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田舎暮らし

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 スターライト王国の王宮での舞踏会の一夜のこと

 「侯爵令嬢ボニー・スタンレー、貴様とは、今をもって婚約を破棄するものとする。」

 公爵令息のクリフォード・バーボン様が高らかに宣言される。

 「なぜでございますか?」

 「貴様のように田舎暮らしの令嬢など、片腹痛いわ。王都には、もっと洗練された俺にふさわしい女がいる。」

 こうして、ボニーは婚約破棄されたのだが、ボニーは生まれつきのぜんそくもちで、スタンレー領地で静養を兼ねて、父が領地経営に忙しくしているため、その経営を手伝っている。

 ぜんそくもちであったが、領地に帰ってからは一度も発作が起きていない。領地の空気がいいのだろう。領地に帰ってからは、学園に行けないので、代わりに侯爵邸の図書室で蔵書を読む日々であり、ほとんど読破している状態である。

 おかげで、世界各国の植物図鑑はすべて頭に入っている状態である。父が他国へ出張するときに買ってきてほしい種をチョイスしているのもボニーの役割である。

 この前、買ってきてもらったのは、カカオ、今このカカオ豆からチョコレートを作ることに勤しんでいる。あとは、お砂糖の配分量を決めるだけになった。もともとカカオポリフェノールは、苦みだけなので、あまり甘すぎても?クリームで調整しようか?いろいろ研究中である。

 それともう一つは、チアシード。アミノ酸の宝庫であり、体内でしか作ることができないアミノ酸を含んでいて、スーパーフードと呼ばれるものである。現代では、水とチアの種さえあれば、生きていけると言われるほどの栄養価の高さである。

 チョコレートにチアを混ぜ込めば、無敵のスーパーフードになること間違いなしなのだが、チアは、黒ゴマ状で見た目が悪い。まずは、チョコレートはチョコレートだけ、チアシードはチアシードだけにしてみようか?チアは、自分の美容と健康増進のためだけ生産すればいい。

 ブラック、セミブラック、ミルク、スイートの4種類のチョコレートを完成させた。板チョコ状とトリュフになったもの、ナッツを載せたもの、クランチにしたものを用意して、領地の役員さんを呼び、試食会をしたところ。大盛況のうちに終わる。

 お父様に頼んで、この完成品のチョコレートを菓子として、売り出してもらうことにする。
 チョコレートは、我が領地の一大産業に発展し、チョコレートとして、クリームとして、ケーキに混ぜ込むなど、かき氷にかける、パンケーキのトッピングなど、調理人がそれぞれアイデアを出し合って、広めていく。

 王都からもたくさんの貴族が買いに来て、一人二箱までと制限を付けるようになる。
 公爵令息のクリフォード・バーボン様もそのうちのお一人で、元婚約者のよしみで大目に買えないか?と打診があるものの、不公平感があるので断る。ともう一度婚約したいと申し入れがある。もちろん、お断りしましたわよ。人を田舎者呼ばわりしときながら、チョコレート欲しさに婚約だなんて、バカにするにも大概にしろ!と言いたいわ。

 もちろんクリフォード様は、ただ単にチョコレートが食べたいわけではなく、その利益、利権狙いである。お金のにおいにつられて婚約を言い出したのである。
チョコレートの噂は外国にまで広がり、承認が買い付けに来たと思えば、外国の王族自ら乗り込んできて、ボニーにプロポーズしてくるものまで現れる。

 それに焦ったのが、スターライト王国、王太子殿下をはじめ、第2王子、第3王子までもが婚約の打診をしてくる始末。

 打診だけではねぇ。外国の王族みたいに自ら、スタンレー領地へ足を運んでこそ打診に意味があるというもの。

 もうより取り見取り状態なボニー・スタンレー、結納金が一番高いところへ嫁に行こうと思うが、いったいいくら出してくれるか見当もつかない。

 意外なことに一番ケチだったのが、スターライト王国で、スタンレー領地は我が国の一部であるから、という理由。

 「ええー!それとこれとは違う話だろ?って言いたいわ。だって、チョコレートそのものの製法はボニーだけしか知らないことだから。ボニーさえいれば、他国でもどこでもカカオ豆の栽培さえすれば、チョコレートを作れるのだからということを、スターライト王国はわかっていない。

 ただの病弱な田舎者の令嬢だから、王子と結婚させてやると言えば、ホイホイと乗ってくると思い込んでいるのである。

 ちょっとムカつく態度に、ボニーはキレる。誰が、王家なんぞに嫁に行ってやるか!ということで、ボニーの結婚相手は、外国の王族に絞られる。

 その中で、結納金、支度金の高い国で、絵姿が美形のところに嫁に行くつもりである。何人かとお見合いをすることになり、手始めに隣国クレーンブルー帝国のリチャード皇太子殿下と会うことになった。隣国から近いという理由と絵姿がけっこうボニーのタイプだったから。

 それにお見合いに当たって、手土産をいただいてしまった。色とりどりの宝石が詰まった宝石箱に、ドレス、チアシード。え?クレーンブルー帝国は、チアシードを栽培されているの?実際に食用されているの?

 お見合いでは、趣味は?とかいうのそっちのけでチアシードの質問ばかりしていたぐらいで、少し引かれたかもしれない。

 「さすがボニー嬢は、チアシードのこともよくご存じで。」どういうわけか、気に入られた。

 それからというもの、とんとん拍子で話が決まって、ついにリチャード殿下の元へ輿入れする日が来てしまう。

 「お父様、お母様、永い間お世話になりました。わたくしクレーンブルー帝国で新たなチョコレートを作成できるよう精いっぱい頑張ってまいります。新しいチョコレートができましたら、レシピを送りますから、ぜひ、スタンレー領でも作ってみてくださいませ。」

 「無理することはないよ。体に気を付けて行っておいで。困ったことがあれば、なんでもすぐに相談するんだよ。ボニーのためなら、いつでも全力でなんだってするから。」

 両親と涙の別れをして、カカオの苗木とともにクレーンブルー帝国へ嫁いでいく。

 クレーンブルー帝国で世界最大規模のチョコレート工場ができるのは、いうまでもないこととなった。
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