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ファンタジー
4.魔法少女欠席
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あのハノイで兵士と知り合ったことは、思いがけず幸運にみまえた。二度にわたって危機的状況を見逃してくれた上で、奇妙な信頼関係まで築いてしまったのだから。
ただ、お互い呑兵衛ということだけで、意気投合してしまったことなのかもしれないが……。
リーチは知らなかったのだが、あの後、チェックアウトを済ませてから、リーチの泊まっていた部屋を中心に家宅捜索が行われたらしいが、魔法少女の痕跡はついぞ発見できなかったらしい。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
徹夜仕事をしたおかげで、監査に支障がなく予定通り、一日早いバンコクへの出立とあいなる。
バンコク行きの飛行機に搭乗した途端爆睡するが、今回は魔法少女には変身しなかったみたいで安心する。
国内便だったので、家族連れが大勢乗ってきて、昨夜の魔法少女の話でもちきりになっていた。このクソ暑いのに、魔法少女と似たようなロリータファッションに身を包んでいる少女の姿が目立ったことも付け加えておこう。
魔法少女も昨夜はリーチに付き合って、徹夜しただろうから、疲れているのかもしれない。
昨夜、シャワーを浴びるときに気づいたのだが、変態と思われるかもしれないが、ロリータちゃんはノーパンだったのだ。異世界では当たり前かもしれないが、この世界でノーパンで出歩くということは何かしら犯罪に巻き込まれる恐れがあり、いただけない。
いくらフリフリのペチコートを履いていたとしてもやはり危険だ。ニッポンに帰ったら、真理子に女児用のパンツを買ってきてもらうことにしよう。
海外で買うこともできるが、もし手荷物検査でトランクを開けられることがあれば、いらぬ誤解を生じさせかねない。
まあ、ここバンコクでは心機一転、魔法少女のことは忘れて、仕事に邁進する覚悟でいる。プーケット島に現れたというから、しばらくはあの島に滞在していることだろう。そうであればいいと、楽観視している。
バンコクでは、支社からほど近いホテルを予約している。監査するにしてはプーケット島で足止めを食らったことが影響して到着が遅れてしまったので、バンコク支社の連中と夕飯を共に摂ることにしたのだ。
久しぶりの日本食に舌鼓を売っている後輩連中は、赴任して今年で2年目だという。夏休みには、会社負担で帰京旅費が与えられ、1週間の有給休暇が通常の有給とは別に出るという。
「おお!さすが大企業は太っ腹だな」
「何、言っているのですか!御剣さんの方こそ、定年後は常勤監査役の椅子が待っているではありませんか?」
「いやいや。あのオバチャンが居座っているから、どうなるか分かったものではないよ」
「確かに……、でも女史も後期高齢者になるわけですし。そろそろ引き際というものをお考えになった方がよろしいのでは?」
「あはは。それは俺が決めることではないよ」
「そういえば、ハノイでも、プーケット島でも、魔法少女が出現した事件に巻き込まれたそうですね?」
「お!早耳だな。でも、このことはくれぐれも口外秘でいてもらいたい。実のところ、俺も迷惑しているんだよ。仕事は遅れるし、ニッポンに帰ってからは、マスコミに追い掛け回されるし、魔法少女が出現するたびに、俺への監視が強くなってさ」
「どう考えたところで、御剣さんが、魔法少女と関係があるなどとは、誰も思っていませんよ」
本当にそうならありがたいのだが……。
後輩たちには、ハノイの兵士に送ったものと同じヒレ酒と柿の種を手土産にした。こういう赤道直下の国に赴任しているときはニッポンの塩せんべいやおかき、梅干し、めざしなどの干物が悦ばれる。
それで大量に持ってきたつもりだったのだが、プーケットでの残業でつい手が伸びてしまい、ほとんどない。
こうなりゃ臭いけど沢庵でも持ってくればよかったと、しみじみ考えこむ。
翌朝から監査に邁進すべく、バンコクにあるパヤタイ通りに面している支社へ赴く。受付のお嬢さんは、それはそれは美しい現地人女性で、日本語も少しわかるようだ。
昨夜一緒に飲んだ支社長は、松本と名乗り、会議室を開けてくれ、そこに帳簿やパソコンを並べておいてくれていたので、すぐに仕事に取り掛かることができて、助かる。
今日から3日間の予定で、ここで仕事に専念するつもりでいる。
昼食は、日本人スタッフがとっかえひっかえB級グルメの屋台に連れて行ってくれ、太田焼きそばや津山ホルモンうどんなどをごちそうしてくれたので、ありがたく頂戴する。
意外にも麺類が豊富で、太るのではないかと心配になる。
