死者からのロミオメール

青の雀

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 先王は上王となり、先王妃は太王太后となる。ロアンヌも王太后になるのかと思いきや、なんと!王妃になってしまう。

 先王の王妃が後妻であり、今王と赤の他人である場合は、未亡人となった元王妃と血のつながりがないので、よくあることと言えば、ある話なのだが、ホワイトとロアンヌは違う。いくら、ロアンヌの脇の下から生まれてきたとはいえ、ロアンヌの胎内に空く夏とも1か月はいた王であるわけで、今回の決定は、ホワイトの希望がそのまま押し通された結果なのだ。

 それでも重鎮の中には、近親相姦婚などという陰口を叩くものも少なからずいたが、面と向かってホワイトには向かうものなど一人もいるはずがなく、みんなイエスマンと化している。

 理由は、年頃の高位貴族の娘がおらず、形だけの王妃として適任者がロアンヌ鹿いないということで……。元より、ロアンヌに拒否権はない。

 ロアンヌが王妃となれば、王位継承権者の第1位がウイリアムのままで、第2位がフランシスコに変わりがない。

 これが、もし国外に王妃を迎えれば、ウイリアムに王位継承権が失われてしまうことになるので、渋々?承諾したのだ。

 実際には、ホワイトとの夫婦の営みが忘れがたく……、とは口が裂けても死んでも言えない。

 いずれにせよ識者の見解は、ホワイト王が真に妻となるべく女性を見つけられるまでのリリーフ的な存在として、ロアンヌは受け入れられたことに間違いはない。

 ピューリッツ国は、神が収める国として、生まれ変わる。国土は、ホワイトが王になってから、一気に繫栄し、畑は豊穣となる。病は、王城に向かって拝めば、誰でもたちどころに消え失せ、皆が健康で平等な国となりつつある。悪党や野盗と言った類の連中は、ピューリッツの国土を踏んだ途端に、その足元から腐っていき、一歩も中に入れず、足から朽ちて、死んでしまう。

 ホワイトが王になってから、税金も格安になり、以前からの人頭税は廃止される。人頭税とは、赤ん坊でも寝たきり老人でも、その家にいる人間に対して、一人いくらの税金を取られるシステムで、貧乏人の子だくさんほど、高額納税者となってしまう悪制だったのだ。

 民衆は、先王の時代、とりわけリチャードが学園を卒業し、権力を揮うようになってから殺伐としていた雰囲気は消え失せ、みんなが笑顔で暮らせるようになったことは秀逸である。

 ホワイトは国務が落ち着いたころを見計らって、改めて学園に編入するという形で入学する。神とはいえ、若い男の子に違いはないから、たまには同級生と悪ふざけもいいだろう。

 その間の執務の代行者として、クロイセン公爵が選ばれる。

 父は、張り切って、「さすがクロイセンの血を引くもの」と頓珍漢に喜んでいるようだが、少し違うとロアンヌは思っていても、口にはしない。

 ロアンヌは自分のカラダから出て来たという事実よりも、時折、ホワイトに他人を感じてしまうことがある。それは何も夜を共にしたからというわけではなく、得体のしれない何かを感じ取ってしまい、恐怖に思うことがある。

 もともと神様だからかもしれない。いや、神様というような崇高な存在ではなく、もっと違うような?そこまで考えて、もう思考を停止することにした。考えても、現状は変わらない。真実を知らない方が幸せなこともあるから。



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 学園に入ったホワイトは、あっという間に人気者になる。男子生徒は、将来の出世コースに乗りたいがために、揉み手ニコニコ愛想が良く、女子生徒もまた玉の輿狙いで上目遣いに見上げてくる。

 席替えの時など、もう大変で誰もがホワイトの席の近くに行きたがり、じゃんけんやくじ引きにまで発展する。

 ホワイトは人間界に生まれて、まだ1年足らず同い年の子供は、全員オムツをしている。本来は、同い年の子供たちとゆっくりのんびり、徐々に成長していってほしいところだが、いきなり大人の体格に成長してしまったところが、いかにも神様らしいところ。

 少しでも、ホワイトに目立って、顔や名前を憶えてほしいと思っている生徒は多く、皆、真剣そのもので、成績で目立たない子はホワイトの目の前で、わざと転んで、でも大丈夫と言わんばかりに笑顔を振りまいてみせる。

 ホワイトは内心、自分の方がはるかに年下なことを棚に上げて「青臭いガキどもめ」、と思って、帰ったらロアンヌを抱いて、鬱憤晴らしをするつもりでいる。

 かわいそうなのは、鬱憤晴らしで抱かれるロアンヌなのだが、まんざらでもない。エディプスコンプレックスそのものなのだが、本人同士がそれをかたくなに認めないものだから、どんどん深みにはまっていく二人の関係性。

 冷静に考えれば、神とも思えぬ所業なのだが、二人は肉欲の海に溺れてしまい、周りが見えなくなっていく。

 そんな時、ホワイトが戴冠して初めての夜会が行われることになった。今までは、国の耐性を作るため、忙しくて、貴族との情報交換の場を怠っていたのだ。
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