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ロアンヌは、新婚旅行での最初の逗留ちであるクロイセンで、父公爵にロバートからロミオメールが届いていることについて相談する。
「なに!?それは、本当か?」
「これがそうなのですけど、最初に来たときは、出産した日の朝で、この手紙を見た途端、陣痛が起きてしまって、一時はどうなることかと思いましたわ」
「なんだ子供じみた内容の手紙だな。でも、出産前に見せられたら、気になって王子も早く出てきたいと思ったんだろうね」
「で、次に来たのがコレで、気持ち悪くて鳥肌が立ってしまいましたわ」
「とてもロバートの奴が欠けるような文面ではないな。それによく、こんな気持ち悪い文章を思いつくものだな。ロロ……愛しているよ。げー!気持ち悪い!それだけでもたいがいにしろというのに、今すぐ王家を出ろ?などとバカげたことをほざきやがって。何様になったつもりだ!だいたい、ロロというのは、ロバートが舌足らずでうまく発音できなかったから、付いたあだ名だというのに……、ん?待てよ?」
「お父様、どうかなさったの?」
「いや、……関係ないと思うのだが、もう一人ロアンヌのことをロロ呼びしていた奴がいたなぁと思い出してさ」
「えっえー!それは、一体どなたのことでございましょうか?わたくしには、まるっきり記憶が抜け落ちていて……」
「そうかもしれんな。あれはロアンヌが3歳の頃か、……いや、それよりももっと小さいときのことだったか?王都のタウンハウスの向かい側に住んでいたモントリオール伯爵家の姉弟がおってな。その兄弟がロアンヌのことをロロ呼びしていたということを思い出したんだよ」
「お父様、その話を詳しく教えていただけますか?リチャード様と一緒にもう一度、最初からお聞かせ願いたいのです」
ロアンヌは、急き立てるようにリチャードに事の仔細を言い、今一度、父の話を一緒に聞いてくれるように頼みこむ。
リチャードもその話に興味を示し、二人でじっくりと話を聞くことに同意する。
「モントリオール家は当時、大きな商会を経営していたのだが、仕入れた商品のうちに密輸の疑いをかけられたことがあり、伯爵様は、逮捕され、拷問をされた挙句、獄中で亡くなってしまわれたのだ。伯爵夫人は、何度も「主人は無実です」と訴えられたのだが、お聞き届けにならず。それどころか、国家反逆罪の汚名を着せられ、伯爵夫人も投獄されたばかりか、やはり獄中で亡くなられてしまった。毒殺されたという噂もあったが、真偽のほどはわからずじまいで。それで商会ごと、お取りつぶしの憂き目に遭って、とうとう一家離散してしまったそうだ。幼い姉弟は、遠縁に当たる者に引き取られていったと聞いたよ」
「その姉弟の行方を知っている者はおらぬのか?」
「王城の記録に残っているのではございませんか?仮にも伯爵家の一族が遠縁に引き取られたとしても、まったく素性が知れないもののところへは引き取れませんでしょうに」
「名前は覚えておらぬか?」
「えっと、確か姉の方はカトリーヌとか申したように記憶して、弟は、なんという名前でしたでしょうか……、少しお待ちを……」
父は、裏庭で作業をしていた執事を連れてくる。
「旦那様、お呼びでございましょうか?」
「うむ。今から16、7年ぐらい前になろうか。王都のタウンハウスの向かい側に遭ったモントリオール商会のことを覚えているだろうか?」
「ええ。ええ。よく、覚えておりますとも、家内は、あそこの日傘を大層、気に入りまして、日傘はモントリオールのものでないと承知してくれませんでした」
「それでは、当時、あの店の主人の子供の名前はどうであったか?姉の方は、カトリーヌだったと思うのだが……、弟の方の名前が思い出せなくてな」
「ああ、あの目がクリクリしていた可愛らしい坊ちゃんのことですな、あの子は確か、私の甥っ子と同じ名前だったもので、ジョーンズと申しましたよ。ロアンヌお嬢様よりひとつばかり年上で、ええ。ええ。よく覚えておりますとも」
「そうか。なら、あの姉弟がどこの親類に預けられたか存じておるか?」
「いやぁ、そこまでは……、ですが、当時の執事と今でも、連絡を取り合っておりますので、ひょっとすれば、セバスチャンが何か覚えておいでかもしれません。ああ、でも、確か、オセアニアへ行くと言っていたような気がします」
「そうか。ご苦労、よく思い出してくれた。礼を言うぞ」
「いえいえ、滅相もございません。お役に立てて幸甚でございます」
「お聞きの通りでございます。殿下は、モントリオールの姉弟がこの妙な手紙を書いたと思われるのでございますか?」
「いや、そこまではまだ……、でも同期としては十分すぎるぐらいあるだろう?」
「親と家を失った恨みでございますか?」
「うん。それもあるな。それに17年前の事件の真相も今一度、洗い直さなければならないと思っている。早速、手配しよう」
リチャードは、羊紙にサラサラと17年前のことをしたため、それを使いの者に渡す。
「必ず、この手紙を父上と宰相に見せるのだ。頼んだぞ」
「御意」