仕事終わりは仕事終わりで、会食が待っているので、昼間に十和田バラ焼きを食ってしまうとボリュームがあり過ぎて、酒しか入らなくなることがある。
それもこれも、赤道直下の国だからとにかく暑いから、少しでも精のあるものを摂ろうとする本能からかもしれない。
朝食はホテルのビュッフェで済ます以外は、すべてB級グルメというものも、なかなか楽しい。おかげで仕事が捗り3日間の予定が2日間で終わったのだ。
いくら法律で決まっているからと言っても、痛くもない腹を探られる松本支社長の処世術のなせる業と行ったところか、リーチにとっても、ハノイでの遅れを取り戻せたのだから、願ってもないことに違いはない。
別れを惜しんでいる風を装いながら、厄介払いができるバンコク支社長。リーチも愛想笑いを浮かべる。
その態度が、どうも慇懃無礼で気分が悪い。
次の予定地は、プノンペン。飛行機で行くのは芸がない。今回は、鉄道で行くことにしたのだ。バスでも行けるけど、バスは揺れるから電車で行く方は快適なのだ。
前回の監査の時は、バスで移動したら、けっこう尻が痛い。電車はボックスシートになっているので、乗客が少なければ靴を脱ぎ、脚を伸ばせて、快適に過ごせる。
途中、水や果物などの車内販売も旅の楽しさを醸し出してくれる。
まずはファランポー駅へ向かい、切符を買い求める。駅前にあるコンビニで、お菓子や軽食を買うとともに、やっぱりアルコールも欠かせない。
行楽期分で、電車に乗り込むと、すぐにちびちびと一人酒盛りに興じる。同じ車両に、呑兵衛が乗っていたらしく、酒の匂いにつられて御同輩がやってきて、たちまち車内は宴会場と化す。
なんせ駅近くのコンビニは、セ◎ンイレ◎ンだったので、リーチ好みの酒やつまみをたっぷりと仕入れたのだ。
その男性は、カンボジアから来たと言い、仕事でタイに出張していたが、今日帰るという。
リーチも同じように自己紹介をして、さらに盛り上がる。
行商の帰り道だという人も加わり、酒盛りは、さらに大人数になっていく。やっぱりどこへ行っても言葉は通じなくても、アルコールが絡むとみんなとすぐ打ち解けてしまえる。アルコールは万国共通の魔法の薬なのかもしれない。
そのうち、誰か一人が歌いだすと、我も我も、とばかりにカラオケもないカラオケ大会になっていく。
リーチの順番が来てしまったので、何も歌わないということもできず、「島唄」を歌うと「我が心の友よ」と誉め言葉?がかかり、気分がいい。
テレサ・テンの歌も飛び出し、友好ムード一色になっていく。
途中、検札に来た車掌も仲間に入れてほしそうな顔をされていたけど、仕事中でしょ!?次の駅に止まるまでは、ヒマかもしれないけど……、あえて、見て見ぬふりをすることに決める。もしも、事故った時、困るからね。
リーチの乗っている車両の乗客全員が、酒盛りに参加しているのだから、うるさい、臭いなどと誰も文句を言わない。誰か一人が訳もなく笑いだすと、酔っ払い特有の連鎖で全員が笑い転げてしまう。
実に愉快な酒だ。リーチはさっきニッポンのコンビニチェーンで買ったワンカップ月桂樹を乗客全員にふるまうことにした。どうせ、プノンペンに着いても、招かれざる客に違いはないのだから。さっきまでのバンコク支社長の顔がふと横切り、不快感を打ち消すようなことをしたかったからだ。
リーチの大盤振る舞いにカンボジア人もタイ人もこぞって、大喜びし実に愉快な酒盛りはまだまだ続く。
別れ際に松本支社長に対し、コンチクショウと感じたことが後に、あんな大惨事に繋がることになるなど思ってもみなかった。
あの支社長も、もう少し上手にリーチに悟られないように送り出してくれていたら、またきっと違う結果になったであろうに。
リーチはなぜか時折、ふっと気が遠くなるような瞬間は、あったものの、あまりの愉快な酒で我を忘れて、鬱憤を晴らすため飲んでいて、異変に気づかずにいた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
その頃のバンコクは、というと監査室に使っていた部屋を片付けていると「ドーーン!」と大きな地響きがした。
バンコク市内に空襲警報が鳴り響き、プーケットにいた国連軍がバンコクに集結するも、異世界の化け物相手では、歯が立たない。
今朝方までリーチがいた支社に国連軍の幹部が来て、「Mr.Mitsurugiの所在確認」をおこなうも、すでに追い立てるように帰した後で、返事に窮している。
「次の行先は?」
「確か、プノンペン営業所だったような気がする」との返事に、大声で叱責される支社長。別に、このことに際しては、支社長に何の責任もない。
しかし行先も関心がないなど、同僚としてあってはならない同じ会社内の報告連絡ミスに軍幹部は思わず声を荒げてしまったのだ。
カンボジア政府に要請を出し、入国したかどうかをチェックさせるが、行方を掴み切れない。カンボジアでなかったら、インドネシアか?ラオスか?
