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第2章
69.忘れ物 ざまあ
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「まさか!本物の聖女様が寮の隣室にいたとは、思わなかったわ。あーあ、ついていないの。もう少しで、将来の国母様になれたのに」
「ハン。お前のようなニセモノがなれるわけないだろ!」
「そんなことわからないわよ。確かにご神託があったような?でも、夢だったのかなぁ。どうがんばっても聖女様みたいに空を自由に飛べないものね」
「ああ、あれはすごかった」
「何もないところから、いきなり船を出されて、せっかくだから、ムーラン国まで送ってくだされば、もっとよかったのに」
「コラ。聖女様も、お疲れだろう。それにしても何か忘れ物をしたような気持ちがあるのだけど、気のせいか?」
「あ!お前もか?実は、俺もさっきから気になっていた。何を忘れてしまったのか、さっぱり思い出せない」
その日は疲れすぎて、王城へ戻るなり、食事もしないで、バタンキュー。お風呂にも入らず、かろうじて制服は脱いだものの、マナを使いすぎて、クラクラしている。
クリストファーは、これで、二人目の聖女様問題がカタをついて、ホっとしているところに、ムーラン国王がやってくる。
「いやあ、大儀であった」
「へ?」
「見事!偽聖女を捕縛できたというから、……?」
「まだ、いらしたのですか?」
ムーラン近衛騎士団から、置き去りにされてしまわれたムーラン王は、その日、シドニー王城で一泊されてから、翌朝、通学前のジェニファーの手によりゲートをくぐられ、無事、ムーランのお城へ戻られたとか、良かった、よかった。
ジェニファーは、少々疲れは残るものの笑顔を絶やさず、クリストファー殿下の馬車に乗り込む。
「昨日は、さんざんだったな。ご苦労さん」
「いいえ。殿下こそ、いろいろ付き合わせてしまって」
「俺は、いいんだ。それより、早く結婚式をしないといけないかもしれないな」
「え!どうして?卒業式まで、まだまだありますでしょ?」
ジェニファーは、コテンと首をかしげる。でも、その答えはすぐにわかったのだ。
学園の正門のところに、「祝聖女様、祝ご婚約おめでとうございます」横断幕が掲げられているのを見て、ビックリしてしまった。
そうだ。昨日、白髭の司祭様を寮母に紹介してから、ずっと、寮母は、ジェニファーの傍にいたんだっけ。すっかり、そのことを忘れていて、寮母の口から、学園長に報告されてしまったということに気づく。
ああ。記憶操作の魔法をかけておけば、と後悔するも後の祭り。船に隠ぺい魔法をかけたところまでは、まともな判断をしていたと思うけど、それからいろいろあって、学園に秘密裏にしていたことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
こうなれば、仕方がないと。腹を括ることにして、教室へ入ることに。
昨日、ジェニファーに意地悪をしてきた女子生徒がいち早くジェニファーの存在に気がつき、満面の愛想笑いを浮かべてくる。
「ジェニファー様が聖女様だったなんて、知らなかったわぁ」
「わたくしは、きちんと勉強して、入学試験に合格しましたのよ」
「ええ、ええ。そんなこと、わかっておりますわ。それで王太子妃の座を射止められたことも」
そのいいように、ムカっと来る。
「わたくしは、自分が聖女様であるということは、ずっと黙っていましたのよ。それは聖女様を公表してから、ロクでもないような縁談ばかりが来て、困っていたので、ここでは聖女様の身分を出さずに、婚活目的で越境留学してきましたの」
「あら、生まれ故郷の国を捨ててまで?」
それも、前に説明したはずよ!どこまで、この娘は人を愚弄すれば、気がすむのかしらね?
