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ドブ娘
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ある夜会での出来事。
「公爵令嬢アデライン、貴様と今宵をもって婚約を破棄する。」
高らかに宣言された第2王子殿下ロバート・クライン様、その横には庇護欲を掻き立てるピンクブロンドの少女が佇んでいる。
「あの……、わたくし、公爵令嬢のアデライン様では、ございませんが……。」
「へ?」マヌケ面するロバート
「あ、ああ、最近目が悪くて、すまんな。アデラインはどこへ行ったか知らぬか?」
「いいえ、今宵はまだお会いしておりません。」
「そ、そうか……、ありがとう。」
ここのところ、夜会でいつも同じ令嬢を連れ、アデライン公爵令嬢と婚約破棄したがる第2王子の噂は瞬く間に広がった。婚約者の名前は、わかるが顔をまったく覚えていないのだ。
その令嬢はいつもピンク色のドレスを着ているのですぐわかる。噂によると男爵令嬢のリリアーヌ様だとか?つい先ごろまで市井にいらした方だそうですが、男爵様の庶子として引き取られた方のようです。普通の令嬢は一度着たドレスは二度と袖を通さないものですが、リリアーヌ様は、毎回同じドレスをお召しになります。
当のアデラインは、隣国にいた。留学しているので、母国の夜会でそのような噂が立っていることなど露ほども知らない。
そして今日は、王妃様主催の舞踏会でのこと、いつものように男爵令嬢リリアーヌをエスコートし、会場となる大広間に入ってきたところを、くるくると探し回り、高そうなドレスを着ている令嬢に
「公爵令嬢アデライン!」と叫ぶが、反応なし。本人と違う人の名前を呼ばれても誰も返事をしない。当り前のことだが、またしてもロバートは不機嫌になる。
「なぜ?返事しない!」と苛立ちながら喚くロバート。
ついに、王妃様が動いた!
「ロバート!いったい、毎晩、なにをやっているのですか?」
「公爵令嬢のアデラインを探しているのです。」
「その薄汚い娘を連れてですか?」
「あ、この子は、男爵令嬢のリリアーヌです。学園の同級生です。」
リリアーヌが挨拶しようとしたところを、王妃様が遮って、
「まさか、わたくしに、挨拶でもしようとなさって?無礼な!衛兵!この娘をつまみ出せ!」
リリアーヌは有無も言わせず、引っ立てられた。
「ロバート、お友達は選んで付き合いなさい。あの娘はダメですよ。」
「どうしてですか?身分が低いからですか?」
「あの娘は。男をダメにする娘だからです。たとえ、身分が低くとも男を引き立てる娘ならかまいませんよ。」
「よくわかりませんが、それよりアデライン嬢を見かけませんでしたか?」
「探し出して、いかがなさるおつもり?」
「さっきのリリアーヌがアデライン嬢から学園で嫌がらせを受けているらしく、やめさせて婚約破棄するつもりです。」
「嫌がらせをしているのは、アデライン嬢ではないですね。きっとあの娘が嘘を吐いているのでしょう。」
「どうしてアデライン嬢が虐めていないと言い切れますか?」
「アデライン嬢は、今、隣国へ留学に行かれているからですよ。」
「え?そしたら、誰かに虐めさせているとか?可能性がありますね。」
「それもあのドブ娘が言っているのですか?どうやって、あのドブ娘が学園にいて、どのクラスにいるかを隣国にいながら把握できますか?あのドブとは、きれいさっぱり別れてしまいなさい。それがロバートのためです。母から言えることはそれだけです。」
「はい。」
「アデライン嬢を手放したら、王位継承権にかかわりますよ。いいですね。決して自分から婚約を破棄するなどと言ってはいけませんよ。父上のお耳に入ったらタダではスミマセンから、今宵のことは黙っていてあげるけれど、いい?あのドブ娘とは金輪際、別れてしまいなさい。」
