お世話したいαしか勝たん!

沙耶

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斗真は、悩んでいた。

最近、ヒートが辛すぎる。
もともと、ヒートのときにオメガ特性が出やすいタイプで日常的に強い抑制剤を服用していたのだが、最近どうも効かなくなり、こうしてかかりつけ医の元を訪ねた。
ずっと抑制剤で抑え込んでいることや、職場的にαに囲まれているのに、抱いてくれるαはいないというのが、どうも身体に堪えたらしい。
…まあ、想像通りなのだが…。

「次のヒートでは抑制剤を飲まないようにしてください。一度ヒートをリセットしましょう。抑制剤を服用せずに、ヒートを迎えたことは確かないですよね?」

「はい。初めてのときも抑制剤を使ったので…」

「そうでしたよね…。きっと辛いでしょうから、思い切ってαに抱いてもらうのも手ですよ。嫌かもしれませんけれど、実は一番シンプルで、効果も高い方法ですからね。」

……昔からお世話になっている初老のかかりつけ医にとうとう言われてしまった。

自分自身がオメガ科の医者であるということもあって、かかりつけ医の判断が全くおかしくなく、むしろ自分だってそう言うだろうという正しい判断をしていることもわかっている。

しかし、自分のヒートは抑制剤有りでも辛い。
その上、抱いてくれるαなんて、あても無い。

一体、僕はどうしたら良いのだろうか。

せっかく取った半休を思うように使い切れないまま、職場である病院へ斗真は戻っていた。


(今日は番健診担当か…)


よりにもよって…という気分だった。
番健診というのは、αとΩの番の健診である。

DVされていないかとか、きちんと番になれているかとかそういうことを確認する健診なのだ。

患者がαとΩのペアで来るために、医者もαとΩのペアで健診する。

α科とΩ科からローテーションで医者を出していくのだが、その当番に今日当たってしまった。


(僕のペアは誰だろう?)


シフト表を辿って、ペアに行き着く前に、声をかけられる。

「神崎くん。今日は俺とだよ?」


「あ、立花さん。よろしくお願いします」


「よろしくね。」


立花さん、というのは僕より2つ年上のαだ。

αなのに、威張ったりしないし、よく笑ってるし、とにかく優しくて、頼れる先生だ。

よかった、立花さんとだったら安心だ。

他の先生とペアでも、変わらずにしっかりとやるけれど少し怖いし、何よりフェロモンの相性が悪く居心地が悪いのだ。

それと比べて立花さんのフェロモンは性格の通り優しくて、いい香りで1つの診察室に居ても不快にならない。
居心地も良いので今日はラッキーと言える。

「一組目の番が一時からの予約なんだよね、神崎くん、来たばかりで申し訳ないけど、早速いいかな?」


「はい。大丈夫です。」

「よし、じゃあいこうか?」


立花さんの横をトコトコと歩いて、診察室に入り、早速診察を始めた。


「すみません、項の確認をさせてください。」

「えっ、項ですか?」

「はい、番になれているかどうかを確認するだけです。」

「え…」

「………」

こわいよ、何このα。すごく威嚇してくる…。
確かに番のオメガさん項見られるの嫌そうだし、僕も男だけどさ…その前にオメガだから、ね?素直に診させてよ。

…αの威嚇って怖い…。
思わず一歩後ろへと下がってしまう。

息が詰まる感じ…、こういう威嚇をされることは結構多いけど、この人のα性が強いのか、僕のヒートが近いからなのか、結構今日は苦しく感じる。

そんなときに、立花先生が間に入ってくれた。

「大丈夫ですから。番さんにおかしなことはしませんよ、確認したらすぐ終わりますから、ほら、旦那さんもそんなに威嚇しないであげてください。神崎先生はオメガ科なんです。神崎先生、大丈夫?」

「はい…。少し診察させてください。」


立花先生が睨みを効かせてくれている間に、Ωさんの項を見させてもらう。

おー!凄い。きれいな噛み跡だ。


「問題はありません。しっかりと番になれています。」

「よかったぁ。先生、ありがとうございました!」

うん、早くそのαさんを連れて帰ってください。

番を診察室から追い出したあと、立花先生と二人でため息をつく。


「全然なれないね…」
「本当、いつも大変です。」


「神崎くんはさ、今日みたいに独占欲の強いαは嫌?」

「いや、そんなことはないです。ただ、今日みたいに威嚇されるのが苦手なので。」

「そっか。今日は怖かったもんね。俺も久しぶりに睨んだよ。」

「立花先生がいてくれて、本当に助かりました。ありがとうございました。」

「いやいやいや、神崎くんだって大変だったでしょ。さっきはお疲れ。」


「立花先生、神崎先生、次の方お呼びしてもいいですか?」

「はい、大丈夫です。お願いします。」
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