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翌朝、目覚めてからバーバラハ悶々としている。また露天風呂に行きたいけど、陛下がまた来られるかもしれない。
朝から目覚めの酒は飲まないからいいだろうけど、またもし陛下からあれこれ詮索されたら困る。
だいたい昨夜は、湯上りに王妃主催の飲み会になってしまったことで、侍女からさんざん絞られたのだ。
だって、陛下が期待を込めた目でウルウルしながら見てこられるものだから、つい……。
仕方なくお部屋に付いている狭い露天風呂で辛抱するか。
バーバラは前世の頃から部屋に付いている露天風呂より、大浴場のほうが好き。知らない人とおしゃべりするのが好きなのだ。
それにここなら侍女たちの目もあるから、陛下もまさかむき出しでは入ってこないだろう。
しかしその考えが甘いと知ることに時間はかからなかった。
昨日のように、当然とばかりに入ってこられ、しかも
「今日は、あのドリンクがないのか?」
陛下はバーバラ目的ではなく日本酒が目当てだったことがわかり、怒りで震えが止まらない。
「あのドリンクは疲れを取るための秘薬でございますれば、朝から、いただくものでは、ございません。」
「ああ、通りで今朝はカラダが軽いのか!」
陛下は左掌を上に広げ、右こぶしでポンと打つ。
「湯上りのあのエールに似た飲み物もそのためのものか?なんか今朝からスッキリして気分がいいのだ。」
「あれはその効果ももちろんありますが、温泉で火照ったカラダを一気に冷ます爽快感が何とも言えないのです。」
「ああ、妃。いや、バービー、君はなんて素晴らしい女性なんだ。愛しているよ。」
陛下は露天に浸かりながら、バーバラのカラダをまさぐられる。
「きょっ、今日は伯爵夫人とお茶会がありますので、ご容赦くださいませ。」
「うむ。聞いている。それとサマリーの奴が、バービーに昨日のエールとドリンクについて質問したいと面会を求めておったわ。」
湯の中でバーバラはビクンと反応してしまう。
それを陛下は面白そうにバーバラの首筋にキスを落として、さっさと上がられてしまった。
陛下は昨日の浴衣をそのまま羽織り、部屋へ戻って行かれる。
「ふぅーっ。」
ため息をひとつついて、バーバラもあがる。
こういう時は、アレね。アイスクリーム化ソフトクリームが食べたいと思うと、また目の前にコーン付きのソフトクリームが出てくる。
なんか陛下から10万金貨を貰った途端できるようになったスキル?のようなもの?便利ね。いつも通り何かわからないけど考えない。
浴衣を着て、椅子に腰かけぺろぺろとソフトクリームを舐めていたら、侍女たちが物欲しそうに見てきたので、
「あなたも食べる?」
「お妃さま、それはいったいどのような食べ物なのですか?」
「これは、牛の乳と卵の黄身の部分に砂糖を加えたものを冷やして固めたものよ。とっても美味しいから食べてみて。」
侍女の人数分のソフトクリームが出てくる。
「さ。早く召し上がってちょうだい。溶けちゃうわ。」
侍女の一人が恐る恐る手を伸ばし、バーバラと同じように舌先で舐めてみると、本当に舌の上ですぐ溶けなくなってしまう。
あとからほんのり甘みが来て、冷たさと乳のにおいと甘さでやめられなくなる美味しさ。
みんな無口になり、一生懸命ソフトクリームを舐める。中には最後のコーンの中のクリームまで舌を延ばして取ろうとしているが、
「最後になれば、この台のコーンごとバリバリと食べてしまえるのよ。」
「なんと!便利なお菓子ですわね。」
「お妃さま、美味しかったですわ。ごちそうさまでした。」
「くれぐれも陛下には内緒にしてね。」
「「「「「はい。」」」」」
内緒でアイスクリームを食べてからと言うもの、侍女たちとの距離が一気に縮まった気がする。
殿方がお酒を飲むのと同じで一種の妙な連帯感が生まれる。ソフトクリームが繋いだ縁と言うよりは、何かしらの賄賂に近い意味合いかな?