「はい。」
と返事はしたものの、ドブもとい、リリアーヌと別れる気など一切ない。ロバートはもう、リリアーヌのカラダに溺れていたから。
アデラインが王位継承にかかわるなら、アデラインを正妃にして、側妃をリリアーヌにすればいいだけだ。と簡単に考えていたのだ。
卒業式の頃が来た。アデラインは、留学先から戻り、結婚準備に入った。
そこへロバートが来て、「ちょっと話がある。」とアデラインに言う。側にはやはり、リリアーヌの姿が、あれほど王妃様から別れろと言われながら、まだ関係を続けている。
「そのお隣の令嬢をご紹介いただけませんか?」
「ああ、いいとも。男爵令嬢のリリアーヌだ。実はな、結婚したら、リリアーヌを側妃としたいのだが、かまわないか?」
アデラインの返事を待たずに、リリアーヌが
「え?私が正妃じゃないのぉ!正妃じゃなきゃ、イヤ!」
ぷいと怒って席を立ち、どこかへ行った。
「どういった方ですの?恐れながら、あの方が正妃でも側妃でも、わたくしは嫌でございます。殿下がどうしても、お側に置きたいと申されるのなら、今回の縁談は水に流させていただきたく存じます。」
ふと、母上の言葉が脳裏を巡った。
「いやいや。今のは冗談だ。アデラインただ一人を愛している。機嫌を直しておくれ。」
そうは言われても、不信感が募る。
帰宅した公爵に相談すると、やはり、ロバートとリリアーヌは不埒な関係であり、王宮調査部が動いているらしい。
「国王陛下から内密に、婚約を白紙に戻したらどうか?と今日、言われてね。その場合の次の婚約者はポール王太子殿下になるのだが……。アデラインは、妃教育が終了してるから、という理由なんだが、いいかな?」
「はい。そちらでお願いいたします。」
ロバートは廃嫡になり、蟄居謹慎。リリアーヌは、修道院送りとなった。
ポールはアデラインとの仲を縮めようと、観劇に誘ったり、街へ買い物に出かけたりと気を遣ってくれ、やがて二人は信頼し合い、愛し合うようになります。
そして、ついに結婚式の日を迎えます。
いつの間にか社交界の婚約破棄の噂も消え、二人は幸せな門出を迎えました。
「公爵令嬢アデライン、貴様と今宵をもって婚約を破棄する。」
高らかに宣言された第2王子殿下ロバート・クライン様、その横には庇護欲を掻き立てるピンクブロンドの少女が佇んでいる。
「あの……、わたくし、公爵令嬢のアデライン様では、ございませんが……。」
「へ?」マヌケ面するロバート
「あ、ああ、最近目が悪くて、すまんな。アデラインはどこへ行ったか知らぬか?」
「いいえ、今宵はまだお会いしておりません。」
「そ、そうか……、ありがとう。」
ここのところ、夜会でいつも同じ令嬢を連れ、アデライン公爵令嬢と婚約破棄したがる第2王子の噂は瞬く間に広がった。婚約者の名前は、わかるが顔をまったく覚えていないのだ。
その令嬢はいつもピンク色のドレスを着ているのですぐわかる。噂によると男爵令嬢のリリアーヌ様だとか?つい先ごろまで市井にいらした方だそうですが、男爵様の庶子として引き取られた方のようです。普通の令嬢は一度着たドレスは二度と袖を通さないものですが、リリアーヌ様は、毎回同じドレスをお召しになります。
当のアデラインは、隣国にいた。留学しているので、母国の夜会でそのような噂が立っていることなど露ほども知らない。
そして今日は、王妃様主催の舞踏会でのこと、いつものように男爵令嬢リリアーヌをエスコートし、会場となる大広間に入ってきたところを、くるくると探し回り、高そうなドレスを着ている令嬢に
「公爵令嬢アデライン!」と叫ぶが、反応なし。本人と違う人の名前を呼ばれても誰も返事をしない。当り前のことだが、またしてもロバートは不機嫌になる。
「なぜ?返事しない!」と苛立ちながら喚くロバート。
ついに、王妃様が動いた!