思いつく限りの国名を挙げ、空港の搭乗状況を確認していく。
リーチの商社の現地特派員たちは、すでにリーチが国連軍にとってVery important personになっていたことなど知る由もないからだ。
リーチ自身も知らないことだけど、リーチの存在と魔法少女の出現は何らかの因果関係があると国連軍幹部は考えているようだ。
それもそのはずで、異世界から怪物がやってきて、魔法少女が出現するタイミングは、いつも「Mr.Mitsurugi」が現地に着任している。
一度ならずも、何度もハノイ周辺に現れ、プーケットにまで魔法少女が現れたからには、これが偶然ではなく必然ではないかと思っても、それは致し方がないといったところ。
バンコクに至っては、同じ国内だったので、監視を付けていたわけではないが、こんなに早くバンコクを発ってしまうなどと思っていなかったことで、完全に後手に回ってしまった結果だ。
今回の異世界からの侵略者は、いつもならとっくに魔法少女が出現し、対峙してくれるものを今回ばかりは、肝心かなめの魔法少女が一向に現れないでいることへのいら立ちが、「Mr.Mitsurugi」の不在と関係していると思われて仕方がない状況だったのだ。
「そんな……監査室長が魔法少女と因果関係があるなんてこと、一言もおっしゃられていませんでしたよ」
とは、言ってもそう言えば、前泊時に監査室長が「監視されている」とこぼしていたことがあったな。と今更ながら、あの時、もう少し深く聞いておけばよかったと悔やまれる。
ただの酔っぱらいの世迷言かと思っていたからだ。ニッポンのマスコミも根拠もなしに一人のビジネスマンが帰国したからといって、追い掛け回すことなどはしないということを失念していた。
異世界からの侵略者が現れる度に、当然のように出現し、人類を救済してくれていた魔法少女が今回ばかりは現れないということに、タイ政府関係者、国連軍共に頭を抱えてしまっている。
その間も、バンコク市内は、まるで空襲を受けたかのような大惨事で、あちこちから火の手が上がっている。消火活動もままならず、市民は怪物を避け逃げ惑っているのだ。
そしてついに、今朝方までリーチが滞在していたホテルや支社が入居している雑居ビルまで攻撃されてしまい、もろくも崩れ去ってしまったのだ。
幸いなことに松本支社長以下、現地スタッフにニッポン人スタッフは逃げおおせて、無事だったのだが、あの監査室長が世紀のヒーロー?いや魔法少女だからヒロインと関係があるとは信じられないという様子でがれきの山を見つめている。
国連軍は、異世界の怪物を鎮圧するのに、禁断の奥の手、つまり核兵器を遣い、どうにか封じ込めることができた。しかし、放射能の被害が甚大で偏西風の影響で汚染は免れかねない。
ここに異世界との第3次世界大戦?いや、ウクライナのことがあったので第4次世界大戦の火ぶたは切って落とされたのだ。
次、また出現してしまったら、核兵器の影響だけで、地球は滅んでしまうだろう。人類が滅亡した後、異世界人がこぞって、侵略してくるかと思うと、早急に対策を講じなければならない。
そのVIPがまさに「Mr.Mitsurugi」なのだ。
ただ、お互い呑兵衛ということだけで、意気投合してしまったことなのかもしれないが……。
リーチは知らなかったのだが、あの後、チェックアウトを済ませてから、リーチの泊まっていた部屋を中心に家宅捜索が行われたらしいが、魔法少女の痕跡はついぞ発見できなかったらしい。
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徹夜仕事をしたおかげで、監査に支障がなく予定通り、一日早いバンコクへの出立とあいなる。
バンコク行きの飛行機に搭乗した途端爆睡するが、今回は魔法少女には変身しなかったみたいで安心する。
国内便だったので、家族連れが大勢乗ってきて、昨夜の魔法少女の話でもちきりになっていた。このクソ暑いのに、魔法少女と似たようなロリータファッションに身を包んでいる少女の姿が目立ったことも付け加えておこう。
魔法少女も昨夜はリーチに付き合って、徹夜しただろうから、疲れているのかもしれない。
