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 とにかくわたくしは、まっすぐ家へ帰り、自室のベッドへダイブして二度寝を楽しむ。

 どこの誰かも知らない男と長~い夜を過ごしてしまったわけだが、もう考えることは止そう。二度と会わない一夜限りの過ちだから。

 でも社交界は、そんなに甘くはない。

 わたくしバーバラ・メルセデスがハーバネス公爵から婚約破棄され、「捨てられたシンデレラ」という汚名がついてしまったのだ。

 それに引き換えハーバネス公爵は、まだ婚約者がいない希少物件として、他の貴族令嬢からモテモテになっているらしい。

 「ちくしょう!アイツのせいで、わたくしの純潔は散らされたというのに!それもどこの誰かもわからない男に捧げちまったなんて……。」

 バーバラはやはりあの夜のことを気にしていた。いくら忘れようたって、忘れられない。破談だけでも貴族令嬢にとっては汚点になる。

 それがこともあろうと、見知らぬ男性と一夜を共にしてしまったのだから、もう汚点などというレベルではない。

 他の国では婚約破棄された女性は修道院へ行くか、キズモノ同盟に入らなければならない。

 バーバラはそのどちらも行くことを拒否している。なんで?女だけ?どう考えても不公平。ハーバネス公爵もキズモノじゃない?婚約者から愛されずに、待ちくたびれて破棄しといて、自分だけモテモテってどういうことよ?

 まぁ、いいっか。所詮、アイツは器が小さな男だということね。

 「何が一生大切にします。だ。口では調子のいいこといくらだって言えるからね。あーあ、なんて愚かな女だったのかねぇ。」

 それから夜会があるたびに憂鬱な気分にさせられる。針の筵に座らせられた気分、わたくしを見て、あちこちでヒソヒソ、クスクス。そんなある時、ハーバネス公爵が男爵令嬢と結婚したという噂を耳にする。

 そしてその男爵令嬢は、バーバラの前に勝ち誇った顔で登場したのだ。

 「あなたがバーバラ・メルセデス様なのね。ハーバネス様と婚約していたって言うから、もっと美人かと思っていたわ。案外、というかずいぶんなオバサンでビックリしちゃったわ。ウチの人、年増が好きだったのよね。あ!そうだ。わたくしのオジサマ、バツイチで子供もいるけど、紹介して差し上げましょうか?」

 なんたる屈辱!たかが若いというだけで、男爵令嬢を嫁にするとは、ハーバネスもとんだ貧乏くじを引いたものね。

 「その必要はない。バーバラ・メルセデスは、私の婚約者だからだ。」

 振り向くと、そこにはあの夜の男が立っていた。なぜか周りにいた貴族たちはすべて跪いている。立っているのは、バーバラとハーバネス公爵夫人の二人だけ。

 バーバラは訳が分からないが、皆と同じように跪く姿勢を取ろうとするが、一夜限りの男性がバーバラの腰を抱いているから、かがめない。

 そこへハーバネス公爵が歩み出て、無理にでも夫人のリリアーヌを跪かせようとする。

 「陛下、妻の無礼、お許しください。そして、バーバラ嬢が陛下の……、その……婚約者と言うのは真のことでございましょうか?」

 陛下?

 この国で陛下と呼ばれる人はただ一人!国王陛下しかいない!

 「ハーバネス!貴様がようやく婚約破棄してくれたおかげだ。礼を言う。」

 「そ、そんな……、陛下が恋敵だったなんて……。知っていたら婚約破棄などせずに、いやそもそも婚約の申し込みなど……恐れ多いことを。」

 「皆のものに告ぐ。ここにいるバーバラ・メルセデス伯爵令嬢は今後、この王国の王妃となる女性である。国王であるバトラー・アルキメデスの名において、これより誰であろうと私の婚約者に無礼を働くことは断じて許さない。」

 「はぁ?旦那様も国王陛下も、こんなオバサンのどこがいいわけ?」

 「リリアーヌ、陛下の御前だ、おとなしく……。」

 ハーバネス様が言い終わらないうちに、リリアーヌは衛兵により連れていかれる。

 「旦那様ぁ、助けてぇ!」

 「私の婚約者をオバサン呼ばわりするなどバカな女だ。ハーバネス!そなたの処分は追って言い渡す。」

 ありゃぁ!家がつぶれるかもしれないね。

 でも信じられない展開!一夜限りの火遊びが、まさか王妃になるなんて夢みたい。

 
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