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第1章

7.お昼寝

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 結局、「聖女様御出現祝賀パーティ」に出席させられることになり、初夜もなく、翌朝は、早くからバルコニーに立たされ、国民に向かって手を振り続け、もう、疲れたのってなんのって、とにかく今は一刻も早くお風呂に入って、寝たい。ただそれだけを心から願っているというのに……、昨日の大聖堂から呼び出しがある。

 せめて、お風呂だけでも、とセシールがお湯を沸かしてくれた。こういう心遣いが嬉しいのよね。

 髪を洗い流してくれて、ようやく生きた心地がする。でも、まだ眠い。

 それでも、疲れの半分は取れたような気がする。

 着替えて、大聖堂に赴くと、もう皆さまおそろいで……。

 これから毎日、聖女様教育をしてくださるとおっしゃる。

 いえいえ。お忙しいのに、けっこうですわ。と言えない。

 圧が半端ないぐらい強いのだ。昨日もそうだったけど、大聖堂の中では、言いたいことも言えない。

 具体的に聖女様への教育内容というものは決まってないらしい。

 そもそも聖女様って何?というレベルの知識しかないジェニファーにとって、不安でしかない。

 ただ、聖女様というものは、国の安寧のために祈ることが主な仕事らしい。

 なんだ。それぐらいならできるか?と簡単に考えたけど、どうやらそれだけでは済まない模様。

 なんといっても、この世界では、女神さまに次いで偉い存在らしいから、その気になれば、国の一つや二つ、気に入らないという理由だけで消滅させることができるほどとも、司祭様から聞いた。

 聖女様が、消滅させるわけではない。神のお使いが聖女様に代わって、破滅させてくれるらしい。

 ふーん。となると、スカーレットとアーノルドを血祭りにあげることなど、いとも簡単にできるということか。

 今はまだやらないつもりだけど、とにかくあの二人が王都へ帰るか、それぞれの領地に引っ込むかによって、変わってくる。

 なんといっても、昨日、ブレンディ領地から出て行ったばかりで、まだ旅の途中だろうし、今、そこで聖女様の力を解放したら、周辺の領民に迷惑がかかるかもしれないから。

 司祭様の話によると、聖女様は、イメージするだけで、どんな魔法も使えるものらしい。たとえば、「指先をジッと見つめてごらんなさい。」

 「え?」

 「聖女様、何か欲しいものがございますか?例えば、お花とか?それを集中してイメージしてみてください。」

 そういわれましても、何も欲しいものなどない。

 その時なぜか、青空に浮かぶ七色の光のスぺクタル、そう。虹を思い浮かべてしまったら、なんと!ジェニファーの指先に小さな虹が浮かんでいる。

 「おお!さすが、聖女様だ。」

 「聞きしに勝る御業。美しい。」

 司祭様は、修道士に命じて、何やら書き物をするように指示していらっしゃる。

 「それは、いったい何をされているのでございますか?」

 「後世のために聖女様の御業を書き記しておるのです。ジェニファー様の後、向こう1000年は、聖女様が出現しないと言われておりますので、後世のもののために、教会の記録として、残しておくのです。」

 ということは、教育でも何でもない。つまりは、ジェニファーは実験動物モルモットとなんら変わりがないということになる。

 眠いのを頑張って、起きて大聖堂に呼び出され、挙句の果てがモルモット扱いとは、さすがに憤慨して、このまま帰ってやることにする。

 集中して、ふかふかのベッドを想像する。そして、そのまま、「エイヤ!」の掛け声とともに、飛ぶ。

 テレポートは、見事成功し、ジェニファーは深い眠りにつく。

 しかし、目覚めてから青くなったことは間違いない。

 実家の王都の嫁入り前の自室のベッドで休んでいたから。今頃王城でも、大聖堂でも、大騒ぎになっているだろうな。

 大騒ぎになったのは、バラード国だけではない。ブレンディ家でも大騒ぎになっている。昨日、嫁に出した娘がもう王都に戻ってきて、自室で寝ていたのだから、出戻ってきたか?と勘違いされ、家族会議が開かれていたのだ。

 「いやいや違うの!これには、訳があって……。」

 これこれしかじかと、結婚式からベッドで寝ていたわけを話すと、さらに驚かれ、

 「ジェニファーが聖女様になったと?それは、まことか!」

 「ええ。そうみたい。昨日、あの後バラード国の大聖堂へ連れて行かれ、そこで結婚の誓いをバラード国風にもう一度と言われ、水晶玉に手をかざしたら、金色の光が出て、まぶしくって。」
 
 「それで朝まで、一睡もせずバラード国の貴族たち全員に挨拶を受けていたと申すのか?」

 「でも、たぶん、今頃、大騒ぎになっていると思うから、いったん帰りますね。」

 「ああ。せめて、何か食事でも摂ってから帰りなさい。どうせ、お腹もすいているだろ?」

 「ええ。セシールがいい仕事をしてくれるのよ。」

 パンと簡単なスープだけを食べ、王城に戻ることにする。

 「それじゃあ、行ってきます。」

 王城の玄関ホールを目指して、飛ぶ。

 最後に見た家族の大きく見開く目が印象的だった。きっと、家族には、だんだんと薄れて行くジェニファーの姿に驚愕しているのだと思う。
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