婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀

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婚約破棄

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 シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。

 シルヴィアは、自分の部屋に荷物だけ置き、着替えて王宮のホールへ入った。
 目の前にいるのが、婚約者だろうか?いや、ピンクブロンドの女を連れているから、違うかもしれない。
 でも胸に赤いバラを付けているのは、目の前にいる男だけだった。顔合わせだから、目印に赤いバラを胸に付けている。お互いが初対面なので、わからないだろうという配慮である。

 「その方がシルヴィア嬢か?」と問われ、

 「はい。シルヴィアでございます。」とカテーシーで礼を取った。

 なんだか、偉そうな感じの男ね。と思っていた。

 「家名も付いていないような平民の女と婚約する気はない。俺は、伯爵令嬢のサーシャ嬢と結婚する。」

 ピンクブロンドの女が、これまた勝ち誇ったような顔をした。

 「あ、そうですか?それで、本当によろしいのですね?」
 「わたくしも父から命令されて、この場にいるだけですから、婚約破棄、お受けいたします。」

 さっさと引き上げようとしたところ、父がスカタンピ侯爵と共に現れた。

 「父上、家名も付いていないような平民の女と結婚できないと、たった今、婚約破棄されました。そちらの伯爵令嬢サーシャ様とご結婚されるそうです。」

 「スカタンピ侯爵、一体どういうことだ?」低音でドスの利いた声でびっくりしたわ。

 「わ、わ、わ。コラッ!ユーリン!勝手に、何ということをしてくれたっ!」

 ユーリン様はマヌケ顔している。「?」
 「父上!あんまりではありませんか!家名もない平民女と、いきなり婚約だなんて!だから、破棄しましたが、それが何か?」

 「ば、ば、バカ者!こちらにおわす御方をどなたと心得る、恐れ多くも王女シルヴィア殿下であらせられます。控えおろう無礼者めが!」

 「は?王女殿下?それで家名を名乗られなかった?」
 ユーリン様は、青ざめ、その場でへたり込んだ。
 ピンクブロンドもその場から、いち早く気配を消した。

 「スカタンピ侯爵、相応の慰謝料を払ってもらうぞ。それだけでは済まさぬがな。伯爵令嬢サーシャ嬢も相応の罰を、追って沙汰をする。」

 衛兵が、3人を引き連れていった。

 父上は、私に向き直り、
 「おかえり、シルヴィア。留学はどうだった?楽しかったか?」

 「ただいま。父上、留学生活は、とても充実しておりました。永きに渡り、留学させていただきありがとう存じました。」

 父上は、壇上に上がり、
 「今宵、我が娘の婚約披露パーティの予定であったが見ての通り、流れてしまった。散会するのも吝かなので、好きに食って、飲んでくれ。」と言われた。

 私も、すぐ引っ込もうと思ったけれど、5年ぶりの王宮なので、皆さまと歓談した。
 すると、私と歓談している方の後ろ側から、列ができた。「?」どうやら、貴族の次男、三男など、領地を継げない貴族の令息たちが並んでいる模様。

 そう、私は、王女殿下。もし、結婚して王籍を離れたら、公爵になる身分。
 うしろに並んでいる令息たちは、公爵の夫の地位を狙って、集まってきているのだ。

 おあいにく様!
 私には、留学先で好きな男性がいたのだ。でも、こちらで婚約者を決められてしまって、彼のプロポーズを受けられなかった。
 実は、今回の帰国、その彼氏と一緒なんだけどね。婚約破棄されちゃったから、パーティが終わったら、父に紹介するつもり♪

 留学先の国の王子様だけど、
 「シルヴィアが手に入るのなら、たとえ王位継承権を放棄しても、結婚したい。」
 なんて、言ってくださっているのよ。素敵でしょ♡

 パーティが終わった。
 私と話せた貴族令息は、皆満足そうに帰って行った。

 彼氏を呼び寄せて、父に紹介した。
 父は、不機嫌そうにしながらも、
 「シルヴィアのことを、宜しく頼む。」と言ってくれた。

 その夜、彼氏と愛し合った。
 彼氏も、もし私が婚約者と意気投合してしまったら、という不安から何度も求められた。

 翌朝、シルヴィアは彼氏と共に、また留学先へ旅立った。
 彼氏の王位継承権がダメになれば、すぐ帰国して、こちらで結婚式を挙げるつもりでいる。
 良くて王太子妃、悪くても公爵夫人、そう思えば割り切れた。

 そして、スカタンピ侯爵は、領地没収の上、改易。その息子ユーリンと伯爵令嬢サーシャは平民落ちとなった。

 平民あっての貴族であるということを忘れ、平民を愚弄した。という理由で。
 自ら、平民になり、よく考えなさい、ということらしい。

 ユーリンとサーシャは、平民として結婚したが、夫婦げんかが絶えなかった。
 「ユーリンのド甲斐性なし!もっと稼いで来い!」
 「サーシャ阿婆擦れバカ女、お前のせいで人生滅茶苦茶だ!」

 シルヴィアは、というと見事、王太子妃になりました。


おしまい
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