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第2章

48.噴火

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 ジェニファーが、すべての引っ越しを終え、修道士や修道女を回収することができたのは、婚約破棄から5日後のことであった。

 ジェニファーが気にかけているのは、黒い雨で、あれ以来、アルカイダに黒い雨が降ったという噂は聞いていない。

 前世では、割とすぐ降った気がしたけど、今回はおとがめなしなのかもしれないわね。なんせ、この前は両親や友達を人質として、牢に放り込まれたうえで、脅されたのだもの。

 今度とは、勝手が違って、当然かもしれない。

 ジェニファーが南の島を勝手に避難場所として作ってから、自給自足でも日々の暮らしは、そう変わらない。

 食べるには困らないが、いつまでもこのままとは、いかない。何か仕事がなければ。この島からは、一番近い陸地のものが漁に出たついでに、立ち寄ってくれたことで、その悩みは解決するかのように思えた。

 それまで船を作り、内海までは、漁に出たことがあったのだが、外海に出るには、やはり冒険でしかない。

 立ち寄ってくれた漁師の名前は、ロミーとケンで、今までなかったところに、急に島らしきものが視えたので、無人島か?と探検気分で近寄ってみたところ、立派な建物が並んでいるのを見て、これはどうしたことか?と興味がわき、接岸したということ。

 「へえ。この島は聖女様がお創りになったのですかい?そらまた、どうして?こうして、見れば、立派な教会があるのも納得いくって話でさあ。」

 「北の、ずっと先の北に、アルカイダという子国があるのは、ご存知ですか?」

 「へい!知っておりやす!この前、噴火したところですね!なんでも一国が滅ぶぐらいの勢いのある火山が噴火したって、そりゃあたまげたものですわい。」

 この話に、ある関わりだから避難してきたものは、驚いて、聖女様の顔を見つめる。

 ジェニファーは、つとめて冷静に

 「それは、いつの話のことでございますか?」

 「あっしらが聞いたのは3日ほど前だから、その2日前ということから……、今から5日前の夕刻というあたりでしょうか。」

 教会関係者は、指を折りながら、聖女判定が出て、10日だから、すべての引っ越し作業が終わった次の日であるということがわかる。

 「ひょっとして、聖女様はこうなることがわかっておいでだったのですか?」

 「いいえ。はっきりとした確信は、ございません。ただ、聖女様を蔑ろにした国は亡ぶと聞いておりましたので……、」

 そこで、ジェニファーは、言葉を区切る。まさに危機一髪ということか。もしかしたら、神様は、ジェニファーガ引っ越しを終えるまで、待っていてくださったのかもしれないと思う。

 今すぐにでも、転移して、アルカイダがどうなっているか見定めたい気持ちをグっとこらえている。

 「ありがとうございます。聖女様がこの島へ助けてくださらなかったら、業火に身を滅ぼされるところでした。」

 ふと気づくと、島民?から熱いまなざしを向けられ、頭を下げられている。

 ジェニファーはてっきり黒い雨が降るのだと思っていたが、今世は噴火だとは思いもしなかったことで驚いている。

 「ところで、聖女様を侮るとは、具体的にアルカイダ国は何をしたのですか?」ロミーとケンは聞いてくる。

 「浮気されて、婚約破棄されてしまいましたのよ。もともと政略での婚約者でしたけどね。」

 「するっていと、聖女様は、まだ独り身ということで間違いないのですかい?」

 「ええ。そういうことになりますかしら?婚約破棄されて、10日ほどしか経っていませんもの。」

 「ひゃぁっ!それなら、この島のアクセス見直した方がよござんすよ。こんな孤島では、縁談の申し込みに行きづらい。なんなら、俺たちが住んでいる国のご領主様に一言申し上げて、改善してもらいましょう。」

 「いいえ。そこまでのことしていただくわけには……。」

 「なあに、いいってことよ。そしたら、俺たちの住む国に聖女様が誕生したって、話になるさ。」

 そういうことか。ロミーとケンは、聖女様発見に一役買ったことで、ご褒美にありつける。
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