死者からのロミオメール

青の雀

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 ロアンヌは、卒業式を1か月後に控えたある日に、産気づき無事、王子を出産した。リチャードはもとより王家は大変な喜びようで、それはなんといっても、王太子が在学中に父親になったということが影響している。

 これで王太子に万が一のことがあっても、王家の血筋は絶えない。リチャードもロアンヌも、まだまだ若いから2人目3人目が見込まれる。たくさん産んでもらって、周辺諸国に縁談を結べば、我が国は安泰というべきもの。

 中の一人ぐらい、クロイセン家に養子としても、クロイセン家も王家に連なるわけだから、ますますの忠誠に励んでくれるというもの。だから一人、養子にやっても惜しくもなんともない。

 産めよ、殖やせよ。

 ロアンヌ妃には、スイカ腹になってもらっても構わないから、産めるだけ、産んでほしいと陛下からのお言葉を賜った。

 そんな……、犬や猫の子と違うわ。とは、口が裂けても言えないロアンヌ。ニッコリと微笑むことしかできない。そして、体が落ち着いたころ、またしても、殿下の夜伽を連日務めることになる。

 それで最近、考えては行けないと思いつつも、つい女の人生って、実につまらないと思うようになった。貴族の娘としてであろうが、平民の娘であろうが、生まれてからまだ数年の幼子に、許婚という将来の旦那様が決まってしまう。

 愛がどういうものかもわからないうちに、生涯のパートナーガ幼いうちに決まってしまう。

 これは貴族の娘だけのことかもしれない。平民は、大人になってから自由に相手を選べることが普通なのかもしれないけど、貴族令嬢ほど、つまらない人生はないと思う。

 相手が生きて、無事、結婚式を迎えればいいけど、ロバートの様に途中で相手に死なれでもしたら、あるいは、相手の男性が浮気して、破談になったら、貴族令嬢は、途端にキズモノ扱いをされることになる。社交界で笑いものにされ、蔑まれ、自分に悪いところなどないにも関わらず、修道院へ送られ、一生殿方との恋すらできなくなってしまう。

 そのくせ浮気した男の方は、何のお咎めもなく、むしろ何人の女とヤったことを自慢して吹聴している。

 結婚してからも同じだ。浮氣男は、甲斐性として認められるが、浮気女はどんなに多額の持参金持ってきたとしても、無一文で叩き出されることがオチ。

 これが反対に、令嬢が浮気でもして、破談になれば、それこそ断罪される。命の重さが男と女では違うのだ。女は純潔で、婚約者以外の男性とは、口を聞いてはいけないという不文律がある。相手の婚約者が高位になればなるほどその傾向にある。

 未婚でも、結婚してからも、パートナーがいなくなった女性に残される道は、修道院に入るか、年寄りの後妻には入るか、はたまた性奴隷のごとく妾奉公に行くか、スキモノならば自ら自前の娼婦になるか……、いずれにせよロクな人生が待っているはずもない。

 そう思ったのは、王子が生まれる日の朝のこと、いつものようにお腹をさすりながら、王子のための産着を塗っていると、女官が1通の手紙を持ってきた。

 あて先は、ロアンヌの名前だけが書いてあり、差出人は不明だったのだ。

 ペーパーナイフで封を切り、封蝋はそのままにしておいたのだが、見たこともない封蝋に少し緊張が走ったことを覚えている。

 何気に読み出すと、みるみる内にロアンヌは青ざめていくことが自分でもわかるほど、手が震えてくる。

 それは泣き婚約者ロバートからの手紙だったのだ。

 お腹の子供は腹を激しく蹴り上げ、今すぐに「出して」と言わんばかり、お腹を押さえて、立ち上がろうとした時、お腹が搾れるように傷みだす。押しては引く並みの様に痛みが断続的に続き、思わず「うぅぅぅぅ」とうなり声を上げだすほどに……。

「親愛なるロロ(ロアンヌの愛称)
 俺がロロに会いに行けなくなって、1年以上経ってしまったね。
 お元気でお過ごしでしょうか?
 ロロのことだから、きっと、毎日明るく笑って暮らしているだろうけど、たまには俺のことも少しは思い出してくれているかな?
 そうなら、これほど嬉しいことはないな
 おれは今でも、ロロのことを思い出し、枕を濡らす夜を送っている。
 ロロの慈母のような笑顔が忘れられないよ。
 俺は、星に名ttけど、いつまでもロロのことを見守っています・
               ロロの愛するロバートより」

「嘘でしょー!嘘よ、嘘、嘘だと言って」

 押し寄せる陣痛の間中、うわごとのように呟いているロアンヌのことを心配したリチャードは、直前までロアンヌが読んでいたと思われる手紙を盗み見て、その内容に激怒する。

「誰が、こんな悪質ないたずらを!誰が、この手紙を持ってきた?」

 女官の誰一人、知らないという。ただ、あて名書きにロアンヌの名前が書かれていたので、ロアンヌ様のところへ持っていったと話すばかりで、要領が得ない。

 リチャードは、側近を呼びつけ、その手紙の送り主が誰かを突き止めさせようと手配する。

 数日後、その手紙は、早朝、王門に挟んであったと、門番から聞いたという知らせが届いた。

 だが、誰が持ってきたものかは、皆目見当がつかない。

 リチャードは、手紙が届かないように結界師を呼びつけ、王門に挟み込まれないように結界を何重にも、張り巡らせた。

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