「ロバート!いったい、毎晩、なにをやっているのですか?」
「公爵令嬢のアデラインを探しているのです。」
「その薄汚い娘を連れてですか?」
「あ、この子は、男爵令嬢のリリアーヌです。学園の同級生です。」
リリアーヌが挨拶しようとしたところを、王妃様が遮って、
「まさか、わたくしに、挨拶でもしようとなさって?無礼な!衛兵!この娘をつまみ出せ!」
リリアーヌは有無も言わせず、引っ立てられた。
「ロバート、お友達は選んで付き合いなさい。あの娘はダメですよ。」
「どうしてですか?身分が低いからですか?」
「あの娘は。男をダメにする娘だからです。たとえ、身分が低くとも男を引き立てる娘ならかまいませんよ。」
「よくわかりませんが、それよりアデライン嬢を見かけませんでしたか?」
「探し出して、いかがなさるおつもり?」
「さっきのリリアーヌがアデライン嬢から学園で嫌がらせを受けているらしく、やめさせて婚約破棄するつもりです。」
「嫌がらせをしているのは、アデライン嬢ではないですね。きっとあの娘が嘘を吐いているのでしょう。」
「どうしてアデライン嬢が虐めていないと言い切れますか?」
「アデライン嬢は、今、隣国へ留学に行かれているからですよ。」
「え?そしたら、誰かに虐めさせているとか?可能性がありますね。」
「それもあのドブ娘が言っているのですか?どうやって、あのドブ娘が学園にいて、どのクラスにいるかを隣国にいながら把握できますか?あのドブとは、きれいさっぱり別れてしまいなさい。それがロバートのためです。母から言えることはそれだけです。」
「はい。」
「アデライン嬢を手放したら、王位継承権にかかわりますよ。いいですね。決して自分から婚約を破棄するなどと言ってはいけませんよ。父上のお耳に入ったらタダではスミマセンから、今宵のことは黙っていてあげるけれど、いい?あのドブ娘とは金輪際、別れてしまいなさい。」
「はい。」
と返事はしたものの、ドブもとい、リリアーヌと別れる気など一切ない。ロバートはもう、リリアーヌのカラダに溺れていたから。
アデラインが王位継承にかかわるなら、アデラインを正妃にして、側妃をリリアーヌにすればいいだけだ。と簡単に考えていたのだ。
卒業式の頃が来た。アデラインは、留学先から戻り、結婚準備に入った。
そこへロバートが来て、「ちょっと話がある。」とアデラインに言う。側にはやはり、リリアーヌの姿が、あれほど王妃様から別れろと言われながら、まだ関係を続けている。
「そのお隣の令嬢をご紹介いただけませんか?」
「ああ、いいとも。男爵令嬢のリリアーヌだ。実はな、結婚したら、リリアーヌを側妃としたいのだが、かまわないか?」
アデラインの返事を待たずに、リリアーヌが
「え?私が正妃じゃないのぉ!正妃じゃなきゃ、イヤ!」
ぷいと怒って席を立ち、どこかへ行った。
「どういった方ですの?恐れながら、あの方が正妃でも側妃でも、わたくしは嫌でございます。殿下がどうしても、お側に置きたいと申されるのなら、今回の縁談は水に流させていただきたく存じます。」
ふと、母上の言葉が脳裏を巡った。
「いやいや。今のは冗談だ。アデラインただ一人を愛している。機嫌を直しておくれ。」
そうは言われても、不信感が募る。
帰宅した公爵に相談すると、やはり、ロバートとリリアーヌは不埒な関係であり、王宮調査部が動いているらしい。
「国王陛下から内密に、婚約を白紙に戻したらどうか?と今日、言われてね。その場合の次の婚約者はポール王太子殿下になるのだが……。アデラインは、妃教育が終了してるから、という理由なんだが、いいかな?」
「はい。そちらでお願いいたします。」
ロバートは廃嫡になり、蟄居謹慎。リリアーヌは、修道院送りとなった。
ポールはアデラインとの仲を縮めようと、観劇に誘ったり、街へ買い物に出かけたりと気を遣ってくれ、やがて二人は信頼し合い、愛し合うようになります。
そして、ついに結婚式の日を迎えます。
いつの間にか社交界の婚約破棄の噂も消え、二人は幸せな門出を迎えました。
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