昨夜、シャワーを浴びるときに気づいたのだが、変態と思われるかもしれないが、ロリータちゃんはノーパンだったのだ。異世界では当たり前かもしれないが、この世界でノーパンで出歩くということは何かしら犯罪に巻き込まれる恐れがあり、いただけない。
いくらフリフリのペチコートを履いていたとしてもやはり危険だ。ニッポンに帰ったら、真理子に女児用のパンツを買ってきてもらうことにしよう。
海外で買うこともできるが、もし手荷物検査でトランクを開けられることがあれば、いらぬ誤解を生じさせかねない。
まあ、ここバンコクでは心機一転、魔法少女のことは忘れて、仕事に邁進する覚悟でいる。プーケット島に現れたというから、しばらくはあの島に滞在していることだろう。そうであればいいと、楽観視している。
バンコクでは、支社からほど近いホテルを予約している。監査するにしてはプーケット島で足止めを食らったことが影響して到着が遅れてしまったので、バンコク支社の連中と夕飯を共に摂ることにしたのだ。
久しぶりの日本食に舌鼓を売っている後輩連中は、赴任して今年で2年目だという。夏休みには、会社負担で帰京旅費が与えられ、1週間の有給休暇が通常の有給とは別に出るという。
「おお!さすが大企業は太っ腹だな」
「何、言っているのですか!御剣さんの方こそ、定年後は常勤監査役の椅子が待っているではありませんか?」
「いやいや。あのオバチャンが居座っているから、どうなるか分かったものではないよ」
「確かに……、でも女史も後期高齢者になるわけですし。そろそろ引き際というものをお考えになった方がよろしいのでは?」
「あはは。それは俺が決めることではないよ」
「そういえば、ハノイでも、プーケット島でも、魔法少女が出現した事件に巻き込まれたそうですね?」
「お!早耳だな。でも、このことはくれぐれも口外秘でいてもらいたい。実のところ、俺も迷惑しているんだよ。仕事は遅れるし、ニッポンに帰ってからは、マスコミに追い掛け回されるし、魔法少女が出現するたびに、俺への監視が強くなってさ」
「どう考えたところで、御剣さんが、魔法少女と関係があるなどとは、誰も思っていませんよ」
本当にそうならありがたいのだが……。
後輩たちには、ハノイの兵士に送ったものと同じヒレ酒と柿の種を手土産にした。こういう赤道直下の国に赴任しているときはニッポンの塩せんべいやおかき、梅干し、めざしなどの干物が悦ばれる。
それで大量に持ってきたつもりだったのだが、プーケットでの残業でつい手が伸びてしまい、ほとんどない。
こうなりゃ臭いけど沢庵でも持ってくればよかったと、しみじみ考えこむ。
翌朝から監査に邁進すべく、バンコクにあるパヤタイ通りに面している支社へ赴く。受付のお嬢さんは、それはそれは美しい現地人女性で、日本語も少しわかるようだ。
昨夜一緒に飲んだ支社長は、松本と名乗り、会議室を開けてくれ、そこに帳簿やパソコンを並べておいてくれていたので、すぐに仕事に取り掛かることができて、助かる。
今日から3日間の予定で、ここで仕事に専念するつもりでいる。
昼食は、日本人スタッフがとっかえひっかえB級グルメの屋台に連れて行ってくれ、太田焼きそばや津山ホルモンうどんなどをごちそうしてくれたので、ありがたく頂戴する。
意外にも麺類が豊富で、太るのではないかと心配になる。
仕事終わりは仕事終わりで、会食が待っているので、昼間に十和田バラ焼きを食ってしまうとボリュームがあり過ぎて、酒しか入らなくなることがある。
それもこれも、赤道直下の国だからとにかく暑いから、少しでも精のあるものを摂ろうとする本能からかもしれない。
朝食はホテルのビュッフェで済ます以外は、すべてB級グルメというものも、なかなか楽しい。おかげで仕事が捗り3日間の予定が2日間で終わったのだ。
いくら法律で決まっているからと言っても、痛くもない腹を探られる松本支社長の処世術のなせる業と行ったところか、リーチにとっても、ハノイでの遅れを取り戻せたのだから、願ってもないことに違いはない。
別れを惜しんでいる風を装いながら、厄介払いができるバンコク支社長。リーチも愛想笑いを浮かべる。
