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現代フィクション

2北原くらら

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 北原くらら。

 北原事務次官の長女で東京大学法学部卒業、Toeic950点、霞が関の中でもエリート中のエリートである。高校時代、そして大学時代も芸能事務所からスカウトがひっきりなしにかかるほどの飛び切りの美女。

 霞が関に勤めるようになってからは、選挙のたびに与党から出馬要請がかかる。家柄よし、学歴よし、容姿端麗だから大臣付きの秘書にしたいと声がかかるほどである。

 くららは、小さい時から美人で優秀で、ということからわがままで鼻持ちならない性格に育ってしまったのだ。自分程美しくて、優秀な者はいない。実際、そうではあるが、だから友人も恋人もいない。

 恋人など、今まで一度も持ったことがない。まぁ、友人と呼べるかどうかは、わからないけれど、くららの取り巻きはたくさんいる。でも、くららは取り巻きを内心バカにしていて、友人などとは思っていない。

 今日も今日とて、同期入省の木下正治とやり合ったばかり、コテンパンに論破したもののどうもスッキリしない、ムシャクシャしているので自販機のブラックコーヒー缶を買って、非常階段で飲もうと階段を下りていると、見慣れないスマホがなぜか落ちていたのだ。

 「だれ?こんなところに個人情報を置き去りにするなんて。」

 拾おうと前かがみになった途端、グラリとバランスを崩して転倒してしまい、そのまま意識を失ってしまう。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 「ん……ん。」

 「おおー、やっと気づいてくれたね。」

 白い部屋、白いシーツ、ここは天国?

 見たこともない初老の男性に女性が覗き込んでいる。

 だれ?

 あの日、家路を急いで信号のない交差点を渡っているとき、突如、現れた車のヘッドライトに驚いて足がすくんでしまったところまでは、覚えている。

 その後は……たぶん、……車にはねられたはず……。薄れていく意識の中で、確かに救急車のサイレンを聞いたような気がする。

 「ああ、良かった。これで退院出来ますね、先生。」

 え?退院?ということは、車にはねられて、入院していたのか?でも、一ノ瀬さんはいないようだ。

 病室を見回しても、知らない人たちばかり。

 「打撲も大したことがありませんから、2~3日様子を見て、それから退院ですね。」

 「いやぁ、ありがとうございます。お正月には家族そろって迎えられるだけで、ほっとしました。」

 へ?この人たちと家族?どうみても、ウチの両親には見えない。ウチの両親は、こんなに格好良くない。

 「あの……。」

 「どうしたんだい、くらら。何か欲しいものがあるのかい?お水でも飲むか?」

 くらら?今、確かにくららと呼ばれたような気がするけど?

 「あの……、ここはどこ?私はだれ?」

 「!!!!!」

 今迄のおめでたいムードは消え、いっぺんに凍り付く病室。

 「先生!」

 初老の男性が、医師に食って掛かる。

 「落ち着いてください。お父さん、きっと階段から落ちられた時、頭を打って、記憶が失われてしまったのかもしれません。脳波には異常がなかったのです。そのうち、記憶を取り戻されるでしょう。」

 「そんな……記憶は取り戻せるのですね?いつ?」

 「記憶障害は心因性の部分が大きく……、ストレスを取り除けば、治るかもしれません。ですが、日常生活に支障が残るケースは少ないですから、このまま社会復帰は可能です。」

 「あの、今いつですか?」

 聞けば、クリスマスイヴで一ノ瀬さんとデートの約束があった日、こんな格好で行っても、きっと誰だかわからないだろうなぁ。それに、夏美は死んで、どういうわけかくららさんのカラダに入り込んでしまったようだ。

 これからは、加藤夏美としてではなく、北原くららさんとして生きていかなければならない。

 鏡で見るとくららさんは、これが私?と思えるぐらいの美人で、おっぱいは夏美と比べるとやや小さめのCカップかDカップぐらいで、程よい大きさである。

 年齢的にも同じぐらいかなと思っていると25歳。ほぼ同い年なのに、彼氏がいないみたい。どうして?こんな美人なのに。

 退院時の私物の中にスマホが二つあった。一つは夏美のスマホ、あの事故の1日前に失くしたものだ。それをどうして、くららさんが持っていたのかはわからないけど、結果的に夏美の手元に戻ってきたことは良かった。

 落ち着いたら、これで一ノ瀬さんと連絡を取って……と何気に、電源を入れるとデータがすべて消されていたのだ。初期化されている。どうして?

