上 下
9 / 99
第1章

9.人さらい1

しおりを挟む
 セシールがアイスクリームを買って、戻ってきたとき、お嬢様の周りがなんとなく雰囲気が違って見える。

 何か、今までと違う雰囲気を纏っていらっしゃるように見え、近衛騎士の方々も、お嬢様に跪いていらっしゃるし、セシール自身も、アイスクリームを持っていなかったら、跪くきたい気分になった。

 「わぁ!美味しそう。」

 その一声で、緊張感がプツリと消えたような?いつものお嬢様に戻られて、ホッとしていると、近衛騎士から怒られ、ビックリする。

 「侍女殿、聖女様から離れられるときは、我々に一声かけてください。」

 「はい。すみません。以後、気をつけます。」

 「セシールにアイスクリームを買ってきて、と頼んだのは、わたくしですわよ?なぜ、それをわたくしに言わないのですか?セシールに謝ってください。ほら、かわいそうにこの娘、今にも泣きそうな顔をしているではございませんか?若い女性をイジメるようなことを言って、恥ずかしくはないのですか?」

 お嬢様が、セシールのために怒ってくださり、涙が引っ込んでしまう。

 クスクスと笑い、お嬢様の横へ腰掛けアイスクリームを頬張る。冷たくて、甘くて、美味しい。

 「セシール嬢、先ほどは言葉が過ぎました。許してください。」

 セシールは、満面の笑顔を浮かべて、「はい。」と返事すると、なぜか、その騎士が顔を赤らめる。

 ここにも、ひとつ恋の気配がする。

 騎士の名前は、ジェラード。セシールがあまりに可愛い笑顔を見せたので、つい見とれてしまったのだ。

 王太子妃殿下であり聖女様をお守りするという任務の最中にも関わらず、セシールという娘に恋をしてしまうなんて、ジェラードは己を奮い立たせようと、あえて、難しい顔をして、「それでは、ごゆるりと。」一礼をして、背を向ける。

 その後ろ姿に聖女様とセシール嬢は、クスクスと笑っている。

 何がおかしいのか?よくわからないジェラード、首をかしげながら、持ち場に戻る。

 アイスクリームを食べ終わり、再び、散策を続ける二人、今度は、ウインドウショッピングと洒落込むつもりでいる。

 高級商店街へ行くつもりが、噴水に目を奪われ、真逆の露店が建ち並ぶ通りに差し掛かってしまう。

 「これはこれで面白いかもしれないわね。」

 赤、青、黄色、派手な色合いのテントが建ち並ぶ店を一軒一軒冷やかしながら歩く。その後ろには、ピタリと尾行しているジェラードの姿がある。

 野菜、果物、肉、布地、串焼きなどの食べ物屋さん、それに輪投げなどのゲームができるところ、見世物小屋が目白押しに並んでいる。

 「ごった返しているけど、何て魅力的なの!こんなところ、ジャガード国にはなかったわ!」

 気が付けば、さっき、アイスクリームを食べたばかりだというのに、今は、串焼きを片手に持ち、歩きながら食べるというお行儀の悪さを披露しながら、深窓の令嬢らしからぬ楽しさを満喫している。

 もう晩御飯が食べられないほど、お腹がいっぱいになった二人は、どこかでお茶でも飲んで帰ろうと話し合っていると、不意に腕を引っ張られ、テントの中に引きずり込まれてしまった。

 そのテントは怪しげな真っ黒の布地のテントで、外からは様子が見えない。

 「きゃぁーっっ!」

 真っ先に叫び声を上げたのは、セシールで、その声にジェラードが黒のテントに飛び込んだ時は、二人の姿ばかりか、もぬけの殻の状態であった。後方の運河に、船に乗せられている二人の姿が見える。

 「しまった!」

 ジェラードは近衛専用の笛を吹き、全員を招集する。

 ジェラードは素早く船を用意させ、船で後を追いかけるチームと陸から馬で追いかけるチームの二手に分けて、探索しながら聖女様奪還を目指す。

 ついで、教会と王城に連絡を取り、応援を頼む。

 その頃、セシールは恐怖に怯え、聖女様は、というと感激していらっしゃるご様子に悪党どももズッコケている。

 「まあ!船にまで乗せていただけるなんて!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね

白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。 そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。 それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。 ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。

処理中です...