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「よさないか!みっともない」
止めに入ってくれた男性は、急行馬車でご一緒した担ぎ屋商人さんだった。
「申し遅れました。私は、この商業ギルドの長をしております。ベネディクトと申します。先ほどは名乗らず、失礼しました。このギルドの裏で、小さな商店をしている者です」
「わたくしは、グレーテル・グリムでございます。先ほどは、ありがとうございました。グリム商会は、わたくしの父が営んでいる商会でございますれば、このパラソルも、こんなにも人気があるものとは存じ上げておりませんでした」
「ほほう。グリム商会のお嬢様でしたか。確か伯爵家でしたよね?」
伯爵令嬢だとわかり、先ほどまで喧嘩して値を吊り上げていた商人が急に大人しくなる。
「ひょっとして、御父上は、この地で新たに商会の支店を立ち上げるつもりで、お嬢様に下見を兼ねて……?」
「いいえ。違います。わたくしの気まぐれと申しますか、エッフェルで嫌なことがあって、それで逃げてきましたの。しばらく、ここに逗留させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。そういうことなら、喜んで歓迎しますよ。今日の宿泊先はもう、お決まりですか?」
「いいえ。それもまだ、こちらに伺ったのは、良心的な宿をご紹介いただけたらと思い、来ました」
ベネディクトさんは、実務的に何軒かの宿を紹介してくれて、各宿屋の説明を追加してくれた。
「この宿屋は、飯がうまいことで有名です。そして、こちらの宿はなんと言っても風呂と部屋がきれい。ヒノキを使った宿として有名です。そして、こちらの宿に至っては、女性専用のフロアがあるというところです」
「なるほど。一長一短ですね」
グレーテルは、最後に勧めてくれたレディス専用フロアがある宿にした。これ以上、男性に穢されたくないので、少々ご飯がマズくても、安全を最優先とする。
「ああ、それが良いでしょう」
ベネディクトさんは、簡単な地図を書いてくださり、それを手に外に出た。ストックホルムの王都は馬車のターミナルから、それぞれ道が放射線状に伸びている。それで、いったん、馬車ターミナルまで戻って、そこから無事、宿屋「レディス」にたどり着くことができた。
宿屋の造りは、1階部分だけが男性とファミリーが利用できる風呂と食堂、客室、2階以上が女性専用になっている。風呂も食堂も女性専用のところに、きちんとある。
これなら何となく安心だ。2階へつながる階段も従業員用と女性でなければ入れない結界が施してある。
客室には、それぞれ内側から鍵をかけられるようになっているので、さらに安心できる。アミューズメントも、女性が好むようなスリッパや部屋着が各種取り揃えておいてあるから、嬉しい。
それに女性客室の壁紙もパステルカラーを中心に優しい、温かいイメージを作っている。
だから、男性がいないので、部屋着のまま食事に行くことも、風呂に入りに行くことも可能なわけで、非常に気が楽。
そうよ。宿屋は本来こういうものでなくては。我が家と同じ気楽さ、温かさを提供してもらわないと困る。
宿屋「レディス」も数年前までは、一般の宿屋と変わりがなかったのだが、今から5年ほど前、酔った男性客が女性客の部屋に侵入し狼藉を働いたという事件が起こった。それで、以後、男性と家族客を隔離し、女性専用のフロアを設けたということだった。
どこにでもいるのよね。そういう不心得者が、男は笑って済ませても、女はそうはいかない。
またしてもヘンゼルのことが頭に過ぎり、不快感全開になってくる。
ムシャクシャしてきたので、お風呂上りにいったん着替えて、街を散策することにした。一応、ベネディクトさんから頂いた地図をポケットにしまいながら、あちこち見て回ることにする。
止めに入ってくれた男性は、急行馬車でご一緒した担ぎ屋商人さんだった。
「申し遅れました。私は、この商業ギルドの長をしております。ベネディクトと申します。先ほどは名乗らず、失礼しました。このギルドの裏で、小さな商店をしている者です」
「わたくしは、グレーテル・グリムでございます。先ほどは、ありがとうございました。グリム商会は、わたくしの父が営んでいる商会でございますれば、このパラソルも、こんなにも人気があるものとは存じ上げておりませんでした」
「ほほう。グリム商会のお嬢様でしたか。確か伯爵家でしたよね?」
伯爵令嬢だとわかり、先ほどまで喧嘩して値を吊り上げていた商人が急に大人しくなる。
「ひょっとして、御父上は、この地で新たに商会の支店を立ち上げるつもりで、お嬢様に下見を兼ねて……?」
「いいえ。違います。わたくしの気まぐれと申しますか、エッフェルで嫌なことがあって、それで逃げてきましたの。しばらく、ここに逗留させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。そういうことなら、喜んで歓迎しますよ。今日の宿泊先はもう、お決まりですか?」
「いいえ。それもまだ、こちらに伺ったのは、良心的な宿をご紹介いただけたらと思い、来ました」
ベネディクトさんは、実務的に何軒かの宿を紹介してくれて、各宿屋の説明を追加してくれた。
「この宿屋は、飯がうまいことで有名です。そして、こちらの宿はなんと言っても風呂と部屋がきれい。ヒノキを使った宿として有名です。そして、こちらの宿に至っては、女性専用のフロアがあるというところです」
「なるほど。一長一短ですね」
グレーテルは、最後に勧めてくれたレディス専用フロアがある宿にした。これ以上、男性に穢されたくないので、少々ご飯がマズくても、安全を最優先とする。
「ああ、それが良いでしょう」
ベネディクトさんは、簡単な地図を書いてくださり、それを手に外に出た。ストックホルムの王都は馬車のターミナルから、それぞれ道が放射線状に伸びている。それで、いったん、馬車ターミナルまで戻って、そこから無事、宿屋「レディス」にたどり着くことができた。
宿屋の造りは、1階部分だけが男性とファミリーが利用できる風呂と食堂、客室、2階以上が女性専用になっている。風呂も食堂も女性専用のところに、きちんとある。
これなら何となく安心だ。2階へつながる階段も従業員用と女性でなければ入れない結界が施してある。
客室には、それぞれ内側から鍵をかけられるようになっているので、さらに安心できる。アミューズメントも、女性が好むようなスリッパや部屋着が各種取り揃えておいてあるから、嬉しい。
それに女性客室の壁紙もパステルカラーを中心に優しい、温かいイメージを作っている。
だから、男性がいないので、部屋着のまま食事に行くことも、風呂に入りに行くことも可能なわけで、非常に気が楽。
そうよ。宿屋は本来こういうものでなくては。我が家と同じ気楽さ、温かさを提供してもらわないと困る。
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どこにでもいるのよね。そういう不心得者が、男は笑って済ませても、女はそうはいかない。
またしてもヘンゼルのことが頭に過ぎり、不快感全開になってくる。
ムシャクシャしてきたので、お風呂上りにいったん着替えて、街を散策することにした。一応、ベネディクトさんから頂いた地図をポケットにしまいながら、あちこち見て回ることにする。
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