 そういえば、事故の10日ほど前に、大吾から預かっていたSDカードは……、無事スマホの中に入っていたけど、これと何か関係があるのかしらね。これも初期化されて消されているかもしれないけど、とにかくSDカードは無事入っていたから、よしとしましょう。

 とにかく今の状況で、夏美が頼れるのは北原のお父さんぐらいなので、そのSDカードをお父さんに見せることにしたのだ。

 ひょっとしたら、大吾ももうこの世にいないのかもしれない。だから、夏美の部屋に空き巣か泥棒が入って、このSDカードを狙われたのかもしれない。

 もう加藤夏美は死んでしまったのだろう。だから恐れるものは何もないはず。

 気を取り直して、SDカードを北原のお父さんに見せると、北原父は、みるみる顔色が変わって

 「くらら、どこでこれを?」

 夏美は首を横に振り、「わからないの。でも拾ったスマホの中に入っていたものよ。スマホ自体は、初期化されていたみたいなの。」

 本当のような?嘘のような?話でごまかす。前世の元婚約者がくれたものとは、とても言えないから。

 「これは、父さんが預かろう。でかした、さすがは俺の娘だ。お手柄だぞ、これは。」

 SDカードは初期化されていないようだ、というより、大吾が初期化できないようにしていてくれたみたいでよかった。

 それから、年が明けて、夏美は霞が関に復帰したのだが、どこへ行くのか職場の場所も自分の部署、机もわからない。父に言うと、同期入省の木下さんをつけてくれて、彼がすべて承知のうえで、官舎から霞が関まで、案内してくれて助かった。

 その木下さん、なかなか男前で、くららさんとどういう関係?って聞きたかったけど、聞けない。恋人関係ではないみたい。男前だけど、ちょっと、くららさんとは距離をおいている感じ、きっと彼女がいるのね。

 「北原、本当に何も覚えていないのか?」

 「はい。ごめんなさい。」

 ギョッとした顔で、くららを見る木下。なに?なんか変なこと言った?

 くららさんの職場は、経済産業省貿易経済協力局貿易安全管理部貿易管理安全保障振興課というところであった。

 お部屋に案内してもらい、机が木下さんの隣の席であった。トイレと給湯室の在りかを聞き、課の皆さんのためにお茶を沸かす。

 そして、皆さんが出勤してきたところを見計らい、順番に机の上にお茶を出しながら、怪我で休んでいたことと記憶の詫びを入れる。

 ここでもギョっとした顔で、お茶とくららさんの顔を交互に見ている。

 なになに?記憶喪失って、そんなに珍しいものなの?お昼休みは、持参したお弁当を広げていると、またまたギョっとした顔をされる。

 そういえば、官舎のくららさんのお部屋、夏美のマンションで空き巣に入られた時みたいに散らかっていたわ。

 あんなに美人なのに、結構だらしがない女性だったのかしら。実家へ帰れば、お手伝いさんがいる暮らしがあるというのに、なんでわざわざ官舎暮らししていたのかしらね。

 それから帰るときもまた、木下さんが送ってくれたのだ。こんなに近くにイイ男がいるのに、なぜ、くららさんはモーションかけなかったのかしらね。

 他に好きな男性でもいたのかしら。

 「北原、お前、記憶を失くしてから別人みたいになったな。」

 「ごめんなさい、でも何も覚えていなくて、木下さんにご迷惑かしら?」

 また、ギョっとした顔で見られる。

 私、そんな変なこと言っている?一応、気を遣っているのだけど……。

 「あの……スーパーマーケットへ寄りたいので。」

 またまた、ギョっとした顔をされる。そして、ジロジロ顔を見られる。

 前世、男性が夏美のバストに視線が行くのは、慣れていたけど、顔を見られるという経験はあまりないので、照れる。

 「ああ、今日は疲れただろう。どうだ、飯でも食って行かないか?」

 「ええ、とても嬉しいお言葉ですが……。」

 「ああ、ごめん。いや、いいんだ。北原がいつもと違ったからつい……。」

 「いえ、違うんです。外で食事するなら、ウチへ来ませんか?実は昨夜、カレーを作りすぎてしまって、今週はずっとカレーを食べ続けないとダメかなぁと、もったいないから。」

