死者からのロミオメール

青の雀

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 伝書鳩を追跡した結果、ユーラシア方面でプツリと姿が見えなくなってしまう。てっきりオセアニアに向かっていると思われていたが、予期せぬユーラシアで、混乱してしまう。

「どうなっているのだ?」

 カトリーヌは、行商に行っている最中だが、調べによるとここ一年の間、オセアニアを一歩も出ていないという。

 これは操作をかく乱するために、わざとユーラシアに向かったのではないかという憶測が飛び交う。

 それでは、最初から手紙を受け取る気がないのでユーラシアから送ったとでもいうのか?でも、誰がどうやって、オセアニアにいることを隠すために、ユーラシアから送ったというのか?

 共犯者がいるのか?はたまた第三の人物がいて、それが真犯人というのかわからない。
 
 犯人に一番近いと思われていたカトリーヌの線が消えかかっている。

 カトリーヌが疑われるようにし向けている節も無きにしも非ず、というところか。

 でも、それならいったい誰が何のために?という最初の疑問が起こる。

 たまたま、ロアンヌのことを「ロロ」という愛称で呼んでいたことを知っている誰かの仕業であることは間違いない。

 今のところ、モントリオール家の関係者かロバートの関係者のいずれかだと思われるが、操作の網をもっと広げるべきか思案している。

 せっかくの楽しい新婚旅行も気分的に台無しだが、ロアンヌには、そのことを言わず平静を保っている。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 その夜、ロアンヌは、夢を見た。

 夢の中では、まだロバートが在りし日の姿で、ロアンヌに愛を囁いている。

「ロロ、ほらほらこっちだよ。早く早く来て」

「待って。ロビー(ロバートの愛称)」

 どこかのお花畑に来ているみたいな風景。でも、行ったことがない場所だと思った。

「愛しているよロロ。いつまでも、ずっといつまでも。だからいつでも、僕のところへ戻っておいで」

「え?」

 これは夢だとわかっていても、思わずロアンヌは、夢の中で立ち止まってしまう。このフレーズ……「いつでも戻っておいで」って、あのロミオメールと同じではないの!?

「アナタ、誰?」

「なに、言っているんだよ?婚約者の顔も忘れてしまったのかい?それとも、俺を裏切って、王子に寝返ったことで、俺のことを忘れたとでも言いたいのか!この売女が!裏切り者!」

「違うわっ!わたくしは、ロビーを裏切ったことなどないわっ!」

「リチャードと寝て、その子まで産んだお前が何を言い訳する気だ。お前は俺のモノだ。俺の女だ。それをリチャードにカラダを開きやがって……っははん。貴様は娼婦と同じことをしたのだぞ?娼婦なら跪いて、俺を慰めてみろよ」

「許して……そんなつもりではなかったの。ただ、ロビーが死んだと聞かされて、学園を卒業したら、どこかに妾奉公に行くか……修道院に入るかの選択を迫られて、だから仕方がなかったのよ。本当よ。それに、殿下のところも最初は、側室として王室に入るということだったから承知したのよ」

「は!?リチャードは前から、ロアンヌのことを狙っていたのさ。俺が死んだことをいいことにして、ロアンヌを俺から掠め取ろうとしたのさ。それも単なる性欲処理としてだと!?ふざけるな!」

「違うのよ。殿下がわたくしを側室にとおっしゃったことには訳があって、殿下の婚約者だったクリスティーヌ様が学園でわたくしにさんざんな嫌がらせをしてきて、それがどんどんエスカレートしていき、命まで狙われそうになってしまったのよ。それで王室の一員になれば、敬語が突くので安全だと言われて……だから、修道院へ行くよりはマシかもしれないと思って、それで……」

「ロアンヌ、いくら公爵令嬢だとしても、世間知らずもいいところだな。クリスティーヌとリチャードは、学園に入る頃には、もう男と女の関係にあったよ。クリスティーヌの感度が悪いとリチャードがよくこぼしていた。だから、クリスティーヌに嫌がらせを受けたのだとどうして気づかなかったんだ?」

「え……、うそ、そんな……」

「仮にも、リチャードは王太子だぞ。あまたの女と関係があっても、みんな黙っているぞ。それこそ、女とはヤりたい放題、より取り見取りのご身分だ。それをわざわざロアンヌに目を付けた理由は、ロアンヌのカラダ目的だったということさ。でもさ、子供を産んだロアンヌにもう利用価値はないと思っているよ。だから、俺のところに戻っておいでと言っているんじゃないか」

 言われてみれば、つじつまが合っているような、会っていないような?夢の中のことだから、こんなに激しく言い合っても、どこかスッキリしない気分ではある。

 ロバートの言うとおり、捨てられるのかもしれない。だから、今頃になって、新婚旅行といいだされたのかもしれない。どんどん思考が悪い方向へ行ってしまう。

 ウイリアムを連れてきたのも、ひょっとしたら殿下は、もう他の女性に目が映ってしまっていて、クロイセン家にウイリアムを押し付ける気で、新婚旅行に連れてきたのかもしれない。
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