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第2章

54.縁談4

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 パサランのお城へ戻ってから、しばらくお茶を楽しんだ後、すぐ戻るつもりだったのだが、お土産を何も買っていないことに思いいたる。

 「大変!手ぶらで帰りでもしたら、お母様に何を言われるか分かったものではないわ」

 ガブリエル様は、にこにことして、側近に布のかかったトレーを持ってこさせる。

 布をめくると、ダイヤモンド、サファイア、エメラルド、ルビーまで眩しいばかりに輝きを放っている。

 どれもお母様がお好きなものばかりで、目移りしてしまう。

 「すべて、どうぞ」

 まあ!ガブリエル様ったら、なんて太っ腹なの!好きー、好き。

 結局、トレーに乗っている宝石の数々をすべて、いただいて意気揚々とクローゼットの中を通り、帰っていく。

 ガブリエル様の私室のクローゼットは、ちと、マズかったと後悔しても、後の祭り。なぜなら、ジェニファーだけが出入りするわけでもないということを今更ながらに気づいたから。

 このゲートは教会につながっているので、さらにマズイ。内緒で逢引きができないからで、ジェニファーは、帰ってから、こっそり私室にガブリエル様との逢引き用ゲートを設けることにした。

 教会の出入り口は、どこにしようかと思案していたら、母上が、お土産用に頂いた宝石を見て、狂喜乱舞していらっしゃる。

 「ジェニファーちゃん、あのガブリエル様、見た目もいいけど、お土産にこんなものまで下さるなんて、もうあの方に決めちゃいなさいよ」

 ハイ。言われなくても、決めています。母上には、内緒にしているだけのことよ。

 今から思えば、あの鉱山はすべて宝石が採れるものなのかもしれない。だから、よく崩落事故が起きるのか、妙に納得するのは、お宝が眠る山の宿命だから。

 多くのお宝が眠る山には、「主」がいる。時には魔物であれ、神様であれ、その「主」が盗掘者からお宝を守っている。

 人間がこの国は、自分のものだと主張しても、しょせん神様からの借りものであることには違いがない。

 だから、時々神の存在を知らしめるために、崩落事故を起こす。

 今回は、ジェニファーが先にお祈りを捧げに行ったから、しばらくはもつだろう。それに祝福を与えたので、寿命でない限りは、死なない。

 けがをしても、病気をしても、すぐ治るから何かの拍子で事故に遭っても、なかなか死なない。

 それにしても、先ほどから母上が何か言いたげでジェニファーの方をチラ見している。

 黙って、無視してもいいけど……。

 あまりにも、頻繁に見られるので、却って神経を逆なでされるものだから、ついに口を開く。

 「お母様、さっきから何の御用かしら?」

 「ああ、いえ……」

 もうイライラするったら、ありゃしない!

 「あのね。こんな素敵な宝石を下さるパサラン国って、さぞかしきれいなところなのかもしれないと思って」

 「それで?」

 「あの……だから、アルカイダから越してきて、どこにも出かけていないから、たまには、その……外国旅行でもしたいかな?って思って」

 「はあ?」

 「いや、だから、さっきジェニファーちゃんが船を飛ばしているところを見たので、船ならひとっ飛びでしょう」

 「お母様は、空を飛びたいのですか?それともパサラン国に行ってみたいのですか?どちらですか?」

 「両方!だって、空も飛びたいし、外国へも行ってみたいのよ」

 うーん。この世界、前世もそうだったけど、空を飛ぶということは人類の夢でもあるから、母上が言っていることもわからなくはない。

 でも、それってどっちにしてもジェニファーなしでは、考えられないものだから、ジェニファー自信が添乗しなければならない。

 前世のヒューズ国みたいに生活必需品の絨毯があれば、すぐ飛ばせるけど、船を一層飛ばすなんて、なかなか大変で、「ハイ。操縦して」とは、いかない。

 南の島だから、花ござを編んでもらって、それに浮遊魔法をかけて、飛ばそうか?どうしたものか、と難しい顔で思案していると、さすがの母上も黙り込んでしまわれたので、そのまま私室に行く。
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