それからは割と自由に行動ができたので、気にもしていなかったのだが、王妃殿下のお傍近くにお仕えしていると時折、王妃様より珍しいお菓子を頂けると侍女の間では噂になってしまう。
その噂のせいで、伯爵夫人が窮地に立たされるということまで、気が回らなかったのだ。
伯爵夫人はお茶会に出すお菓子を苦労されていた。旅先なのに、王妃殿下が珍しいお菓子をお持ちとは?どういった菓子か内容がわからない。
夫人はお茶会前に伯爵が妃殿下に面会を申し込まれていることに便乗し、同行を願う。少しでも王妃様のお菓子の情報が欲しい。その一心で、今、同席が叶ったわけだが、話はお菓子のことではなく湯上りエールと入浴中のドリンクのことばかり。
バーバラは長い話は苦手で、だんだんめんどくさくなる。
「要するにサマリー伯爵様は、入浴中の露店で飲むドリンクと湯上りに呑むエールもどきのことでございますね?それで令夫人は、入浴前と入浴後のお菓子についてでございますか?」
「「え!」」
「恐れながら妃殿下、入浴前のお菓子とは?」
「あれ?その話ではないの?お風呂に入る前は甘いものを取ってからでないと、入浴中に低血糖を起こし、最悪、昏倒してしまうこともあるから……の話ではないのかしら?」
「「ええーっ!!」」
「入浴前にお菓子を食べることは重要なことよ。この領地は温泉が湧きあがっているのに、大事な命を守って差し上げてね。また、温泉は入り続けることにより、病気も癒える。リウマチ、神経痛、皮膚病、婦人病などが効能としてあるみたいよ。詳しくはよくわからないけどね。」
「いえいえ、それだけで十分でございます。王妃様。」
「なんだか妻が急に物知りになったみたいで、俺は信頼しているのだ。」
ノックもせずに陛下が入ってきて、当然のようにバーバラの横に座る。
「今から風呂に入るというのはどうだ?百聞は一見に如かずだろ?その妃が言っていた入浴前の甘いもののことも気になるしな。」
バーバラは考え込む、この世界に温泉饅頭はない。素早く血糖値を上げる食べ物とは?アレしか思い浮かばない!でもこの世界にもし、まだなかったら大騒ぎになるかも?
なったらなった時、考えればいい。今は陛下もいらっしゃるのだから何かあれば陛下はきっとお守りしてくださるはず。
ええいままよ!とばかりに、チョコレートを出す。黒っぽい塊は、どう見ても何かの糞にしか見えなくもない。
「え?これ?」
その場にいる全員がドン引きしているのがわかる。でもこれぐらいしか思いつかなかったから。とりあえず、その中の1個を取り、口に放り込む。
「うーん。やっぱり美味しいわ。」
バーバラは侍女に勧めると、みんなソフトクリームのことがあるから率先して、皿に手を伸ばす。
「本当っ!王妃様から頂くお菓子は何でも美味しいですわ。」
「甘くて、口に入れた途端、蕩けます。」
侍女たちが口々に褒めるので、陛下も一口に入れる。
「うまい!これはこれで菓子と言うより酒の肴にもなるな。」
「ミルク、ビター、ブラックと3種類あります。今あるのはミルクで一番誰にでも合う味です。これがビターでちょっと苦みがありますが、悪くはないです。そしてこちらがブラック、お酒のアテにされるのであれば甘みを抑えたほうがいいでしょう。」
「さすが俺の愛するバービーだ。どこからこんな美味しいものを用意した?それにこれはなんという菓子だ?」
「これはカカオ豆を原料としたチョコレートというものです。これをそれぞれ食べてから露天風呂にお入りください。途中で気分が悪くなることは絶対にありません。チョコレートは様々な種類があり、中にはフルーツやお酒が仕込んであるのもございます。」
陛下とサマリー様にウィスキーボンボンを渡す。
「うまい!中の酒を思う存分飲んでみたくなるような味だな。」
伯爵夫人は青ざめ、
「どうかこのお菓子を融通していただくわけにはまいりませんでしょうか?」
気が付くと伯爵夫人は震えながら、バーバラに跪いている。
え?これ温泉饅頭のかわりよ?