その態度が、どうも慇懃無礼で気分が悪い。
次の予定地は、プノンペン。飛行機で行くのは芸がない。今回は、鉄道で行くことにしたのだ。バスでも行けるけど、バスは揺れるから電車で行く方は快適なのだ。
前回の監査の時は、バスで移動したら、けっこう尻が痛い。電車はボックスシートになっているので、乗客が少なければ靴を脱ぎ、脚を伸ばせて、快適に過ごせる。
途中、水や果物などの車内販売も旅の楽しさを醸し出してくれる。
まずはファランポー駅へ向かい、切符を買い求める。駅前にあるコンビニで、お菓子や軽食を買うとともに、やっぱりアルコールも欠かせない。
行楽期分で、電車に乗り込むと、すぐにちびちびと一人酒盛りに興じる。同じ車両に、呑兵衛が乗っていたらしく、酒の匂いにつられて御同輩がやってきて、たちまち車内は宴会場と化す。
なんせ駅近くのコンビニは、セ◎ンイレ◎ンだったので、リーチ好みの酒やつまみをたっぷりと仕入れたのだ。
その男性は、カンボジアから来たと言い、仕事でタイに出張していたが、今日帰るという。
リーチも同じように自己紹介をして、さらに盛り上がる。
行商の帰り道だという人も加わり、酒盛りは、さらに大人数になっていく。やっぱりどこへ行っても言葉は通じなくても、アルコールが絡むとみんなとすぐ打ち解けてしまえる。アルコールは万国共通の魔法の薬なのかもしれない。
そのうち、誰か一人が歌いだすと、我も我も、とばかりにカラオケもないカラオケ大会になっていく。
リーチの順番が来てしまったので、何も歌わないということもできず、「島唄」を歌うと「我が心の友よ」と誉め言葉?がかかり、気分がいい。
テレサ・テンの歌も飛び出し、友好ムード一色になっていく。
途中、検札に来た車掌も仲間に入れてほしそうな顔をされていたけど、仕事中でしょ!?次の駅に止まるまでは、ヒマかもしれないけど……、あえて、見て見ぬふりをすることに決める。もしも、事故った時、困るからね。
リーチの乗っている車両の乗客全員が、酒盛りに参加しているのだから、うるさい、臭いなどと誰も文句を言わない。誰か一人が訳もなく笑いだすと、酔っ払い特有の連鎖で全員が笑い転げてしまう。
実に愉快な酒だ。リーチはさっきニッポンのコンビニチェーンで買ったワンカップ月桂樹を乗客全員にふるまうことにした。どうせ、プノンペンに着いても、招かれざる客に違いはないのだから。さっきまでのバンコク支社長の顔がふと横切り、不快感を打ち消すようなことをしたかったからだ。
リーチの大盤振る舞いにカンボジア人もタイ人もこぞって、大喜びし実に愉快な酒盛りはまだまだ続く。
別れ際に松本支社長に対し、コンチクショウと感じたことが後に、あんな大惨事に繋がることになるなど思ってもみなかった。
あの支社長も、もう少し上手にリーチに悟られないように送り出してくれていたら、またきっと違う結果になったであろうに。
リーチはなぜか時折、ふっと気が遠くなるような瞬間は、あったものの、あまりの愉快な酒で我を忘れて、鬱憤を晴らすため飲んでいて、異変に気づかずにいた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
その頃のバンコクは、というと監査室に使っていた部屋を片付けていると「ドーーン!」と大きな地響きがした。
バンコク市内に空襲警報が鳴り響き、プーケットにいた国連軍がバンコクに集結するも、異世界の化け物相手では、歯が立たない。
今朝方までリーチがいた支社に国連軍の幹部が来て、「Mr.Mitsurugiの所在確認」をおこなうも、すでに追い立てるように帰した後で、返事に窮している。
「次の行先は?」
「確か、プノンペン営業所だったような気がする」との返事に、大声で叱責される支社長。別に、このことに際しては、支社長に何の責任もない。
しかし行先も関心がないなど、同僚としてあってはならない同じ会社内の報告連絡ミスに軍幹部は思わず声を荒げてしまったのだ。
カンボジア政府に要請を出し、入国したかどうかをチェックさせるが、行方を掴み切れない。カンボジアでなかったら、インドネシアか?ラオスか?
