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公爵令嬢シャーロット

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 今日は、婚約者のチャールズ王太子殿下と週に1回のお茶会の日です。王宮内の白薔薇の庭園でお茶を飲んでいるときに、

 「公爵令嬢シャーロット・エッセンシャル、貴様との婚約は、今をもって破棄とする。」

 高らかに宣言されたので、びっくりして、カップを落としてしまった。

 「なぜでございますか?わたくし、何か粗相をいたしましたでしょうか?」

 「貴様のそういうところが、気に入らないのだ。のほほんとしていて、何があろうと動ぜず、いつも楽天的で、ぼんやりしているところだ。」

 「はぁ、さようでございますか。致し方ございませんわね。」

 チャールズ王太子は、決してシャーロットのことが嫌いではない。ただ、もうちょっとしっかりしてほしいとハッパをかけたかっただけなのだったが、それと王太子の立場上、自分に言い寄ってくる女は数多にいる。その女性たちの手前、しっかりしてほしいのだった。
 いつもちょっと小言で注意していたのだが、今日は厳しく言い過ぎたと自分を諫めて、次に会うときは、謝ろう、もっと優しく接して、甘やかそうと思っていたのが手遅れの仇になるとはその時は気づかずにいた。

 このサスペンダー王国に住まう女性は、18歳の誕生日になると、教会に行き、スキルを授かる。実は、シャーロットは5歳の洗礼式の時、「聖女」の認定を受けているのだが、発表するわけにいかず、今に至る。なぜ、発表できないかというと、聖女の力は膨大で、ともすると大人になる前は、暴走してしまう恐れがあるということと、誘拐、政争に巻き込まれる恐れがあるため、成人する18歳の時まで、発表が行われないのである。

 明日、教会に行けば、大変なことになるなぁ。でも行かなくても発表はされるだろう。だって、教会は、13年間秘匿し続けたのだから。

 仕方なく、シャーロットは、公爵邸に戻り、今日のお茶会で殿下から婚約破棄されたことを伝えた。

 「わたくしがぼんやりしていて、楽天的なところが嫌いなんですって。」

 「なんだとぉ!明日、思い知らせてやるぅ!」父はカンカンに怒って、王家に怒鳴り込みそうな勢いだったのを必死に抑える。

 「それでな。お父様、明日になれば、すべてが明らかになるので、その発表がある前に、この国を出ようかと思いますの。」

 「そうだな。明日になれば、大騒ぎになるしな、国を出るのも一つの手立てではある。よし、みんなで出よう。シャーロット一人を追い出すわけにはいかない。」

 「そういわれると思い、前々から準備を進めていましたのよ。」

 「さすが、愛する奥さんだ!」父と母はいまだにラブラブで、娘の前でもチュッチュしている。恋愛結婚は珍しいこの時代で、貴重な夫婦なのだ。

 聖女の力は、国が繁栄するだけでなく、天候が安定し、食物は種さえ植えれば、どんなほったらかしにしようが豊作になることは間違いなく、病気やケガもなくなる。人々は飢えることなく、幸せのまま生涯を閉じる。

 国に聖女が一人いれば、その国自体もそしてその国に住むすべての人に幸福をもたらすと言われている。

 そして、教会から発表がある前に、エッセンシャル公爵家は屋敷を引き払った。もちろん、領地のほうへも伝令済みで、国境付近が集合場所となった。

 教会が正午の時を告げ、「シャーロット・エッセンシャル公爵令嬢が聖女様として覚醒されました。」との発表がなされた。国民は歓喜にふるえ、お祭り騒ぎとなった。

 王家にその知らせが届いて、チャールズは急ぎ、エッセンシャル公爵家へ赴くが、屋敷の中はもぬけの殻だった。ショックで公爵邸の前でしばらく座り込むチャールズ。

 「なぜ?昨日、婚約破棄などと酷い言葉を投げかけてしまったのだろう。」後悔しても後悔しきれない。

 「愛している。シャーロット……。」だが、その声はもう、シャーロットに届くことはない。

 その頃、シャーロットとエッセンシャル家の人々は、問題なく隣国アマテラス帝国へ。
 たくさんのドレスや宝石の贈り物の他、大好きなお菓子までいただいて、シャーロットもお母様もすっかり、ご満悦で、しばらくこの地に滞在することになる予定です。

 予想以上の歓待ぶりに驚くものの、両親がうれしそうなのが何よりだ。なんでも、アマテラス帝国で、公爵家として取り立てていただけるそうです。

 アマテラス帝国のリチャード皇太子殿下が馬で出迎えてくださり、シャーロットは、皇太子殿下の婚約者になります。

 そして、サスペンダー王国から「シャーロット・エッセンシャルの返還要求」が来るも、「チャールズ・サスペンダーとは、すでに婚約破棄済みであり、リチャード・アマテラスの妃である。」との書状を返信し、返却意思がないことを示すのである。

 サスペンダー王国では、チャールズは廃嫡されて、第2王子が繰り上がって王太子となった。まだ、7歳の子供であるが、聖女様と婚約していながらお小言ついでに婚約破棄を口にしたのだから、仕方がないこととされた。

 それでもチャールズは、いつかシャーロットが戻ってくると信じ、生涯、シャーロットだけへの愛に捧げた。
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