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死産

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 学園の卒業記念パーティでのこと
 「公爵令嬢シルベーヌ・スフォンス、貴様との婚約を破棄し、愛しの男爵令嬢リリアーヌと、婚約するものとする。」この国の王太子アルフォックス・サルマスドが高らかに宣言された。

 「わたくしは、虐めなどしておりません。ですが、婚約破棄の件は、謹んで承ります。」

 5歳の時に、アルフォックスの婚約者に選ばれてから、ろくでもないことばかりだった。アルフォックスは、我がままで俺様なところがあり、ずいぶんいじめられた。少しSのところがあったと思う。

 父を通して、何度も婚約解消を申し入れたが、アルフォックスが一目惚れして、俺のモノだと言い張り、解消できずにいた。

 そうアルフォックスは、女性をモノとしか扱わない非道な男だった。
 女はモノであって、人間ではない。人間ではないのだから、アルフォックスに絶対服従でなければならない。という理屈らしい。

 正直なところ、婚約破棄してもらえて、すっとしたし、肩の荷が下りた。
 あのまま、婚約していたら、明日は無理繰りでも結婚式が行われるところだった。

 夜、父が帰ってきてから、隣国エダベスト王立大学に留学へ行きたいと話したら、すんなりOKがでた。
今日の閣議で、アルフォックスとの婚約破棄、リリアーヌ嬢との婚約の話が出たそうだが、リリアーヌとの婚約は認められなかったそうだ。これから一波乱ありそうだから、シルベーヌは、サルマスド王国にいないほうが身のためだという判断である。

 そういう理由で、シルベーヌは、隣国の大学へ行った。
 大学では、エダベスト国の公爵令嬢シャーロットとお友達になって、楽しいひと時を過ごした。シャーロットは、この国の第1王子様と婚約中で、卒業すれば、結婚式があるそうだ。ぜひ、結婚式に来てくれ、と気が早いシャーロットから言われた。

 その頃、サルマスド王国では、リリアーヌ嬢が妊娠したので、渋々、側妃として王宮に迎え入れられたそうだ。正妃は、侯爵以上の爵位がないとなれない。それでも王子を産めばまだわからない。

 秋になって、エダベスト王国で舞踏会が開かれた。実は、シルベーヌは、ダンスが大好きで夢中になって、踊っていたら、サルマスドと反対側の隣国トラジスタ帝国の皇太子殿下アネックス様から、手を差し伸べられて1曲一緒に踊った。

 アルフォックスと違い、優しくリードしてくれるアネックス様に心ひかれた。初めての経験で、初めての感情だった。

 それから、二人は付き合うようになった。

 シルベーヌは20歳の誕生日を迎え、その日、初めてトラジスタ帝国へ招かれた。
 帝国では、20歳になった女性に対し、水晶玉でスキル判定を行うらしい。
 シルベーヌも教会でその判定に参加した。水晶玉に手をかざしたら、突然、7色に光り、その後、金色に輝き続けた。聖女様誕生の瞬間だった。

 水晶玉の色は、属性を表し、7色だったことから全属性の魔力があるということがわかり、金色は、聖女を示す色だった。

 何が何だかわからず、あれよ、あれよという間に、「聖女様」として、祀り上げられてしまった。

 アネックス様は、シルベーヌの前で跪いて、愛を囁き、プロポーズした。
 もとより、付き合っていた二人だったから、シルベーヌはその申し出に「喜んで」とこたえた。

 シルベーヌは大学へも戻らず、そのままトラジスタ帝国で、挙式した。
 エダベスト王国から、シャーロットと第1王子様がお祝いに駆けつけてくださった。
 父と共に、ヴァージンロードを進むシルベーヌは、その時、アルフォックスの消息を聞き、愕然とした。

 アルフォックスは、身重のリリアーヌ嬢にDVを働き、死産し、リリアーヌ嬢も共に死んだらしい。それで、王太子を廃嫡されたそうだ。

 女性をモノ扱いするアルフォックスのやりそうなことだと思った。

 式は滞りなく終わり、シルベーヌは、アネックスと幸せに暮らしました。とさ。
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