死者からのロミオメール

青の雀

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 夏休みが終わり、リチャードだけが通学するようになると、クリスティーヌが待ってましたとばかりに、腕を絡めてくる。胸の谷間を見せつけるように、二の腕に胸を押し付けてこられるのは、迷惑だと思うようになった。

 ロアンヌを抱いてから、これぐらいの挑発でドキドキもしないし、嬉しくも何ともない。

「あっら~?どうされたのかしら。前は、これだけでドキドキなさったのに、今は知らんぷりできるぐらいの余裕がおありになるのね?最近、お茶会にも来てくださらなくなり、王妃様からも一度も御呼ばれしなかったのよ。せめて、今日は我が家に来られませんこと?」

「いや、遠慮しとくよ」

「連れないところは、相変わらずね。安心したわ。あっそうそう、ロアンヌ領地へ引っ込んだって話じゃないの?お父様が言っていたわ。クロイセンの奴、ヌケガラみたいになって、領地へ引っ込んでいるって、きっとロアンヌも一緒よ」

 ああ、そうか。そういう話になっていたことを思い出した。

「ざまあみろ。よね?他人のオトコに色目を使って、自分はいくら婚約者に死なれたからってね」

「おい!そんな言い方はよせ」

「はーい」

 クリスティーヌは、舌を出しながら、学園にロアンヌがいないことを上機嫌で話しているけど、ちっとも反省していないことは明らかな態度だった。

 本当のことを知ると、城にまで乗り込んできて、ロアンヌの髪の毛を掴み引きずり倒すだろうなと思うと、少々恐ろしい。

 いや、その前にリチャード自身をもぎ取られてしまうかもしれない。つくづく初めての女がロアンヌであって、よかったと思う。

 クロイセン公爵にも、悪いことをした。一人娘を早くに王家へ嫁がせてしまったので、ヌケガラの様になっても仕方がないことをしてしまった。

 役職か恩賞で補填をしておかないとな。もし、生まれてきた子供が王子なら、一大出世を成し遂げられる。

 ロアンヌには、王子が生まれるまで、夜伽を頑張ってもらわないといけない。とても、隣にいる女を抱きたいとは、思わないから。

 クリスティーヌと一緒にいても、気が休まらない。そういえば、政略での婚約なのだが、昔からクリスティーヌはリチャードに張り合うところがあって、何でも自分が一番でないと気が済まない性格だった。だからクリスティーヌといるときは、いつもリチャードは臨戦態勢になり、気が休まらない。

 本当なら、もうクリスティーヌとの婚約は破棄してもいいと思っているし、父に婚約解消、婚約の白紙撤回を願い出てもいいと思っているが、王家の血筋を絶やさないことが大事で、結婚式前にロアンヌが王子を産んでくれれば、婚約解消はできる。だが、もし王女だった場合、婚約解消は難しいだろう。

 学園の終業ベルが鳴り、帰宅するため馬車止めのあたりまで行くと、なぜかクリスティーヌのキンキン声が聞こえている。

何事かと思って、人だかりの中を覗いてみると、クリスティーヌは、一人の女子生徒を目の敵にして、怒鳴り散らすわ。扇子でその女子生徒を叩くわで、女子生徒はかわいそうに顔を庇ったせいか、手や腕にみみずばれができている。

「何をしている!」

「リチャード殿下ぁ!助けてくださぁい。この鬼ばばぁが叩くのです!」

「クリスティーヌ!何度言えば、わかる!手でたたくと痛いからと言って、女生徒を扇子でたたくのはやめなさい!クリスティーヌも、扇子で多々kれたら痛いだろ?なぜ、そんな簡単なことさえも分からないでいるのだ?おい!この女生徒を保健室に連れて行き、手当てをして差し上げろ」

「だって、あの娘が男爵令嬢の分際で……」

「ストップ!同じ学園の生徒を親の爵位で言うのは、おかしいだろ?」

「え……と、とにかくですね。あのリリアーヌ嬢が婚約者のいる男子生徒に、色目を遣い、話しかけることは不届きだと注意していただけでふぉざいますわっ!」

「それなら、口で言えばいいものを。なにゆえ扇子などの道具を使い叩くのだ?」

「口で言っても、ヘラヘラしているだけですのよ!だから思わず手が出ただけで……」

「ほう。そういえば、ロアンヌにも、同じように扇子でたたいたことがあったな?あれはどう説明する?」

「ロアンヌは、わたくしというれっきとした婚約者がいるにもかかわらずリチャード殿下に色目を遣い、話しかけられたではございませんか?」

「なに、言ってんだ?話しかけたのは、いつも俺の方からで、ロアンヌからは、一度も話しかけられていない。それなのに、ロアンヌに冤罪を着せ、インク瓶を投げつけ、ロアンヌが口にするものに虫を入れたのは、どこのどいつの仕業か、もはや忘れたわけでは済まさぬぞ!」

「ひぇええー。そんな昔のことを言われてもですね……、それに殿下、何ですの?ロアンヌ嬢を呼び捨てになさるなどとは……それほど、ロアンヌ様のことは、久しい、近しい存在なのでございますか?」

「おう!そうだとも、何度も言っているが、ロアンヌは、俺の親友の婚約者だった女性だ。俺が親身になって、どこが悪い!」

「それならば、ロアンヌ様と結婚されたらいかがでしょうか?」

「お前が、婚約破棄に同意してくれるのなら、すぐにでも結婚するさ」

「なんですってぇ!あの泥棒猫、領地へ帰ってまで、リチャード様にちょっかいを出すなど、許せない!クロイセンの領地に刺客を送ってやる!」

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