久しぶりの領地の風は、新婚の二人の頬を優しく撫で、少しだけ心が軽くなったような気がした。
「なに!?それは、本当か?」
「これがそうなのですけど、最初に来たときは、出産した日の朝で、この手紙を見た途端、陣痛が起きてしまって、一時はどうなることかと思いましたわ」
「なんだ子供じみた内容の手紙だな。でも、出産前に見せられたら、気になって王子も早く出てきたいと思ったんだろうね」
「で、次に来たのがコレで、気持ち悪くて鳥肌が立ってしまいましたわ」
「とてもロバートの奴が欠けるような文面ではないな。それによく、こんな気持ち悪い文章を思いつくものだな。ロロ……愛しているよ。げー!気持ち悪い!それだけでもたいがいにしろというのに、今すぐ王家を出ろ?などとバカげたことをほざきやがって。何様になったつもりだ!だいたい、ロロというのは、ロバートが舌足らずでうまく発音できなかったから、付いたあだ名だというのに……、ん?待てよ?」
「お父様、どうかなさったの?」
「いや、……関係ないと思うのだが、もう一人ロアンヌのことをロロ呼びしていた奴がいたなぁと思い出してさ」
「えっえー!それは、一体どなたのことでございましょうか?わたくしには、まるっきり記憶が抜け落ちていて……」
「そうかもしれんな。あれはロアンヌが3歳の頃か、……いや、それよりももっと小さいときのことだったか?王都のタウンハウスの向かい側に住んでいたモントリオール伯爵家の姉弟がおってな。その兄弟がロアンヌのことをロロ呼びしていたということを思い出したんだよ」
「お父様、その話を詳しく教えていただけますか?リチャード様と一緒にもう一度、最初からお聞かせ願いたいのです」
ロアンヌは、急き立てるようにリチャードに事の仔細を言い、今一度、父の話を一緒に聞いてくれるように頼みこむ。
リチャードもその話に興味を示し、二人でじっくりと話を聞くことに同意する。
「モントリオール家は当時、大きな商会を経営していたのだが、仕入れた商品のうちに密輸の疑いをかけられたことがあり、伯爵様は、逮捕され、拷問をされた挙句、獄中で亡くなってしまわれたのだ。伯爵夫人は、何度も「主人は無実です」と訴えられたのだが、お聞き届けにならず。それどころか、国家反逆罪の汚名を着せられ、伯爵夫人も投獄されたばかりか、やはり獄中で亡くなられてしまった。毒殺されたという噂もあったが、真偽のほどはわからずじまいで。それで商会ごと、お取りつぶしの憂き目に遭って、とうとう一家離散してしまったそうだ。幼い姉弟は、遠縁に当たる者に引き取られていったと聞いたよ」
「その姉弟の行方を知っている者はおらぬのか?」
「王城の記録に残っているのではございませんか?仮にも伯爵家の一族が遠縁に引き取られたとしても、まったく素性が知れないもののところへは引き取れませんでしょうに」
「名前は覚えておらぬか?」
「えっと、確か姉の方はカトリーヌとか申したように記憶して、弟は、なんという名前でしたでしょうか……、少しお待ちを……」
父は、裏庭で作業をしていた執事を連れてくる。
「旦那様、お呼びでございましょうか?」
「うむ。今から16、7年ぐらい前になろうか。王都のタウンハウスの向かい側に遭ったモントリオール商会のことを覚えているだろうか?」
「ええ。ええ。よく、覚えておりますとも、家内は、あそこの日傘を大層、気に入りまして、日傘はモントリオールのものでないと承知してくれませんでした」
「それでは、当時、あの店の主人の子供の名前はどうであったか?姉の方は、カトリーヌだったと思うのだが……、弟の方の名前が思い出せなくてな」
「ああ、あの目がクリクリしていた可愛らしい坊ちゃんのことですな、あの子は確か、私の甥っ子と同じ名前だったもので、ジョーンズと申しましたよ。ロアンヌお嬢様よりひとつばかり年上で、ええ。ええ。よく覚えておりますとも」
「そうか。なら、あの姉弟がどこの親類に預けられたか存じておるか?」
「いやぁ、そこまでは……、ですが、当時の執事と今でも、連絡を取り合っておりますので、ひょっとすれば、セバスチャンが何か覚えておいでかもしれません。ああ、でも、確か、オセアニアへ行くと言っていたような気がします」
「そうか。ご苦労、よく思い出してくれた。礼を言うぞ」
「いえいえ、滅相もございません。お役に立てて幸甚でございます」
「お聞きの通りでございます。殿下は、モントリオールの姉弟がこの妙な手紙を書いたと思われるのでございますか?」
「いや、そこまではまだ……、でも同期としては十分すぎるぐらいあるだろう?」
「親と家を失った恨みでございますか?」
「うん。それもあるな。それに17年前の事件の真相も今一度、洗い直さなければならないと思っている。早速、手配しよう」
リチャードは、羊紙にサラサラと17年前のことをしたため、それを使いの者に渡す。
「必ず、この手紙を父上と宰相に見せるのだ。頼んだぞ」
「御意」
久しぶりの領地の風は、新婚の二人の頬を優しく撫で、少しだけ心が軽くなったような気がした。
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