【第1章完結】前世女医の公爵令嬢が婚約破棄され、自殺未遂の果てに聖女と崇められる~現代知識と異世界通販で成り上がる

青の雀

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第1章 恋愛

婚約破棄から前世の記憶

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 王都にある王立学園の卒業記念祝賀パーティでのこと、婚約者にエスコートされずひとり寂しく会場入りすると、そこには王太子殿下マリオス様が先に来られていて

 「公爵令嬢フローレンス・エヴェラ、貴様とは、今日をもって婚約を破棄することを宣言する。」

 「なぜでございますか?昨日まで愛していると仰ってくださっていたのに、嘘だったのですか?」

 「俺には、他に好きな女性がいたのだ。だがその女性のことを諦めようとしていたが、どうしても諦めきれない。だから、婚約破棄してほしい。君を幸せにすることなどできないのだ。」

 「それでは、何も答えになっておりませんわ。要するにわたくしとのことは政略だから、結婚したくないということですわね。わかりました。マリオス様、愛していました。今までありがとうございました。」

 それだけ言って、フローレンスは会場から飛び出していく。向かった先は、会場の裏手にある崖まで一目散に走り、そこから飛び降りた。

 「フローレンス!」

 マリオス様の焦った叫び声を聞きながら、川に向かって落ちていくフローレンスは川に着水する前に意識を失った。

 崖の上では、マリオスが膝をついて項垂れている。
 卒業記念パーティどころではなくなり、来賓の騎士団長がフローレンス救出のため一個隊を動かしているが、川が激流で、もう落ちたところにはフローレンスの姿はない。

 来賓で来られていた国王陛下は、すぐさまマリオスの身柄を拘束して牢に入れる。
 フローレンスの父エヴェラ公爵は宰相であるが、崖から「今、助けに行くぞ。」と飛び降りようとしているのを周りが必死になって、止めている。

 フローレンスは、意識を手放してから、前世の記憶を思い出してしまう。前世日本人で私立の大病院の院長の娘としての前世。名前は岡崎友里恵、国立大学の医学部を学部卒業して医師国家試験に合格後、その国立大学で前期研修を修了したときに、不治の病に侵されていることがわかるが手遅れで、手の施しようがなくあっけなく死亡、享年25歳。

 気が付くとフローレンスは、どこかのお部屋の寝台にいる。余計なものは置いていないが見るからに豪華な調度品である。

「あら、気が付かれましたか?奥様を呼んでまいりますね。」

 パタパタと廊下を歩く音、扉の開け閉めの音が聞こえる。

 「まぁ、気が付かれてよかったですね。ずいぶん、水を飲んでおられたようでカラダが冷え切っていたのよ。」

 「あの、わたくし……、あまり記憶が……。」

 「いいのよ、事故か自殺かわからないけど、よほどのことがあったのでしょうね、あなたのお名前は、フローレンス・エヴェラ。家名があるから、どこかの貴族のお嬢さんでしょうけれど、この国にエヴェラという名前の貴族はいないから、川の上流のアトランス国から流れてきたのかしらね。」

 「わたくしの名前がフローレンス……、どうして名前がわかったのですか?」

 「フローレンスの持ち物にお名前が書いてあったのよ。それと立派なドレスをお召しだったから、パーティの最中で事故に遭われたのかもしれないわね。」

 「そうですか……。」

 「どちらにしても今はゆっくり身体を休めなさい。記憶のことも含めて、今後ゆっくりと考えましょう。あとで温かいスープを持ってくるわね。」

 ほどなくして、温かいスープが運ばれてきた。冷えた体に心地よく美味しい。スープにパンを漬け食べて、少し横になれば知らない間に眠りに落ちていく。

 また前世の夢を見た。大学時代のキャンパスで友人や恋人と笑い合っている自分の姿はもうひとつわからないけれど、確かにその場面にいた記憶がある。定期試験のレポートを必死に書いている自分、大学病院で診察室に入らせてもらって、患者さんから直接、相談を受けている自分、将来にあるのは夢と希望だけで、絶望があることを知らなかった自分がいる。

 それから、瞬く間に3日が過ぎて、ようやく起き上がれるようになる。この世界での記憶はほとんど失われているが、前世のアイデンティティがあるので、かろうじて踏ん張れている状態である。

