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 わたくしはこの結婚で幸せを掴むつもりだったのに、実際のバトラーとの結婚が生易しいものではなかった。

 結婚して王妃となったわたくしは、後宮に放り込まれたんだけど、ここが……なんといえばいいか前世の大奥のような所と言えばいいのか?

 いや、大奥はまだ正妻に対して、というか正妻のために最優先で傅いてくれるのだが、ここ後宮は王妃といえども、自分たちのライバルが一人増えたような感覚でしかない。

 要するに周りは皆、バトラーと寝たくて仕方がない欲求不満の女の巣だったわけで、王妃といえども新入り扱いは避けられなかったのだ。

 王妃と言う立場でありながら、嫁ぐ前の身分が大きく関わる。

 もし首尾よく国王のお手付きとなり男児を儲けたとしても、生母の身分が低いと王位継承権もままならないらしい。

 バーバラは伯爵令嬢だったので、まぁまぁと言ったところだが、ハーバネスに嫁いだ男爵令嬢のリリアーヌだったか?あの女が、後宮へ来たら確実にイジメられ、もし男児を産んでも取り上げられ折檻死させられるか、その男児はもろとも闇から闇へ。が日常茶飯事に行われる。

 思えば、なんて恐ろしいところへ来たものだと思う。こんな話いくら聞いていないと言っても通じない。

 後宮の女たちはそれほど必死なのだ。中には、自ら進んで、後宮の女官になる試験を受けてなったものもいるが、たいていは貴族の令嬢で親によもや側室になれるかも?という因果を含められて来ている娘たちがほとんどなのである。

 もし、側室になり男児でも産めば、どんな栄耀栄華でも望める立場になる。

 でも、それに厄介なのが一人いる。

 先の大戦で、敗戦国の王女が人質として来ているのだ。先王の弟殿下は負けた際に、自分の娘をバトラーの嫁候補として、後宮に送り付けた。

 それって、どう考えても従姉弟だというのに。本当の王女かどうかも実は怪しいらしい。王女の身分なら、処刑されないと思って、ひょっとすればバトラーの寝首を掻く刺客かもしれない。

 だから、バトラーは後宮に近づかない。

 それでいまだに初夜が済ませていないのだ。

 バトラーは結婚前に「結婚してから、ゆっくり恋愛して行けばいいではないか?」恋愛してから結婚か、結婚してから恋愛か、順序が違うだけで長い人生を考えれば、どうってことないというものがバトラーの考え方であったはず。それなのに、国王夫妻としてまだ契りを交わしていないというのは、どこか落ち着かない。

 まぁ、あの夜は例外だったけど。

 約束の2年なんて、あっという間に過ぎてしまう。焦るけど、こればかりはどうにもならない。

 外国の賓客があるときなどは表へ行くこともあるが、それは公務優先で、私的な会話は口を噤む。

 なぜかバトラーも後宮の話になると、うんざりした顔をするから話しづらい。でも2年経てば、金貨100000枚もらって、おさらばできるというのも悪くはない。

 普通は、国王と一夜でも共にすれば、絶対に離婚なんてできず、後宮ではなく違う別宮に移されて、まぁ一種の貴族牢のようなところで一生幽閉されるものらしい。

 でもバーバラの場合は、羊紙に王の刻印までしてもらった契約書があるから、大丈夫だろう。これを表ざたにすれば、たぶん離婚できるはず。

 結婚当初の2年前ならいざ知らず、もう今は名前だけの形式上の王妃だけなんだから、残すところ、あと3か月。情もない。おとなしく待っていれば金貨がもらえ、一生遊んで暮らせる。
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