死者からのロミオメール

青の雀

文字の大きさ
上 下
20 / 27

20.

しおりを挟む
 イソフラボン公爵は娘のことを思い余ってのことで、王家に謀反を興す気などないと釈明したが、3万の大軍は一公爵家にしては多すぎる軍で、謀反の疑いをかけられてもやむなしと判断され、国家反逆罪に問われ、一族郎党全員死罪となるが、他の領地にいた騎士たちは、特段のお咎めがなく、多くは、騎士団入団テストを受け、フランダース騎士と同じく王国のために汗を流している。

 「ロロ」から思わぬ展開になってしまったけど、ロアンヌにとっては、出産を無事に済ませることに頭がいっぱいで、他に考えることはない。

 ロアンヌは、何も知らなかったけど、学園の卒業生の間では、「ロミオメール」や「ジュリエットメール」が近頃、横行しているらしい。

 「ジュリエットメールの送り主は、男爵令嬢のリリアーヌ・ドイルがダントツに多いらしいが、婚約破棄された令嬢もチラホラ混じっているとか?

 それならロバートから、ロミオメールが来たこともなんとなく頷けるような気がしてきた。一種の流行りなのね。誰かが、その流行りに便乗して悪戯をしているとしか思えなくなったから、もう気に病むことはない。

 後のことは、リチャード殿下に任せて、さっさと休むことにする。胎教も頑張らなくては!

 その頃、リチャード殿下もしつこいジュリエットメールに悩まされていた。相手は言わずがもの男爵令嬢のリリアーヌ・ドイル。

 学園時代、一度もまともな話をしたこともないのに、なんで今更、こんな脅迫めいたメールが来ること自体がおかしい。

 こんなこと、とてもロアンヌには言えないし、知られたくない。ロクに接点もないのに、不敬罪で引っ張ってやろうかとも思うが、相手にすると余計付け上がりそうな気配もある。

 どうしたものかと、学園の同級生で現在は、リチャードの補佐をしてくれているクリストファー・アーガイルに聞いてみると、なんと!クリストファーのところにもジュリエットメールが来ているという。

 しかも相手は、やはりリリアーヌ・ドイルという。

 結局、このメールを送って反応があったものを狙っているとしか思えないから、ほったらかしにしているという。過剰に反応すると、いけないからとリチャードも釘を刺されることになったのだ。

 一応、学園にも報告するが、今、学園内でもこのロミオメールにジュリエットメールが横行し、対応に苦慮しているとのこと。

 なんで、こういう妙なものが流行っているか皆目見当がつかない。中には、ロアンヌのように、亡くなったはずの婚約者からくるロミオメールもあり、もらった令嬢はショックを受けて、寝込んでいる者もいる。

 王国として、ロミオメール、ジュリエットメールの禁止令を発布することにし、違反したものは処罰の対象とすることにしたのだが、今度は匿名で送ってくることになり、送り主がわからなくなり、ますます混迷する。

 さらには、年配の未亡人のところにまで死んだ亭主からのロミオメールが届くという例もあり、老若男女を問わず、社会問題化してくる。

 とりあえず、リリアーヌ・ドイルを捕縛しようかとも思うが、施行令が出る前のことだから、禁止令が発布されてからは、リリアーヌの名前で送ってくることはなくなったが、明らかに筆跡は同じなものだから……。

 おかげで、伝書鳩に魔法鳥という通信産業が大盛況になってしまった。

 実は、その裏には、大規模な盗賊団の暗躍が隠され江いたのだ。通信内容を途中で傍受することにより、貴族家の懐具合から年頃の娘がいることなどが外部に漏れ、その情報こそが売買の対象となってしまう。

 たかがロミオメールという話では、済まされなくなってしまったのだ。

 現に、ロミオメールでその日、不在だということがわかり、強盗に緒強いられたケースもある。

 参勤交代ではないが、領地へ行っている間に、王都のタウンハウスを狙われ、若いメイドが連れ去られてしまうという事件が起こった。

 主だった騎士は、すべて領主とともに領地へ戻り、留守番をしているメイドでも、下級貴族令嬢ならば、実家に戻ることもあるが、事情で実家に戻らなかったメイドが狙われてしまったそうだ。

 留守番をしていた者は、全員切り殺され、さんざん辱めを受けたメイドを案内役として、主人の部屋や奥様の部屋から宝石を奪い、有り金をすべて奪った挙句、国外に売り飛ばされる運命にある。

 最初は、貴族をターゲットにされていたが、貴族が警戒を強め、領地に戻った後も手練れの騎士を置くようになってからは、その矛先は平民へと向かう。

 王都民は恐怖に震えあがり、騎士団は何をしている!と声を荒げる者も後を絶たず、治安は乱れ、王家の信用は失墜していく。

 このままではいけないとばかりに、重鎮の緊急招集をかけるが、妙案は出ない。

 通信傍受の禁止令を出しても、そもそも盗賊団はアウトローなのだから、効き目は期待できない。

 王都へ入る関所を設け、そこでチェックするか、はたまた鋼板の様に騎士団の詰め所を至る所に設けて、不審者がいないかの取り調べを厳重にすることが決まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

紙の本のカバーをめくりたい話

みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。 男性向けでも女性向けでもありません。 カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...