上 下
59 / 99
第2章

59.留学2

しおりを挟む
「皆様、はじめまして。わたくしはジェニファー・グラント。公爵の一人娘でございます。この国へ留学を決めたのは、どなたかいいお婿さんを探しにやってきました。どうぞ、よろしくおねがいします」

「カトリーヌ様とは、お知り合いですか?」

「いいえ。まったく存じ上げませんわ」

「そうよね。似ても似つかないもの」

 クスクスと少女の一人が笑うと、なぜか教室中が爆笑の渦に包まれる。

 理由を聞くと、ジェニファーは金髪碧眼なのに対し、カトリーヌ様は銀髪蒼眼なのらしい。やっぱり、あの殿下と呼ばれる男性に対し、眼鏡を新調と無礼極まりないことを言ったことは正解だったようで、似ても似つかない令嬢と知ったうえで、喧嘩を吹っかけてきたのなら許さないわよ、と強く思う。

 ホームルームで挨拶を終え、その日はそれだけだったので、寮へと急ぐ。もちろん、聖女島に帰るためで、他にすることがない。

 寮の部屋に着くなり、先ほど殿下と呼ばれる男性の側近らしい人が訪ねてきた。

「今から殿下が、謝罪したいと仰せなので、ご足労だが王城まで来ていただけないだろうか?」

「お断りします。謝罪なさるのなら、わたくしではなく婚約者のカトリーヌ様でしたか?その方に謝罪されるのが筋では、ございませんか?」

「いや、しかい……殿下が、先ほどの公爵令嬢に、と申されておりますので」

「眼鏡をお買いになられたのなら、お会いしますが、まだお買いになっていらっしゃらないのでは、お会いしても無駄でございますわ」

 疲れたのと、少々めんどくさいのが、重なって、結局、扉をバタンと閉めて、追い返す形になってしまった。

 空中クローゼットを通り、さっさと自宅に戻り、居間でお茶をしていらした母上相手に愚痴をこぼす。

「今朝ね。入学式が終わり、担任の先生と一緒に教室へ行こうとしたら、シドニー国の殿下と呼ばれる男性から……殿下と呼ばれるからには、王子様なのかしら?その王子様から、いきなり婚約破棄されちゃって、人違いだったらしいのだけど、縁起が悪いったらありゃしないわ」

「わぁ。大変だったわね。お疲れさま」

「ったくよ。教室に行ったら、その間違えた婚約者の見てくれをいろいろ聞いたら、わたくしとは全然、似ても似つかないので、さらにビックリしちゃったわよ。あの王子、目が悪いというよりアタマがおかしいのだと思うわ」

 婚活に来ているのに、入学早々、人違いとはいえ婚約破棄されてはたまらない。

「それで、謝罪したいからって、王城へ来い。って言うのよ」

「行ってくればいいじゃない」

「いやよ。縁起が悪いわ」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




「なに!?あの人違いだった令嬢に断られた?なぜだ?女は誰でも、俺が呼べばホイホイと来るものではないか?それなのに、なぜ断る?」

「あの公爵令嬢、かなりの美人でしたからね。怒っているのでは、ありませんか?」

「えっ!美人なら、なおさら俺に媚を売るものではないのか?」

「クリストファー殿下、本当に眼鏡を作られた方がいいのではございませんか?差し出がましいようですが、あの美形の公爵令嬢は金髪碧眼で、婚約者のカトリーヌ様は銀髪蒼眼なので、似ても似つかない容姿をしていらっしゃるのですよ。お二方の違いも判られないのでしたら、私からも眼鏡の購入をオススメします」

「いや、少し違うな。とは、思ったのだが、とにかくカトリーヌと婚約破棄しなければ、このまま立太子の礼をすることになってしまう。何とかそれだけは、避けたいのだ」

「それでは、婚約破棄などせずに、廃嫡願を出されたら、いかがですか?」

「そんなことができるものなら、もうとっくにやっているわ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】「こんなことなら、婚約破棄させてもらう!」幼い頃からの婚約者に、浮気を疑われた私。しかし私の前に、事の真相を知る人物が現れて……

オコムラナオ
恋愛
(完結済みの作品を、複数話に分けて投稿します。最後まで書きあがっておりますので、安心してお読みください) 婚約者であるアルフレッド・アルバートン侯爵令息から、婚約破棄を言い渡されたローズ。 原因は、二人で一緒に行ったダンスパーティーで、ローズが他の男と踊っていたから。 アルフレッドはローズが以前から様子がおかしかったことを指摘し、自分以外の男に浮気心を持っているのだと責め立てる。 ローズが事情を説明しようとしても、彼は頑なに耳を貸さない。 「こんなことなら、婚約破棄させてもらう!」 彼がこう宣言したとき、意外なところからローズに救いの手が差し伸べられる。 明かされたのはローズの潔白だけではなく、思いもよらない事実だった……

奥様はエリート文官

神田柊子
恋愛
【2024/6/19:完結しました】【2024/11/21:おまけSS追加中】 王太子の筆頭補佐官を務めていたアニエスは、待望の第一子を妊娠中の王太子妃の不安解消のために退官させられ、辺境伯との婚姻の王命を受ける。 辺境伯領では自由に領地経営ができるのではと考えたアニエスは、辺境伯に嫁ぐことにした。 初対面で迎えた結婚式、そして初夜。先に寝ている辺境伯フィリップを見て、アニエスは「これは『君を愛することはない』なのかしら?」と人気の恋愛小説を思い出す。 さらに、辺境伯領には問題も多く・・・。 見た目は可憐なバリキャリ奥様と、片思いをこじらせてきた騎士の旦那様。王命で結婚した夫婦の話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/6/10:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...