから、かなり貯蓄しておかないとな。
あとは、ヒート中の、変えのシーツとか、下着。
フカフカのマットレスなども買い足さなければならない。
残業で疲れたことなんて忘れて、準備に没頭した。
6
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説

巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

きみはオメガ
モト
BL
隣に住む幼馴染の小次郎君は無表情。何を考えているのか長年ずっと傍にいる僕もよく分からない。
そんな中、僕がベータで小次郎君がアルファだと診断を受ける。診断結果を知った小次郎君は初めて涙を見せるが僕が言った一言で、君は安心した。
執着、幼馴染、オメガバース、アルファとベータ

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。

俺はつがいに憎まれている
Q.➽
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。
それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。
圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。
しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。
心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。
しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の
『君と出会いさえしなければ…』
という心無い言葉。
実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。
※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる