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第3章

80.もう一度出会い?

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 ムーラン国改め聖女国に来てから、半年が経つ。

 聖女国は以前とは、比べ物がないぐらい活気に満ち溢れた国に発展している。交通網は、依然として、馬車が主流だが、空飛ぶ絨毯も馬が乗れれば、誰でも手に届く代物になっている。

 オマーン商会は、今も大繁盛していて、両親が国王と王妃の仕事が忙しいので、ほとんど店には寄りつかず、代わりに執事や家令が店を切り盛りしている。

 倉庫の裏口には、世界各地へ通じるゲートが施してあり、在庫が亡くなれば、すぐにそのゲートを通じて、商品が入荷できる仕組みになっている。

そんなある日、ゲートから見知らぬ一人の青年が出てきたのだ。

 これには、執事も家令も驚いて、目をみはるばかり、だいたいジェニファーお嬢様の魔法は、誰でもがゲートをくぐれるものではない。ちゃんとセキュリティが施してあるもので、権限を持つものでなければ通れない。はずなのに。

「あの……、どちら様ですか?」

「ここは、どこですか?」

「元は、ムーラン国と言いますが、今は聖女国です」

「聖女国……、聖女様はおられるのか?」

「はい。ジェニファーお嬢様ですね?ところで、あなた様はどなたでございましょうか?」

「アレクサンダー5世と言ってもらえればわかるはずだ」

「はい。それでは店内でお待ちくださいませ」

 店内には、世界各国の名産品がずらりと勢ぞろいしている。それも現地値段とあまり大差がない。つまり安いのだ。安くて、名産品が手に入ると評判の商会だったのである。

「お待たせいたしました」

 ジェニファーはコテンと首を傾げ、誰だっけ?と思っている。どこかで見たような記憶はあるが、思い出せない。

「ジェニファー、久しぶり。相変わらず綺麗だね」

「え……と?」

「いやだなぁ。忘れちゃった?アレクサンダー5世、この前初代の銅像の足を触っただろ?それで、前世の記憶を思い出したってわけよ」

「そんな……バカな」

「ジェニファーだって、何度も転生しているのだから、俺にだって、できないわけがないだろ?それに、俺に会いたいって思ってくれたこと、嬉しかったよ」

 これは悪質な詐欺だろうか?この前、と言っても半年以上前にチラッとバラード国に寄って以来、一度も行っていない。

 その時のことをおそらく、この男性は言っているのだと思うけど、そんなことあるはずがない!

 いや、待てよ?ジェニファーも転生2度目だけど、普通、覚えていないものだから、それが忘れてしまっているだけで、アレクサンダー様も何度か転生していて、それで半年以上前にお父様と仕入れに行ったときに、偶然銅像を見かけて、懐かしくて、駆け寄ってしまったのよ。

 それをたまたま別の誰かが見ていて、アレクサンダー5世に告げ口したとしたら、ありえなくもない?

 やっぱり詐欺……。

「弱ったなぁ。こういう時、ブライアンがいてくれたら、すんなり話は通るのだがな」

 ブライアン・ブレンディは、前々世の兄の名前、そういえば、アレクサンダー様と兄は、親友同士で、結婚してからも、よく実家に来られて、兄とチェスを興じていらっしゃった記憶がある。

 でも、それだけで信じることなどできない。

 それぐらいアレクサンダー様との思い出は大切なもの。

「何度も言うけどさ、ジェニファーがアレクサンダーの魂を呼び起こしてくれたことは間違いないんだよ」

「まあ、そうだろうな。とても信じられるような話なんて、俺自身も思わなかった。気が付けばアレクサンダー5世のカラダの中に入っていて、ずいぶん混乱したさ」

「夢を見ているのかと思ったよ」

 うーん。この言い方は、確かにアレクサンダー様っぽい、でも喋り方なんて、遺伝するものだから、だからといって、アレクサンダー様ではないとは言えない。

 曾曾孫と会っているはずなのに、気分的には、アレクサンダー様と揶揄うように喋っているみたいな気になる。

 その後もアレクサンダーに対し、いくつか質問を投げかけてみるも、すべて正解される。
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