思いつく限りの国名を挙げ、空港の搭乗状況を確認していく。
リーチの商社の現地特派員たちは、すでにリーチが国連軍にとってVery important personになっていたことなど知る由もないからだ。
リーチ自身も知らないことだけど、リーチの存在と魔法少女の出現は何らかの因果関係があると国連軍幹部は考えているようだ。
それもそのはずで、異世界から怪物がやってきて、魔法少女が出現するタイミングは、いつも「Mr.Mitsurugi」が現地に着任している。
一度ならずも、何度もハノイ周辺に現れ、プーケットにまで魔法少女が現れたからには、これが偶然ではなく必然ではないかと思っても、それは致し方がないといったところ。
バンコクに至っては、同じ国内だったので、監視を付けていたわけではないが、こんなに早くバンコクを発ってしまうなどと思っていなかったことで、完全に後手に回ってしまった結果だ。
今回の異世界からの侵略者は、いつもならとっくに魔法少女が出現し、対峙してくれるものを今回ばかりは、肝心かなめの魔法少女が一向に現れないでいることへのいら立ちが、「Mr.Mitsurugi」の不在と関係していると思われて仕方がない状況だったのだ。
「そんな……監査室長が魔法少女と因果関係があるなんてこと、一言もおっしゃられていませんでしたよ」
とは、言ってもそう言えば、前泊時に監査室長が「監視されている」とこぼしていたことがあったな。と今更ながら、あの時、もう少し深く聞いておけばよかったと悔やまれる。
ただの酔っぱらいの世迷言かと思っていたからだ。ニッポンのマスコミも根拠もなしに一人のビジネスマンが帰国したからといって、追い掛け回すことなどはしないということを失念していた。
異世界からの侵略者が現れる度に、当然のように出現し、人類を救済してくれていた魔法少女が今回ばかりは現れないということに、タイ政府関係者、国連軍共に頭を抱えてしまっている。
その間も、バンコク市内は、まるで空襲を受けたかのような大惨事で、あちこちから火の手が上がっている。消火活動もままならず、市民は怪物を避け逃げ惑っているのだ。
そしてついに、今朝方までリーチが滞在していたホテルや支社が入居している雑居ビルまで攻撃されてしまい、もろくも崩れ去ってしまったのだ。
幸いなことに松本支社長以下、現地スタッフにニッポン人スタッフは逃げおおせて、無事だったのだが、あの監査室長が世紀のヒーロー?いや魔法少女だからヒロインと関係があるとは信じられないという様子でがれきの山を見つめている。
国連軍は、異世界の怪物を鎮圧するのに、禁断の奥の手、つまり核兵器を遣い、どうにか封じ込めることができた。しかし、放射能の被害が甚大で偏西風の影響で汚染は免れかねない。
ここに異世界との第3次世界大戦?いや、ウクライナのことがあったので第4次世界大戦の火ぶたは切って落とされたのだ。
次、また出現してしまったら、核兵器の影響だけで、地球は滅んでしまうだろう。人類が滅亡した後、異世界人がこぞって、侵略してくるかと思うと、早急に対策を講じなければならない。
そのVIPがまさに「Mr.Mitsurugi」なのだ。
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