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ジャスターズ編
謎の男
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ケインが去った後、何とも言えぬ空気を漂わせるエッヂの死体に、俺たちはまだ手を付けられていなかった。
「どうするよ。これ」
「ここに置いてくのもあれですね」
ラットとサンは、これをどうするか話し合っている。
俺的には、速急に燃やして消し去りたいが、そういう訳にもいかないだろう。
第一、本当に死んでいるのかすらわからない。
こいつには前科があるからな。
「とりあえず、生死を確認してみます」
トレントが能力でエッヂを囲う。
空気の流れを読んで、息をしているか確かめるのか。
これで死んでいたとしたら、ますます謎だぞ。
だったらなんで、今までは死ななかったんだってなる。
「あ、あの」
地面から絞り出した様な声が聞こえる。
見ると、そこにはチープが倒れていた。
「あ! すまんすまん忘れてた」
俺は自分の服をちぎり、布の様に変形させる。
そしてそれをチープに羽織らせた。
「ありがとうございます。まさか忘れられているとは、思いもしませんでしたが」
「マジですまんチープ!」
ケインとエッヂの方に意識を向き過ぎて、チープが何も着ていないという事を、完全に忘れていた。
「それはいいんですが、あっさりと殺すものですね」
「ああ、まさしく瞬殺だった」
俺たちがあれだけ手こずっていたエッヂを、たった2発、いや、実質1発で仕留めた。
ケインという人物が強過ぎるのか、能力者というのはあれだけ強くなれるものなのか。
それを理解するにはまだ、俺には知識が足りな過ぎる。
「死んでます」
まあ当然だよな。
首が取れても生きてたら、流石にチート過ぎるからな。
「……仕方ねえ。本部へ持ち帰るか」
「持ち帰ったとして、どうするんだ」
俺が質問すると、ラットは小さな舌打ちをする。
「知らねえよ。だが、能力者の死体は回収しねえと駄目なんだよ。モグラが出るからな」
「モグラ? あの野生動物の」
「そっちのモグラじゃねえ。ってかよく知ってんな。モグラなんて」
「私は初めて聞きました」
「俺もっす」
俺がたった1つ知っているものがあるだけで、こんなにも驚かれるのか。
どんだけ馬鹿だと思われてるんだよ。俺。
「まあいい。モグラってのは小規模組織でな。だがその活動は、非人道的としか言いようがない」
モグラは土の中に住んでる動物だろ?
そんな非人道なやつらに、モグラの名前を使ったら、モグラに失礼だろ。
まあ最近見ないけど。
「モグラは能力者の能力を取り出し、他の器に移し替える。つまり、人工的に能力者を作り出しているんだ」
「マジかよ」
「そんな……」
「そんな事出来るんですね」
予想以上に非人道的な事してたな。
俺はてっきり、能力者の死体を売買しているのかと思ってたんだが。
「もしかしたら、エッヂのこの能力も、モグラの手によるものかもしれねえしな」
「今まで、はっきりとした事例がある。って訳じゃないんだけどね。能力の複数持ちだったり、明らかに理屈に合わない能力の発現。例えばそうだな、キリングの銃とかだって、発端が分からない」
「とりあえず、そういう事してる奴らって訳だ」
能力の複数持ち。当てはまらない訳じゃない。
だが、俺に能力を植え付けられたって記憶はないし、生まれた時からずっと、長く身につけていた様に感じる。
それは多分、キリングも同じだと思うし。
「まあとにかく、運ぶのを手伝え。トレント、浮かせたり出来ねえのか?」
「出来るっす」
念力を使ったかの様に、トレントがエッヂの身体を浮かせる。
「チェイサー。頭は持て」
「えっ! 俺が? トレントが一緒に持てばいいじゃねえか」
「トレントが可哀想だろ」
「はあ? どういう感情してんだよ」
俺に情けはないのか。
「別に俺が持つっすよ」
「いいや、チェイサーに持たせる」
「なんのこだわりだよ」
「まあまあ、落ち着いて下さい。私が持ちます」
チープが屈み、エッヂの頭に触れる。
「……冷たい」
人に伝える為でなく、勝手に出たであろう声を、俺は聞いた。
「冷たい?」
「どうした? 冷たいって言ったのか」
俺が口に出した事で、それはラットに伝わる。
「ものの数分だろ? そんな速く冷たくはならねえはずだ」
ラットがエッヂの頭へと近づく。
「いえ、完全に冷えています。まるで最初からこうだったみたいに」
「どれ。貸してみろ」
エッヂの頭を、バケツリレーをするみたいに手渡す。
よく平然と持てるな……。
「——! 冷てえ。ついさっき死んだとは思えねえ程に」
「死体って、案外速く冷えるんだな」
「馬鹿言うな。ここまでなるのに1日は掛かる。いや待てよ、こいつの皮膚腐ってねえか?」
見ると、エッヂの皮膚は崩壊しており、所々剥がれ落ちている。
「これはマイクロデビルの影響じゃねえか?」
「確かにマイクロデビルの特徴としては、間違ってはいねえ。だが、マイクロデビルは内側からだ。これは外側から、外気に触れてる部分からだぞ」
それってそんなに違いがあるのか?
