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 あの汗だくの日から、ジョージの公爵家訪問は解禁されることになったのである。学園内では、他の貴族令息、令嬢を刺激しないように、素知らぬ顔をしている二人だが、週に一回お茶会が開かれるようになったのである。まるで、婚約者同士のようであるが、二人はまだそのことに気づいていない。

 王家もオルブライト家も二人の愛の行方を見守っているようで、双方とも何も口出しをしない。

 ただ、ジョージが乗ってくる馬車は王家の紋を外した非公式な馬車で来ることが多い。同級生が隣近所に住んでいるので、うるさいのだ。

 公爵家へ出入りするときは、ジョージの金髪を隠すような帽子をかぶる。念には念の入れようである。

 2年生になってからは、ジョージも学園内で、貴族令嬢から結婚相手として狙われることが多くなってくる。でもジョージの気持ちはアナスターシアしかいない。アナスターシアに関わると学園長、教職員、貴族令息から猛烈な抗議があるので、素知らぬ顔をしながら、貴族令嬢のアプローチを受け流していく。週に一度、お茶会で会えるので、わざわざ学園で波風を立てることもあるまいと思っている。

 アナスターシアも最近は、ストーカーまがいのアプローチに心痛めているが、学園内でそのことをジョージ様に相談できないから、もししたら他の貴族令嬢から、ただではおかないという空気を察しているからである。

 表立って、アナスターシアを虐めると処刑されてしまうかもしれないけど、けっこう陰に隠れてヒソヒソ言われているようだ。この前といっても昨年、ジョージ様が廊下ですれ違いざまに声をかけてくださったときも、後でさんざん陰口をたたかれ嫌な思いをしたのである。なんといっても、ステキなカッコイイ優しい王子様であるから、みんなが狙うのも当然のことだと思うわ。

 だから2年生のクラス替えでジョージ様と同じクラスになれなかったのは、今となっては良かったと思える。

 今日は恒例のお茶会、ジョージ様が変装してきてくださる。
 お茶会をするお部屋に入って、侍女が下がるとジョージ様からいきなり抱きしめられるが、アナスターシアは抵抗しない。むしろ嬉しく思いジョージ様の背中に腕を回し、抱き返す。

 ジョージはジョージで、なんで?急に抱きしめてしまったんだろうと思いながらも、アナスターシアがそれに応えて、背中に腕を回してくれたことに感激している。アナスターシアのカラダの柔らかさにドキドキする。このままずっと抱きしめていたいが、いつ、侍女が入ってくるかわからないから、そっとカラダを離す。

 「ごめん、最近、学園でいろいろあり、ついアナスターシアに。」

 「わたくしもですわ。でも学園内では、ジョージ様に話すこともままならなくて。」

 「何があったんだい?話してごらん。」

 優しく言われたので、つい泣きながら最近、アナスターシアを待ち伏せされていることなど、追いかけられて怖くて。取り巻き男子生徒が追い払ってくれるけど、一瞬の隙をついて、襲われそうになったことなどを話した。

 ジョージがアナスターシアを守る手立ては二つある。一つは、アナスターシアと正式に婚約して、王家の騎士に守らせることだが、貴族令嬢からどんな嫌がらせをアナスターシアが受けるかわからない。ただでさえ、自分のところには体当たりで迫ってくる下位貴族令嬢の多いこと。実際に正式に婚約すれば、ますますエスカレートしてくることだろう。

 もう一つの案は、影と呼ばれる国家諜報部員に陰ながら、アナスターシアを守らせることである。諜報部員を動かすには、国王陛下の許可が必要で、オルブライト公爵にも相談しなくてはならない事項である。学園とツーツーだから。

 「ちょっと待ってて。」
 
 アナスターシアの額にキスを落とす。
 アナスターシアは、それだけでもう顔を真っ赤にして、でもなぜか安心できるのである。

 ジョージは、アナスターシアを部屋に残し、公爵の元へ相談に行く。国王への相談は、自分が必死になって説得すればできる自信があるのだが、公爵は、どう対応するか見えない。

 公爵はジョージの言い分を全面的に認め、諜報部員にアナスターシアを守らせることを承諾したのである。

 部屋に戻ったジョージは、もう一度、ぎゅっとアナスターシアを抱きしめ、

 「これからは、四六時中、国家の影が君を守るよ。御父上が承諾してくださった。」

 「か、かげ?」

 「うん。影と呼ばれる王室の諜報部員だよ。もし君に危害を加えるような動きがあるときは、事前に察知して、守るように動いてくれる存在なのだ。悪口や陰口も全部聞いててくれる。そして、悪口を言った奴も処罰の対象になるので安心だよ。君には、王族と同じ守られる立場になるのだ。」 

 「そんな大それたこと、わたくしが守ってもらっていいのですか?」

 「もちろんだよ。愛している。」

 初めて、ジョージは、アナスターシアに愛の言葉を囁く。今まで、言う機会がなかったのだ。そして、今、はっきりとアナスターシアへの愛を自覚したのだ。

 アナスターシアも歓喜の気持ちで震えながら、はっきりと自分の気持ちを自覚する。

 「わたくしもジョージ様を愛しています。」
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