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第1章

23.巡礼の旅9

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 ヤーパン国を後にして、船でアサシン国へ行く。

 ジェニファーは船に乗るのは2回目で、最初は、悪党に誘拐されたときのこと、あの事件がきっかけでセシールは護衛の近衛騎士と結婚した。それから寿退社のはずが、この巡礼が終わるまでという条件付きで、今もジェニファーの侍女として、仕えてくれている。

 セシールが玉の輿婚に乗ってからはというもの、ブレンディ家には、セシールの後釜を狙って、侍女候補が多数面接に来ているらしいが、面接に来る娘のほとんどは、男爵家が主で、とても王太子妃殿下の侍女としては不適格の家格ばかりで、使えない。

 侯爵家の侍女としても、使えないような家格でよく応募してくると思うわ。まあ、玉の輿は手っ取り早い下剋上だから仕方ない、ということか。

 セシールのお相手のジェラード近衛騎士は、近衛騎士になりたいと思えば、剣の腕前だけでなく、家柄もよくなくては近衛騎士にはなかなかなれない。

 そういう意味で、セシールは玉の輿に乗ったと言える。

 でも恋愛結婚だからね。家格がギリギリでも釣り合ったのは、偶然の結果だとしか言いようがない。

 ブレンディ家では、今いる侍女の誰かをセシールの後釜にするつもりらしいから、下剋上にはならないと思う。

 そのセシールは、今、大変な船酔い状態で、最初に乗った船は運河で、しかも緊張していたからならなかったのか、ゲロゲロと海に向かって、放出している。

 回復魔法をかけてあげてもいいのだけど、ジェラードが背中をさすっているみたいだから、そっとしておいてあげよう。

 ところが、セシールの容態は、陸に上がっても、一向に良くならない。

 これは、ひょっとして、ひょっとするかも?

 ジェニファーは、助産婦さんを呼び、セシールを診せる。妊娠2か月の最初の方らしい。

 「良かったね。おめでとう。」

 「そんな……奥様より早くに、すみません。」

 セシールは恐縮しきりだ。

 「こればかりは運もあるからね。」

 その日の夕刻、セシールを連れて、4人で、ジャガード国のセシールの実家に飛んだ。

 公式に里帰りをするまでの間、セシールを預かってもらうために、ジェラードは残るか、最後まで聖騎士としての役目を果たすか、本人に選ばせることにする。

 聖騎士であり、近衛騎士でもあるジェラードは、王族の近くで、聖女様の近くにいなければならないと定めがある。

 でも新婚だし、別にいてもいなくてもいいと思っているのは、ジェニファーだけ。

 ジェラードは、セシールの両親に頭を下げ、後、2週間ちょっとで、迎えに行くことを約束し、それまで面倒をかけますと言って、家の前で待っていたジェニファーのところへ戻る。

 ふーん。まあ、妥当と言えば妥当な選択だよね。

 それからブレンディ商会に立ち寄り、アサシン国で買った大きな壺を傘立ての代わりに玄関近くに置くと、金堂のディスプレイの中身を陶磁器に替え、両親に挨拶もせず、そのままアサシン国へと戻る。

 下手にセシールのことを言えば、「まだか。」と言われるのがオチだから。

 アサシン国の夕飯は取れたての海の幸に舌鼓を打つ。

 お肉料理もいいけど、毎晩では飽きてくる。たまにはお魚料理も悪くはない。

 アサシン国を発つとき、新鮮な魚介類をまとめ買いして、空中クローゼットの中に入れて持ち運びしようかしら。と思うぐらい美味しかった。

 それで、あのヒューズ国での最後に魔導師が言った言葉を思い出し、うまくいけばアサシン国を冷蔵庫代わりにできるかも?という発想に行きつく。

 わざわざ新鮮な魚介類を持ち運ばなくても、アサシン国の市場と直結できたら、どこにいても、新鮮な魚介類が手に入り、食べられるのではないかと思いつく。

 早速、実験とばかりにあれやこれやと、いろいろ試してみるが、どうしても最初の空中クローゼットの中に入れない。

 あの魔導師、わざと意地悪して、ちゃんとした方法を教えてくれなかったのではないかと思い至る。

 逆転の発想で、空中クロ-ゼットの中で転移魔法ではなく、定点を見つけ、それを空中クローゼットにつないでみる方法をとる。

 すんなりうまくいった。
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