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 わたくしの名前はアナスターシア・オルブライト、オルブライト家の5女でございます。

 我がオルブライト家は顔だけ美人を代々輩出する家柄でございます。高位貴族はとにかく美人を嫁にしたい、連れて歩くときに鼻高々でどこのパーティでも参加が引っ張りだこになるうえ、子孫にブス、ブサイクな子ができてほしくないからです。

 それで生まれてすぐ女の子なら即刻、縁談が決まってしまうぐらい人気のある家系でございます。ちょうど愛玩動物で血統書付きのようなものですわね。

 ご多聞に漏れず、わたくしも本来なら、すぐ婚約者が決まってしまうはずでございましたが、末娘と言うこともあり、両親が手元に置いて、育てたいとの希望から、まだ、どなたとも婚約できずにいますのよ。

 両親は、一番上のアデラインお姉さまと、わたくしアナスターシアは格別可愛いと言っていますが、他のお姉さまたちには内緒のことでございます。

 もうわたくしは、「お嫁に行かなくてもいいよ。」と言われていますが、本当かしら?でも、アデラインお姉さまは美人だと言うだけで、ご学友からたいそう虐められたと聞くと、なんか、学園に行くのがコワイ?ような気がします。そのわたくしも、もうすぐ学園の入学式が迫っていて、どうなるのかしら?不安と楽しみが織り交ざっている感じですわ。

 そしてついに入学式の日が来る。両親とともに参加。クラス分けの発表があり、その日は、オリエンテーションだけで帰ることになります。

 「どうだ?アナスターシア、やっていけそうかい?」

 「わかりませんわ。でもお姉さまのように虐められたら困りますわ。」

 「学園長によく言っておくが、少しでも意地悪されたら、すぐパパに言うんだよ。」

 「はい。お父様。」

 次の日、アナスターシアが登校して、教室に行ってみると、……アナスターシアの机の上だけ花束やプレゼントが山のように置かれていたのである。お手紙付きで。

 「まぁ!どなたがくださったの?ステキね。」

 ハイ、ハイ、と手を上げる男子生徒たち。

 「あなたがくれたの?ありがとうございます。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 「オルブライト家の隣にある公爵家のチャーリー・マックィーンと申します。以後、お見知りおきを。」

 「まぁ素敵!お隣様でしたの?なかなかお会いする機会がなくて、失礼いたしましたわ。」

 「帰りは、同じ方向ですから、良ければ、ご一緒にいかがですか?」

 するとそこへ、別の男子生徒が現れて、

 「チャーリー、手柄を独り占めにするな!そこの赤いバラの花束は私からのものです。それとこの包み紙のプレゼントと。私はオルブライト家の向かい側に住んでおります公爵家のスティーヴ・ブロンソンと申す者です。あなた様が出かけられるとき、チラチラ見ていて、その美しきご尊顔に敬服しておりました。」

 「まぁ!ブロンソン様と仰いますのね。ありがとう存じます。」

 「どうか、名前呼びで、お願いします。私もアナスターシア様とお呼びしてもかまいませんか?」

 「ええ、もちろんですわ。スティーヴ様。」

 スティーヴはガッツポーズをしている。それを横目でにらんでいるチャーリー。

 「私も名前呼びでお願いします。アナスターシア様。」

 「はい。チャーリー様。」

 「よっしゃーっ!」

 その後も隣近所の人から始まって、いろいろな貴族令息から名乗りを上げられ、もう誰が誰やらわからない、いちいち覚えられないのである。

 そうこうしているうちに、始業チャイムが鳴り、担任の先生が入ってこられる。担任の先生はこの前、学園を卒業されたばかりの若い先生でアダムス・クリントン先生。

 「ほう、君が噂のオルブライト家の令嬢か?ステファニーより美人だね。」

 「ステファニーお姉さまをご存知なのですか?」

 「うん。同じクラスだったこともあるよ。オルブライト家の令嬢を虐めると退学処分になるんだ。みんな、気を付けるように。アナスターシア嬢が美人だからと言って、嫉妬しないように。誰もこの顔には逆立ちしたって、かなわないんだからね。」

 アナスターシアを虐めると退学処分になると聞いてから、他の令嬢のボルテージは一気に下がったのである。変にかかわったら、退学どころか地下牢に入れられ、除籍されかねない。他国の令嬢は死罪になったものまでいる。そういえば、3年前、そんな噂が蔓延したような気がする?

 他の貴族令嬢は、どんなに男子生徒たちからアナスターシアがちやほやされているのを見ても、当然の景色の一部として受け止めるようになったのである。

 最初のプレゼントは、新入生からばかりであったが、2年生、3年生などからの上級生もプレゼント攻勢をかけられ、はなはだ迷惑しているのである。毎日、馬車一杯のプレゼントを乗せ、アナスターシアは座るところがなく、御者席の横に座らせてもらっているのだから。

 クリントン先生からも熱い視線を向けられていても鈍感だからわからない。
 小さい時から、美しいと言われ慣れているので、それが好意からくるものなのかどうかの判断がつかない。
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