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第1章

8.町娘 ざまあ

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 王城に戻ったジェニファーは、抜き足差し足で、寝室に向かうが、すぐに見つかり、アレクサンダーの前に引きずり出される。

 「うう……、ごめんなさい。」

 アレクサンダーは、何も言わずにただジェニファーを抱きしめる。

 「疲れただろう。早く休むがいい。」

 怒られなかった。ホッとしたのもつかの間、セシールから滅茶苦茶怒られた。

 「どこへ行っていたのですか?」

 「あのね。あまりにも眠かったので、お昼寝をしに……。」

 「どこへ?」

 「王都の実家に。」

 「は?……ご実家に帰られたのですか?」

 「そうなの。起きたら家族会議されていて、ビックリしたわ。」

 「お嬢様は、転移魔法をされて、ご実家へ昼寝に帰ったとおっしゃるのですね!嘘です。そんなこと信じられません。」

 「本当よ。父上に帰る前に何か食べて帰れと言われて、パンとスープだけ頂いたのよ。」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 翌朝、またしても、大聖堂からの呼び出しに渋々、出かけていく。

 「いやあ、昨日は、聖女様が突然消えられて、ビックリいたしました。あれは、転移魔法でしょうか?実にお見事です。して、どちらに行かれましたか?……、あ、いえいえ詮索する気などございません。ただ後世の参考にお聞きしているだけです。」

 ジェニファーは仕方なく、昨日、あまりにも眠かったので、お昼寝をするために、ふかふかのベッドを連想すると実家に戻ってしまったことを正直に話す。

 「ああ、なるほど。聖女様は、まだバラード国は、昨日で2日目でしたから、ご実家の方へ飛んでしまわれたわけですね。それは、ようございました。これが全く見ず知らずの家のベッドでしたら、大変なことになるわけですが、ご実家なら安心です。なるほど、これは大いなる記録になります。ありがとうございます。」

 その日の講義はそれで終了で、後は自由時間となった。

 まだ嫁いで3日目、ほとんどこの国のことを知らないジェニファーは、自由時間に街へ行きたいとアレクサンダーに言う。

 アレクサンダーは、しばらく逡巡したのち、快く許可してくれる。

 ただし、近衛を連れて行くように、とだけ言われる。

 アレクサンダーからすれば、ダメだと言ったところで、転移魔法を使い好きなところへ飛んで行ってしまうような妻だから、ここは下手にNGを出すより自由にさせた方がいいという判断をしたのだ。

 近衛を連れて行かせれば、何も問題は起きないだろうという読みがある。実際、聖女様の力を解放すれば、近衛などひとたまりもないのだが、アレクサンダーもそこまでは、と過小評価をしていたのだ。

 セシールと二人で、町娘のような衣装に着替える。

 城門のところで、近衛と待ち合わせして、出かけることにするが、どう見ても聖女様、もとい王太子妃殿下には見えない。

 二人の若い町娘がキャッキャうふふをしているようにしか見えず、門番をしている衛兵も聖女様であることに気づいていない。

 街角には、何人もの近衛兵を張り巡らし、万が一にでも誘拐されることがないように万全の態勢で出かける。

 目立つ馬車は、町はずれに置き、そこからは徒歩での移動になる。

 バラード国は、さすがに国力が膨大なだけあり、ジャガード国の王都なんか比べ物にならないぐらい発展している。

 今日の散策は、ただの観光プラス今度、また実家に帰った時のために両親や兄上にお土産を渡そうと思っているので、下調べの意味も兼ねている。

 お上りさんよろしく、二人の若い娘は、キョロキョロしながら街を歩いている。

 「ねえ、セシール。みんなが何か食べているアレは何かしら?」

 「アイスクリームみたいに見えますわね。買ってまいりましょうか?」

 「ええ。お願い。」

 近くのベンチに腰掛け、セシールが戻るのを待っていると、ふいに若い男性が声をかけてくる。

 「お姉さん、このあたりで見かけないぐらい美人だね?どこから来たの?」

 それをジェニファーは無視する。

 「なんだよ、お高く留まりやがって。」

 その男がジェニファーの腕を掴みかかろうとした時、近衛が動いた。

 それより早く、ジェニファーは、無意識のうちに聖女様の力を解放して、その男に対して、威圧魔法を使っている。

 男は、その場にへたり込んで、動けない。そこを近衛に逮捕され、引きずられるように去っていく。
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