「わたくしの開くお茶会に出しとう存じます。お茶会にはほかの貴族令夫人が来られますが、いつも田舎菓子とバカにされています。でも、このお菓子を出せばきっと悪評が消えてなくなるでしょう。もちろん王妃殿下からの頂き物ですと言えば、さらに格が上がります。」
バーバラは母がいつもお茶会のお菓子に苦労していたことを知っている。どこにでも悪口を言う小姑がいるものだと思う。
あの時、今の技が使えたら、きっと母を楽にしてあげられたと思う。
「わかりましたわ。ケーキにクッキーに応用できるチョコレートの粉を差し上げましょう。もちろん、チョコレートもお好きなだけ差し上げますわ。」
ココア缶を伯爵夫人の前に出し、この中の粉をケーキ、クッキーの生地に混ぜれば、今まで誰も食べたことがないものができますよ。と助言を添える。
そしてお茶会の会場に、これでもか!と言うような量のチョコレートを出す。
「こんなに……!ありがとう存じます。この御恩は生涯忘れません。」
また、大げさなことを言われ困惑する。
伯爵邸の厨房に行き、さらに3缶のココア缶を出す。これだけあれば、次のお茶会にでも使えるだろう。
その間に陛下と伯爵様は露天風呂に入られるので、湯桶に日本酒と杯を二つ用意する。今日は徳利に入れず、竹筒の趣向にする。徳利では1合しか入らないから、竹筒にすれば2合ぐらい余裕で入る。
毒見役と護衛の分も用意し、お手伝いをするために、お茶会会場へ向かう。
バーバラは前世の知識を生かし、盛り付けや飾りつけを手伝う。伯爵夫人は、恐縮し切りだけど、バーバラは久しぶりに実家のお茶会を手伝っているような錯覚を覚え、懐かしいと喜んでしている。
バーバラが伯爵家のお茶会をお手伝うものだから、侍女たちもまた手伝うことになり、思いがけずに早くできたので、ご褒美にどんなおやつを出そうかと思案する。
そうこうしているとお腹が空いてきたので、簡単につまめるフルーツサンドを出すことにしたら、侍女も伯爵夫人も目を輝かせる。
え?コレ珍しいものだったかしら?
この世界もサンドイッチはあるが、パンが硬い雑穀パンが主流だったことを忘れていた。白くて柔らかな食パンなど、この世界に存在しない。まして果物を挟むなどと言う発想がないらしい。
前世ならコンビニにでも売っているごくありふれたスイーツがこの世界では珍しい美味しいものとして通るという違和感がある。
「王妃様スバらしいアイデアですわ。コレもお茶会にお出ししてもいいかしら?」
「ええ、構わないけど、それならみんなの食べる分が……、あ、でもいいわよ。まだまだあるから皆さんでお味見しましょう。」
バーバラが出すもの出すものすべてお茶会用のお菓子となる。別にいいけど、わたくしのおやつはどうなるの?
バーバラは思案した挙句、アフタヌーンティーセットを思い浮かべる。あれぐらいガッツリ食べたいとただ願っただけ。ただここで出すのはやめよう。なぜか異空間の中に入っているけど、また出して取られでもしたら、元も子もない。
自室に戻ってこっそりいただこうと決めてからは行動が早い。
「わたくしはこれで。あとはウチの侍女をお使いください。」
バーバラが籍を立つと、フルーツサンドを頬張っていた侍女たちが一斉に立ち上がる。
「あなたがたはいいのよ。ゆっくり召し上がってくださいな。」
そうは言っても、王妃殿下を一人で帰らせるわけにはいかないと、なぜか料理長に伯爵夫人までくっついてくる。
んもう!鬱陶しいったら、ありゃしない。
王妃様だけが美味しいもの食べるなんて、だめと思っているかどうかわからないけど、とにかく自室までは戻ってこれた。
仕方なく、人数分のアフタヌーンティーセットを出すバーバラ。
食べるものを身分という壁だけで、差別することは嫌いだから。
「急にコレが食べたくなって、戻ってきましたのよ。コレはアフタヌーンティーセットと言って、下から順番に食べるルールがあります。今日はアイスティーの気分だったので、アイスティーにしました。温かいスープもありますから寒い人はスープで温まってください。では、どうぞ。」
バーバラがしゃべり終わった後、一斉にフォークとナイフの音がする。
こんな豪華な料理を初めて見た。料理長も目を白黒させて驚いている様子。
前世では簡単な軽食だったはずだけど……?