 自分の名前がフローレンス・エヴェラというだけで、どんな人生を送ってきたかも覚えていない。でも今はそんなことどうでもいい。二度目の人生は、岡崎友里恵としての医者人生を全うしたいと考えている。ここは異世界、できることは限られているかもしれないが、前世で7年間医学を学んできたことは無駄にはならないだろう。

 屋敷内の庭園を散歩しながら、つらつら今後のことを思い悩んでいる。医者であったことは思い出したが、何もない異世界でどうやって診療していけばいいのか?この世界に病院があったのかどうかも覚えていない。前世で行った軽井沢のホテルを思わせる外観と庭園でのんびり、あれやこれやと考える。

 この時代なら、薬草かなぁ?庭園でよもぎ・ドクダミを見つけて、薬草から薬を作るのか?薬草のことは、あまり詳しくないので、とりあえず薬草を勉強しなおそうと思う。

 屋敷の者に頼み、図書室を案内してもらう。とりあえずこの世界の字は読めるので、片っ端から薬草関係の書物を読み漁る。するとフローレンス時代の記憶なのか、1冊の植物図鑑を手にとる。妙に懐かしい気分。なぜだかわからないけれど、フローレンスによく似た女性の姿を思い出した。フローレンスのお母さんなのかもしれない?この女性が植物図鑑を愛読していたのかどうか??

 その時、屋敷内が急に騒がしくなる。この屋敷の主人が倒れたらしい。そういえば、ここに運び込まれてから一度もここの旦那様にお目にかかったことはない。

 何ができるかわからないが、旦那様のお部屋に急いで向かう。

 旦那様と呼ばれる人がベッドの上で、心臓を押さえて苦しんでいる。奥様が旦那様の隣に立ち、オロオロされている。

 フローレンスは、「わたくしは、医者です。どいてください!」と声をかけ、旦那様の側へ行く。

 旦那様の脈を測り、バイタル値が欲しいと思えば、目の前にタブレットが浮かぶ必要な医療器械をクリックしていくと、血圧計、心電図測定器、血液分析機、カテーテル、注射器・針、ゴムチューブ、ディスプレイ、ゴム手袋、アルコール綿などとにかく診察に必要なすべての医療器具が手に入る。どういう仕組みかわからないけど、前世の記憶で必要なものがわかったのかもしれない。

 中世ヨーロッパ風のお部屋があっという間に現代日本の病院の入院個室へと様変わりしていく。様々な医療器械を必要とされる場所に設置していく。白衣とマスクに着替え、奥様にも同じように渡す。

 SpO2値は80、血圧は上が220もある。心電図を測れば、左冠動脈に閉塞している部位がある。左ひじの内側の静脈から血液を採取し、その穴に点滴の管を差し込む。血液分析機にかけ、その間にカテーテルの用意をする。高圧酸素吸入を開始すると、SpO2値が90まで回復してきた。

 左手首をゴムチューブで縛り、麻酔注射をして、奥様に向き直り

 「緊急手術をします。よろしいでしょうか?」

 奥様は、すっかり青ざめ「お願いします。」と頭を下げている。
 麻酔が効いたのか、旦那様は安定した寝息に変わっている。

 カテーテルを左手首の動脈から差し込む、画像を見ながら慎重に閉塞部分を広げていく。
 手術は、無事、成功した。しばらくは点滴と酸素吸入で様子見である。

 「一命をとりとめました。あとは、旦那様の生きたいと思う心と体力次第です。」

 詳しい病状の説明を……と思ったんだけど、奥様がフローレンスの手を握りしめて、放してくれない。涙を滝のように洪水のように流されて

 「旦那様の命を助けてくださり、ありがとうございました。」

 大泣きされるのが落ち着かれてから、話をすることにしよう。




バイタルサインについて、ご質問いただきました。
バイタルサインとは、生命兆候のことで、ご指摘いただいたように体温、脈、呼吸数、血圧を指しますが、病院によってはSpO2のことをバイタル値と呼ぶところもあり、誤解を招く表現であったと反省しています。

SpO2とは血液中の酸素量をさします。経皮的動脈血酸素飽和度です。
専門的になるので、作中に酸素量と記述していますが、フィクションでありファンタジーであったことから適当に書いてしまいましたこと、お詫び申し上げます。
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