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番外編

95.帰還

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 暗い所から、いきなり明るい所へ出た真理は、目がクラクラして、倒れそうになっている。

 現代、ニッポンへ無事、帰ってこられたのだ。

 なんだ。あの異世界の担当者、元の世界に帰る方法はないって言っていたくせに簡単に帰れたじゃない。バカみたい。それとも、あれは夢だったのかしら?

 うーん。夢にしては、妙にリアルだったみたいだけど、……?

 大学の帰り道、あのファミレスの駐車場を覗いてみると、やっぱり元婚約者の車が置きっぱなしになっていた。

 あれは夢ではなかったということがわかり、急に怖くなってくる。

 異世界から帰ってきて、1週間が経とうとしている。ようやく元婚約者夫妻と女子高生が神隠しにあったとニュースで報じられるようになり、被害者の足取りを調べるうちにファミレスを最後に忽然と消えてしまったことが明らかになる。

 そうこうしている間に、被害者と最後に接触した可能性があるのは、真理であるということを警察が突き止めてきて、事情を聴かれる羽目になった。

 どうせ本当のことを言っても、信じてもらえないだろうから、ここは口を噤むことにする。

「防犯カメラを見ると、アナタも一緒に一瞬消えられたように見えますが、どちらへ行っていたのですか?」

「それが……私にも、よくわからないのです。外はちょうど雨が降り出したところで、一瞬何か魔のようなものに攫われかけたとしか言いようがありません」

「魔のようなもの?どんな些細なことでも構いませんから、何か思い出されるようなことがありましたら、署の方にご連絡ください」

 警察は、真理のところに事情を聴きに来る前に、両親や大学に聞き合わせをしていて、それと真理の話に齟齬がないことから、おおむね真理の言うことを信じたようだった。

 真理はもう二度と異世界へ戻るつもりはない。だいたい、そっちから呼んでおきながら、ほったらかしにされて、黙っていられるか!失礼にも程があるというもの。

 まあ、あのバカ夫婦のことはさておき、かわいそうなのは、女子高生よね。あんな若い身空で、もう一生戻って来れないというのは、かわいそうすぎる。

 でも、よくよく考えたら、小学生でもある日突然、姿を消したという事件?はいくつもある。案外、異世界へ行ってたりして?

 赤い国に拉致されたということがはっきりわかっている場合は別として他人の噂も75日というから、そのうち綺麗に忘れ去られるというもの。

 今回も、そうなる可能性は大なので、あえて、真理は何も知らない。何もわからない。よく覚えていない。気が付けば、走って逃げていたという主張を一貫して行っている。

 事実の通りだけど、他の人は見ていないという主張をしている。他の人たちが自力で帰って来られたら、いいけど、今のところまだ発見されたというニュースはないから、多分捕まって、元婚約者のマサユキは、奴隷として強制労働させられていることだろうし、あえて、製薬会社の方にも連絡する必要はないと思っている。

 あくまでも、真理は被害者のうちの一人なのだもの。他の人たちのことまで知らない。まして、憎き小百合のことなどは、知ったことではない。



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 その頃異世界では、小百合の妊娠が嘘だということがバレ、元婚約者との間がぎくしゃくしている。

「それで?自分が聖女様の婚約者だったということですか?元の世界では、どうだったかはわかりませんが、この世界では、1000年以上前に聖女様がお創りになった世界規範というものがあり、それによると男が浮気をして、婚約破棄をした場合は、廃嫡もしくは廃籍。女が婚約者のいる男性から、唆し妊娠したという嘘までついて、略奪婚をした場合は、娼館落ちか修道院送りになりますが、どちらを選ばれますか?」

「一つ質問して、よろしいか?」

「はい。なんなりと」

「もし、俺がこの性悪女に誑かされずに、真理と婚約を続けていて、この異世界に真理と共に召喚されていたら、俺の処遇は変わったか?」

「その場合は、聖女様の王配となり、この国を治めることになります。アナタももう少し慎重に行動していたら、奴隷落ちすることにならなかったと、思いますよ」

「そんな……この阿婆擦れに引っかかったために、俺は何もかも失うということになるのか?」

「仕方ありませんね。聖女様の王配ともなれば、最高位の貴族となり何不自由がない生活が約束されたでしょうに残念でしたね」

「クソっ!小百合、お前のせいで、俺は何もかも失ってしまったんだ。どうやって、責任を取るつもりでいるのだ!」

「はぁ?責任なんて、アンタだって、さんざん私を弄んでいい気になっていたでしょう?お互い様ってことよ」

「どうしますか?この女、売りますか?」

「はい。もちろん売ります」

「それでは、ここの売買契約書にサインしてください。良かったですね、これでアナタ様の奴隷落ちは、とりあえず免れましたよ」

「ちょっとぉ、なに勝手にそんなこと決めているのよ!私は娼館なんて、行かないから」

「この世界では、旦那様は奥さんを所有物として考えられるので、自分の所有物である奥様を売るなんてこと、しょっちゅうあるものですよ」

「は?何それ?封建時代みたいじゃないのよ!」

「そうです。まさしく封建時代、それの唯一の例外が聖女様ということです。サユリも聖女様に逆らって、聖女様の婚約者を奪いになったのですから、そのことで身をもって責任を取りなさい」

「えー!いやよ。マサユキなんとかしなさいよ!アンタそれでも家長か?」

「すまないサユリ、黙って娼館へ行ってくれ。ひょっとすれば金持ちのジジイが見受けしてくれるかもしれないよ。サユリはあのテクニックだけは上手だから」

 ナニを勘違いしたか小百合は頬を染めている。

 娼館へ行くということは、片道切符だということを知らない。ニッポンの風俗程度にしか考えていなかったらしく、素直に娼館行きを楽しむようになったようだ。

「ところでマリ聖女様のお話をもう少し詳しくお聞かせ願えませんか?行先に心当たりなどを」

「たぶん、真理もこの世界は初めてだから面食らっているのではないかと思う。ただ言えることは、アイツは怒るとけっこう怖い」

「はあ、なるほど」

 もう一人の聖女様候補、こちらの女子高生も聖女様でないことがはっきりとした。聖女様は純潔の未婚女性しかなれないということは通説になっているが、最近の女子高生はヤることはヤっているらしい。

 いち早く奈々ちゃんを庇護下に置いた王子様は、ガックリと肩を落とされて、国王陛下に大目玉を食らい、しばらく謹慎しているとか。

 このまま、聖女様が見つからなければ廃嫡も辞さないと国王様は大変なお怒りのご様子で、ちなみに、元婚約者の男性がいまだに奴隷落ちをしていないのは、聖女様探しに一役買ってもらおうという下心からで、決して小百合の売却代金があるからという理由ではない。

 真理を聖女として断定したのは、あの夜、忽然と姿を消したことの一言に尽きる。もし、あのままあの大理石の床に座らされ続けていたら、案外、聖女様の認定は下りなかったかもしれない。

 要するに処女かどうかなんて、あまり意味はないと思う。自己申告か、最初に経験した人とでないとひみつなものだから、はた目からでは判断できない。

 某国のように、プリンセスを決めるとき、シーツで囲われた中で秘部を開き神官に判定させるような真似は異世界でも行われていない。
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