ただお値段が少々難だったけど、社長令嬢だった前世では、どうってことないものだった。
陛下と伯爵様はまだ露天風呂の中にいらっしゃる。
あとで陛下の護衛に聞いた話では、露天風呂で酒盛りになったらしい。やっぱりね。
朝から目覚めの酒は飲まないからいいだろうけど、またもし陛下からあれこれ詮索されたら困る。
だいたい昨夜は、湯上りに王妃主催の飲み会になってしまったことで、侍女からさんざん絞られたのだ。
だって、陛下が期待を込めた目でウルウルしながら見てこられるものだから、つい……。
仕方なくお部屋に付いている狭い露天風呂で辛抱するか。
バーバラは前世の頃から部屋に付いている露天風呂より、大浴場のほうが好き。知らない人とおしゃべりするのが好きなのだ。
それにここなら侍女たちの目もあるから、陛下もまさかむき出しでは入ってこないだろう。
しかしその考えが甘いと知ることに時間はかからなかった。
昨日のように、当然とばかりに入ってこられ、しかも
「今日は、あのドリンクがないのか?」
陛下はバーバラ目的ではなく日本酒が目当てだったことがわかり、怒りで震えが止まらない。
「あのドリンクは疲れを取るための秘薬でございますれば、朝から、いただくものでは、ございません。」
「ああ、通りで今朝はカラダが軽いのか!」
陛下は左掌を上に広げ、右こぶしでポンと打つ。
「湯上りのあのエールに似た飲み物もそのためのものか?なんか今朝からスッキリして気分がいいのだ。」
「あれはその効果ももちろんありますが、温泉で火照ったカラダを一気に冷ます爽快感が何とも言えないのです。」
「ああ、妃。いや、バービー、君はなんて素晴らしい女性なんだ。愛しているよ。」
陛下は露天に浸かりながら、バーバラのカラダをまさぐられる。
「きょっ、今日は伯爵夫人とお茶会がありますので、ご容赦くださいませ。」
「うむ。聞いている。それとサマリーの奴が、バービーに昨日のエールとドリンクについて質問したいと面会を求めておったわ。」
湯の中でバーバラはビクンと反応してしまう。
それを陛下は面白そうにバーバラの首筋にキスを落として、さっさと上がられてしまった。
陛下は昨日の浴衣をそのまま羽織り、部屋へ戻って行かれる。
「ふぅーっ。」
ため息をひとつついて、バーバラもあがる。
こういう時は、アレね。アイスクリーム化ソフトクリームが食べたいと思うと、また目の前にコーン付きのソフトクリームが出てくる。
なんか陛下から10万金貨を貰った途端できるようになったスキル?のようなもの?便利ね。いつも通り何かわからないけど考えない。
浴衣を着て、椅子に腰かけぺろぺろとソフトクリームを舐めていたら、侍女たちが物欲しそうに見てきたので、
「あなたも食べる?」
「お妃さま、それはいったいどのような食べ物なのですか?」
「これは、牛の乳と卵の黄身の部分に砂糖を加えたものを冷やして固めたものよ。とっても美味しいから食べてみて。」
侍女の人数分のソフトクリームが出てくる。
「さ。早く召し上がってちょうだい。溶けちゃうわ。」
侍女の一人が恐る恐る手を伸ばし、バーバラと同じように舌先で舐めてみると、本当に舌の上ですぐ溶けなくなってしまう。
あとからほんのり甘みが来て、冷たさと乳のにおいと甘さでやめられなくなる美味しさ。
みんな無口になり、一生懸命ソフトクリームを舐める。中には最後のコーンの中のクリームまで舌を延ばして取ろうとしているが、
「最後になれば、この台のコーンごとバリバリと食べてしまえるのよ。」
「なんと!便利なお菓子ですわね。」
「お妃さま、美味しかったですわ。ごちそうさまでした。」
「くれぐれも陛下には内緒にしてね。」
「「「「「はい。」」」」」
内緒でアイスクリームを食べてからと言うもの、侍女たちとの距離が一気に縮まった気がする。
殿方がお酒を飲むのと同じで一種の妙な連帯感が生まれる。ソフトクリームが繋いだ縁と言うよりは、何かしらの賄賂に近い意味合いかな?