とは言いにくい状況だった。
と言うより、別に言わなくてもいいやと思った。
言ったとしても、特に何かが変わる訳じゃない。
知識量はあっちの方が上な訳だし、ここは素直に聞き流すか。
「あれれ。そっちが負けちったか」
一切の気配、足音を響かせずに、トレント程の身長の男が、俺の横に立っていた。
「ん? ああどうも」
男もこちらを向き、挨拶をしてくる。
「ど、どうも」
この人もジャスターズの人間だろうか。
それにしては身なりが貧しく、髪の毛もボサボサだし、服だって破けてる。これがダメージなんとかってやつか。
「誰だお前」
ラットが立ち上がり、男に近づく。
「ここは一般人が入る場所じゃねえぞ」
「ありゃ、すいませんね。何かの撮影かと。ってそれ、頭ですか!」
「ああ、刺激が強かったか」
「随分と凝ってますね。ではでは自分はこれで。撮影頑張ってくだせえ」
そう言うと男は踵を返し、本部とは真逆の方へ歩いていく。
「呑気なやつだったな」
「それにしても、奇跡的に生き残ったんでしょうか。あの男」
「どうせ家で居眠りでもしてたんだろうよ」
ラットは再び頭を調べる。
後ろでトレントが、いつまで持ち上げてればいいんだ。みたいな顔をしているが、俺はそれをスルーし、なんとなくポケットに手を入れる。
「ん? なんだこれ」
そこには紙が入っており、こう書かれていた。
ザン・モルセントリク
ナインハーズによろしく
俺が後ろを向くも、男は既にいなくなっていた。
「どうするよ。これ」
「ここに置いてくのもあれですね」
ラットとサンは、これをどうするか話し合っている。
俺的には、速急に燃やして消し去りたいが、そういう訳にもいかないだろう。
第一、本当に死んでいるのかすらわからない。
こいつには前科があるからな。
「とりあえず、生死を確認してみます」
トレントが能力でエッヂを囲う。
空気の流れを読んで、息をしているか確かめるのか。
これで死んでいたとしたら、ますます謎だぞ。
だったらなんで、今までは死ななかったんだってなる。
「あ、あの」
地面から絞り出した様な声が聞こえる。
見ると、そこにはチープが倒れていた。
「あ! すまんすまん忘れてた」
俺は自分の服をちぎり、布の様に変形させる。
そしてそれをチープに羽織らせた。
「ありがとうございます。まさか忘れられているとは、思いもしませんでしたが」
「マジですまんチープ!」
ケインとエッヂの方に意識を向き過ぎて、チープが何も着ていないという事を、完全に忘れていた。
「それはいいんですが、あっさりと殺すものですね」
「ああ、まさしく瞬殺だった」
俺たちがあれだけ手こずっていたエッヂを、たった2発、いや、実質1発で仕留めた。
ケインという人物が強過ぎるのか、能力者というのはあれだけ強くなれるものなのか。
それを理解するにはまだ、俺には知識が足りな過ぎる。
「死んでます」
まあ当然だよな。
首が取れても生きてたら、流石にチート過ぎるからな。
「……仕方ねえ。本部へ持ち帰るか」
「持ち帰ったとして、どうするんだ」
俺が質問すると、ラットは小さな舌打ちをする。
「知らねえよ。だが、能力者の死体は回収しねえと駄目なんだよ。モグラが出るからな」
「モグラ? あの野生動物の」
「そっちのモグラじゃねえ。ってかよく知ってんな。モグラなんて」
「私は初めて聞きました」
「俺もっす」
俺がたった1つ知っているものがあるだけで、こんなにも驚かれるのか。
どんだけ馬鹿だと思われてるんだよ。俺。
「まあいい。モグラってのは小規模組織でな。だがその活動は、非人道的としか言いようがない」
モグラは土の中に住んでる動物だろ?