「生まれ故郷の王子様は、わたくしというものがありながら、浮氣をされ婚約破棄されて、それで聖女島を作り、各地を漂流しながら、コアラルンプール学園の噂を耳にして、転入してきましたのよ」
「ああ、そうだったわね。そんな話、聞いたわ」
何よ、この娘。本当ムカつく。
「それなのに、やっぱり王太子殿下の婚約者に収まったから、聖女様であることをバラしちゃったと言うわけ?そうすれば、王太子殿下を括りつけることができるから?やっぱり、浮気されて捨てられることが怖かったんでしょう?」
「そのあたりのこと、話せば長くなるので、疲れているから、もういいでしょう?」
なおも、言い募ろうとしているところを、クリストファー殿下に遮られる。
「俺は、ジェニファーが一人の女性として、気になり好きになったのだ。決して、聖女様だから妻にと望んだわけではない」
その言葉に、教室中の女性がうっとりとした声で、悲鳴を上げる。
「ハン。お前のようなニセモノがなれるわけないだろ!」
「そんなことわからないわよ。確かにご神託があったような?でも、夢だったのかなぁ。どうがんばっても聖女様みたいに空を自由に飛べないものね」
「ああ、あれはすごかった」
「何もないところから、いきなり船を出されて、せっかくだから、ムーラン国まで送ってくだされば、もっとよかったのに」
「コラ。聖女様も、お疲れだろう。それにしても何か忘れ物をしたような気持ちがあるのだけど、気のせいか?」
「あ!お前もか?実は、俺もさっきから気になっていた。何を忘れてしまったのか、さっぱり思い出せない」
その日は疲れすぎて、王城へ戻るなり、食事もしないで、バタンキュー。お風呂にも入らず、かろうじて制服は脱いだものの、マナを使いすぎて、クラクラしている。
クリストファーは、これで、二人目の聖女様問題がカタをついて、ホっとしているところに、ムーラン国王がやってくる。
「いやあ、大儀であった」
「へ?」
「見事!偽聖女を捕縛できたというから、……?」
「まだ、いらしたのですか?」
ムーラン近衛騎士団から、置き去りにされてしまわれたムーラン王は、その日、シドニー王城で一泊されてから、翌朝、通学前のジェニファーの手によりゲートをくぐられ、無事、ムーランのお城へ戻られたとか、良かった、よかった。
ジェニファーは、少々疲れは残るものの笑顔を絶やさず、クリストファー殿下の馬車に乗り込む。
「昨日は、さんざんだったな。ご苦労さん」
「いいえ。殿下こそ、いろいろ付き合わせてしまって」
「俺は、いいんだ。それより、早く結婚式をしないといけないかもしれないな」
「え!どうして?卒業式まで、まだまだありますでしょ?」
ジェニファーは、コテンと首をかしげる。でも、その答えはすぐにわかったのだ。
学園の正門のところに、「祝聖女様、祝ご婚約おめでとうございます」横断幕が掲げられているのを見て、ビックリしてしまった。
そうだ。昨日、白髭の司祭様を寮母に紹介してから、ずっと、寮母は、ジェニファーの傍にいたんだっけ。すっかり、そのことを忘れていて、寮母の口から、学園長に報告されてしまったということに気づく。
ああ。記憶操作の魔法をかけておけば、と後悔するも後の祭り。船に隠ぺい魔法をかけたところまでは、まともな判断をしていたと思うけど、それからいろいろあって、学園に秘密裏にしていたことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
こうなれば、仕方がないと。腹を括ることにして、教室へ入ることに。
昨日、ジェニファーに意地悪をしてきた女子生徒がいち早くジェニファーの存在に気がつき、満面の愛想笑いを浮かべてくる。
「ジェニファー様が聖女様だったなんて、知らなかったわぁ」
「わたくしは、きちんと勉強して、入学試験に合格しましたのよ」
「ええ、ええ。そんなこと、わかっておりますわ。それで王太子妃の座を射止められたことも」
そのいいように、ムカっと来る。
「わたくしは、自分が聖女様であるということは、ずっと黙っていましたのよ。それは聖女様を公表してから、ロクでもないような縁談ばかりが来て、困っていたので、ここでは聖女様の身分を出さずに、婚活目的で越境留学してきましたの」
「あら、生まれ故郷の国を捨ててまで?」
それも、前に説明したはずよ!どこまで、この娘は人を愚弄すれば、気がすむのかしらね?
「生まれ故郷の王子様は、わたくしというものがありながら、浮氣をされ婚約破棄されて、それで聖女島を作り、各地を漂流しながら、コアラルンプール学園の噂を耳にして、転入してきましたのよ」
「ああ、そうだったわね。そんな話、聞いたわ」
何よ、この娘。本当ムカつく。
「それなのに、やっぱり王太子殿下の婚約者に収まったから、聖女様であることをバラしちゃったと言うわけ?そうすれば、王太子殿下を括りつけることができるから?やっぱり、浮気されて捨てられることが怖かったんでしょう?」
「そのあたりのこと、話せば長くなるので、疲れているから、もういいでしょう?」
なおも、言い募ろうとしているところを、クリストファー殿下に遮られる。
「俺は、ジェニファーが一人の女性として、気になり好きになったのだ。決して、聖女様だから妻にと望んだわけではない」
その言葉に、教室中の女性がうっとりとした声で、悲鳴を上げる。
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