それからは割と自由に行動ができたので、気にもしていなかったのだが、王妃殿下のお傍近くにお仕えしていると時折、王妃様より珍しいお菓子を頂けると侍女の間では噂になってしまう。
その噂のせいで、伯爵夫人が窮地に立たされるということまで、気が回らなかったのだ。
伯爵夫人はお茶会に出すお菓子を苦労されていた。旅先なのに、王妃殿下が珍しいお菓子をお持ちとは?どういった菓子か内容がわからない。
夫人はお茶会前に伯爵が妃殿下に面会を申し込まれていることに便乗し、同行を願う。少しでも王妃様のお菓子の情報が欲しい。その一心で、今、同席が叶ったわけだが、話はお菓子のことではなく湯上りエールと入浴中のドリンクのことばかり。
バーバラは長い話は苦手で、だんだんめんどくさくなる。
「要するにサマリー伯爵様は、入浴中の露店で飲むドリンクと湯上りに呑むエールもどきのことでございますね?それで令夫人は、入浴前と入浴後のお菓子についてでございますか?」
「「え!」」
「恐れながら妃殿下、入浴前のお菓子とは?」
「あれ?その話ではないの?お風呂に入る前は甘いものを取ってからでないと、入浴中に低血糖を起こし、最悪、昏倒してしまうこともあるから……の話ではないのかしら?」
「「ええーっ!!」」
「入浴前にお菓子を食べることは重要なことよ。この領地は温泉が湧きあがっているのに、大事な命を守って差し上げてね。また、温泉は入り続けることにより、病気も癒える。リウマチ、神経痛、皮膚病、婦人病などが効能としてあるみたいよ。詳しくはよくわからないけどね。」
「いえいえ、それだけで十分でございます。王妃様。」
「なんだか妻が急に物知りになったみたいで、俺は信頼しているのだ。」
ノックもせずに陛下が入ってきて、当然のようにバーバラの横に座る。
「今から風呂に入るというのはどうだ?百聞は一見に如かずだろ?その妃が言っていた入浴前の甘いもののことも気になるしな。」
バーバラは考え込む、この世界に温泉饅頭はない。素早く血糖値を上げる食べ物とは?アレしか思い浮かばない!でもこの世界にもし、まだなかったら大騒ぎになるかも?
なったらなった時、考えればいい。今は陛下もいらっしゃるのだから何かあれば陛下はきっとお守りしてくださるはず。
ええいままよ!とばかりに、チョコレートを出す。黒っぽい塊は、どう見ても何かの糞にしか見えなくもない。
「え?これ?」
その場にいる全員がドン引きしているのがわかる。でもこれぐらいしか思いつかなかったから。とりあえず、その中の1個を取り、口に放り込む。
「うーん。やっぱり美味しいわ。」
バーバラは侍女に勧めると、みんなソフトクリームのことがあるから率先して、皿に手を伸ばす。
「本当っ!王妃様から頂くお菓子は何でも美味しいですわ。」
「甘くて、口に入れた途端、蕩けます。」
侍女たちが口々に褒めるので、陛下も一口に入れる。
「うまい!これはこれで菓子と言うより酒の肴にもなるな。」
「ミルク、ビター、ブラックと3種類あります。今あるのはミルクで一番誰にでも合う味です。これがビターでちょっと苦みがありますが、悪くはないです。そしてこちらがブラック、お酒のアテにされるのであれば甘みを抑えたほうがいいでしょう。」
「さすが俺の愛するバービーだ。どこからこんな美味しいものを用意した?それにこれはなんという菓子だ?」
「これはカカオ豆を原料としたチョコレートというものです。これをそれぞれ食べてから露天風呂にお入りください。途中で気分が悪くなることは絶対にありません。チョコレートは様々な種類があり、中にはフルーツやお酒が仕込んであるのもございます。」
陛下とサマリー様にウィスキーボンボンを渡す。
「うまい!中の酒を思う存分飲んでみたくなるような味だな。」
伯爵夫人は青ざめ、
「どうかこのお菓子を融通していただくわけにはまいりませんでしょうか?」
気が付くと伯爵夫人は震えながら、バーバラに跪いている。
え?これ温泉饅頭のかわりよ?