そんな非人道なやつらに、モグラの名前を使ったら、モグラに失礼だろ。
まあ最近見ないけど。
「モグラは能力者の能力を取り出し、他の器に移し替える。つまり、人工的に能力者を作り出しているんだ」
「マジかよ」
「そんな……」
「そんな事出来るんですね」
予想以上に非人道的な事してたな。
俺はてっきり、能力者の死体を売買しているのかと思ってたんだが。
「もしかしたら、エッヂのこの能力も、モグラの手によるものかもしれねえしな」
「今まで、はっきりとした事例がある。って訳じゃないんだけどね。能力の複数持ちだったり、明らかに理屈に合わない能力の発現。例えばそうだな、キリングの銃とかだって、発端が分からない」
「とりあえず、そういう事してる奴らって訳だ」
能力の複数持ち。当てはまらない訳じゃない。
だが、俺に能力を植え付けられたって記憶はないし、生まれた時からずっと、長く身につけていた様に感じる。
それは多分、キリングも同じだと思うし。
「まあとにかく、運ぶのを手伝え。トレント、浮かせたり出来ねえのか?」
「出来るっす」
念力を使ったかの様に、トレントがエッヂの身体を浮かせる。
「チェイサー。頭は持て」
「えっ! 俺が? トレントが一緒に持てばいいじゃねえか」
「トレントが可哀想だろ」
「はあ? どういう感情してんだよ」
俺に情けはないのか。
「別に俺が持つっすよ」
「いいや、チェイサーに持たせる」
「なんのこだわりだよ」
「まあまあ、落ち着いて下さい。私が持ちます」
チープが屈み、エッヂの頭に触れる。
「……冷たい」
人に伝える為でなく、勝手に出たであろう声を、俺は聞いた。
「冷たい?」
「どうした? 冷たいって言ったのか」
俺が口に出した事で、それはラットに伝わる。
「ものの数分だろ? そんな速く冷たくはならねえはずだ」
ラットがエッヂの頭へと近づく。
「いえ、完全に冷えています。まるで最初からこうだったみたいに」
「どれ。貸してみろ」
エッヂの頭を、バケツリレーをするみたいに手渡す。
よく平然と持てるな……。
「——! 冷てえ。ついさっき死んだとは思えねえ程に」
「死体って、案外速く冷えるんだな」
「馬鹿言うな。ここまでなるのに1日は掛かる。いや待てよ、こいつの皮膚腐ってねえか?」
見ると、エッヂの皮膚は崩壊しており、所々剥がれ落ちている。
「これはマイクロデビルの影響じゃねえか?」
「確かにマイクロデビルの特徴としては、間違ってはいねえ。だが、マイクロデビルは内側からだ。これは外側から、外気に触れてる部分からだぞ」
それってそんなに違いがあるのか?
とは言いにくい状況だった。
と言うより、別に言わなくてもいいやと思った。
言ったとしても、特に何かが変わる訳じゃない。
知識量はあっちの方が上な訳だし、ここは素直に聞き流すか。
「あれれ。そっちが負けちったか」
一切の気配、足音を響かせずに、トレント程の身長の男が、俺の横に立っていた。
「ん? ああどうも」
男もこちらを向き、挨拶をしてくる。
「ど、どうも」
この人もジャスターズの人間だろうか。
それにしては身なりが貧しく、髪の毛もボサボサだし、服だって破けてる。これがダメージなんとかってやつか。
「誰だお前」
ラットが立ち上がり、男に近づく。
「ここは一般人が入る場所じゃねえぞ」
「ありゃ、すいませんね。何かの撮影かと。ってそれ、頭ですか!」
「ああ、刺激が強かったか」
「随分と凝ってますね。ではでは自分はこれで。撮影頑張ってくだせえ」
そう言うと男は踵を返し、本部とは真逆の方へ歩いていく。
「呑気なやつだったな」
「それにしても、奇跡的に生き残ったんでしょうか。あの男」
「どうせ家で居眠りでもしてたんだろうよ」
ラットは再び頭を調べる。
後ろでトレントが、いつまで持ち上げてればいいんだ。みたいな顔をしているが、俺はそれをスルーし、なんとなくポケットに手を入れる。
「ん? なんだこれ」
そこには紙が入っており、こう書かれていた。
ザン・モルセントリク
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俺が後ろを向くも、男は既にいなくなっていた。
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