「わたくしの開くお茶会に出しとう存じます。お茶会にはほかの貴族令夫人が来られますが、いつも田舎菓子とバカにされています。でも、このお菓子を出せばきっと悪評が消えてなくなるでしょう。もちろん王妃殿下からの頂き物ですと言えば、さらに格が上がります。」
バーバラは母がいつもお茶会のお菓子に苦労していたことを知っている。どこにでも悪口を言う小姑がいるものだと思う。
あの時、今の技が使えたら、きっと母を楽にしてあげられたと思う。
「わかりましたわ。ケーキにクッキーに応用できるチョコレートの粉を差し上げましょう。もちろん、チョコレートもお好きなだけ差し上げますわ。」
ココア缶を伯爵夫人の前に出し、この中の粉をケーキ、クッキーの生地に混ぜれば、今まで誰も食べたことがないものができますよ。と助言を添える。
そしてお茶会の会場に、これでもか!と言うような量のチョコレートを出す。
「こんなに……!ありがとう存じます。この御恩は生涯忘れません。」
また、大げさなことを言われ困惑する。
伯爵邸の厨房に行き、さらに3缶のココア缶を出す。これだけあれば、次のお茶会にでも使えるだろう。
その間に陛下と伯爵様は露天風呂に入られるので、湯桶に日本酒と杯を二つ用意する。今日は徳利に入れず、竹筒の趣向にする。徳利では1合しか入らないから、竹筒にすれば2合ぐらい余裕で入る。
毒見役と護衛の分も用意し、お手伝いをするために、お茶会会場へ向かう。
バーバラは前世の知識を生かし、盛り付けや飾りつけを手伝う。伯爵夫人は、恐縮し切りだけど、バーバラは久しぶりに実家のお茶会を手伝っているような錯覚を覚え、懐かしいと喜んでしている。
バーバラが伯爵家のお茶会をお手伝うものだから、侍女たちもまた手伝うことになり、思いがけずに早くできたので、ご褒美にどんなおやつを出そうかと思案する。
そうこうしているとお腹が空いてきたので、簡単につまめるフルーツサンドを出すことにしたら、侍女も伯爵夫人も目を輝かせる。
え?コレ珍しいものだったかしら?
この世界もサンドイッチはあるが、パンが硬い雑穀パンが主流だったことを忘れていた。白くて柔らかな食パンなど、この世界に存在しない。まして果物を挟むなどと言う発想がないらしい。
前世ならコンビニにでも売っているごくありふれたスイーツがこの世界では珍しい美味しいものとして通るという違和感がある。
「王妃様スバらしいアイデアですわ。コレもお茶会にお出ししてもいいかしら?」
「ええ、構わないけど、それならみんなの食べる分が……、あ、でもいいわよ。まだまだあるから皆さんでお味見しましょう。」
バーバラが出すもの出すものすべてお茶会用のお菓子となる。別にいいけど、わたくしのおやつはどうなるの?
バーバラは思案した挙句、アフタヌーンティーセットを思い浮かべる。あれぐらいガッツリ食べたいとただ願っただけ。ただここで出すのはやめよう。なぜか異空間の中に入っているけど、また出して取られでもしたら、元も子もない。
自室に戻ってこっそりいただこうと決めてからは行動が早い。
「わたくしはこれで。あとはウチの侍女をお使いください。」
バーバラが籍を立つと、フルーツサンドを頬張っていた侍女たちが一斉に立ち上がる。
「あなたがたはいいのよ。ゆっくり召し上がってくださいな。」
そうは言っても、王妃殿下を一人で帰らせるわけにはいかないと、なぜか料理長に伯爵夫人までくっついてくる。
んもう!鬱陶しいったら、ありゃしない。
王妃様だけが美味しいもの食べるなんて、だめと思っているかどうかわからないけど、とにかく自室までは戻ってこれた。
仕方なく、人数分のアフタヌーンティーセットを出すバーバラ。
食べるものを身分という壁だけで、差別することは嫌いだから。
「急にコレが食べたくなって、戻ってきましたのよ。コレはアフタヌーンティーセットと言って、下から順番に食べるルールがあります。今日はアイスティーの気分だったので、アイスティーにしました。温かいスープもありますから寒い人はスープで温まってください。では、どうぞ。」
バーバラがしゃべり終わった後、一斉にフォークとナイフの音がする。
こんな豪華な料理を初めて見た。料理長も目を白黒させて驚いている様子。
前世では簡単な軽食だったはずだけど……?
ただお値段が少々難だったけど、社長令嬢だった前世では、どうってことないものだった。
陛下と伯爵様はまだ露天風呂の中にいらっしゃる。
あとで陛下の護衛に聞いた話では、露天風呂で酒盛りになったらしい。やっぱりね。
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