 「え?本当に?いいの?」

 「食べていただけますか?……(ついでに私も?)」

 「そう言うことなら喜んで協力させてもらうよ。」

 寄り道して、スーパーマーケットのほかに、木下のための雑貨やスプーン、お皿などを買って帰る。

 まるで新婚カップルみたいに、二人ともウキウキはしゃいでいる。

 官舎では、木下の家はやはり隣の部屋だった。なんで、こんなイイ男にちょっかいを出さなかったのかしら、まぁいいわ。今夜、味見しといたげる。

 なんとなく夏美は島村部長の一件がカタをついたら、成仏して、くららさんにカラダを返せると思い込んでいる。

 だからそれまでは、今まで見たこともない美人ライフをエンジョイしたいのである。

 そして木下の味見があまり良くなかった場合、また記憶喪失を装って、ポイすればいいと思っているのだ。所詮、一夜限りの愛、遊びだからね。後腐れがあるのはごめん被りたいわ。

 木下は、今の今まで、北原くららのことを行かず後家のイヤな女としか見ていなかったのに、階段から落ちて記憶を失ってからの彼女は別人みたいに気立てが良く、可愛い。俺は今まで何を見ていたのか?と思えるほどイイ女なのだ。確かに、くららは美人だけど、自分が優秀だということも美しいということも、よく理解しているいけ好かない女だったのだ。いつも上から目線で、他人や俺を見下しているようなところがあった。

 だから事務次官命令でも、最初は断ろうと思っていたのだが、俺を外食ではなく家で食べたいのか?俺を誘うなんてこと今まで一度もなかった。通勤電車で会ってもイヤそうな顔をされていたのに、今夜は押し倒して、全部食ってやる!あ、その前にゴム買っとかなきゃな。彼女が雑貨店へ立ち寄った隙に、ドラッグストアで買う。

 くららは部屋に入るなり、バスタブにお湯をためる。そして、炊飯器のタイマーをセットしていたので、ご飯の様子を確認、鍋のカレーを温め、木下のために買ったカレー皿とスプーンをテーブルに置く。

 「ビールでいいよね?」

 冷蔵庫から、缶ビールを出し、グラスに注いでいく。ついでにヒジキやきんぴらというストックなおかずをレンジでチンして、盛り付けていく。

 「送ってくれて、ありがとう。木下さんのおかげで助かりました。」

 「退院おめでとう。大した怪我でもなく良かったね。」

 「もうすぐカレーできるけど、先にお風呂にする?」

 「え?いいの?ウチと同じ間取りだから、家で入ってもいいよ。」

 「帰ったら、一番にお風呂を沸かすのよ。その日の汚れを先にとってから、綺麗になってからご飯を食べたい主義なの。」

 「それはいいね、北原さんも入る?」

 「一緒には入らないわよ。先に入って。」

 「じゃあ、北原さんはこの家で先にお風呂を使ってください。俺ん家は、隣の部屋だから、俺も部屋で風呂に入ってから、ラフな姿でもう一度来て、カレーライスをいただくよ。(ついでに君も)」

 「あ、それいいわね。そしたらカレーを温めながら待ってるね。バスローブみたいなので来てもいいよ。私もパジャマ姿でもいい?(食べたらすぐ襲うから)」

 内心、お互い思っていることは同じ、だけどあからさまに気づかれないように、オブラートに包んでいる。

 そして、入浴後髪を乾かしていると、ピンポーン!もう来たの?まだ下着もつけていないというのに。ま、いっか、どうせすぐ脱ぐのだから。

 木下は待ちきれなくて、もうゴムを装着したまま、訪れたのだ。そして、玄関先で見たくららの姿があまりの色っぽさに武者震いをしてしまう。

 「「カレーは食後でいいよね。」」

 同じ目的のために、二人は貪り合う。木下もバスローブの下は何も着けていない。くららも同じで、生まれたままの姿。紐を解けば、全裸である。

 その姿を見て、木下はあまりの美しさに立ち尽くす。想像以上に美しい裸体。形の良いバスト、くびれたウエスト。手足が細く長い。肌の色は陶磁器のように滑らかで白い。

 二人の男女は、全裸のまましばらく見つめ合う。

 そして木下がくららの肩に手を置き、抱きよせるようにキスをしていく。くららも木下の腰から手を回し背中を抱くような形で応じる。

 なんと!くららは処女だったのだ。夏美は、「痛い、痛い。」を連発するも、木下は腰を振るのをやめてくれない。もう味見どころではない。痛くて、いいのか悪いのか判断できない!

 でも、その後、けっこう優しくって。いろいろ気を遣ってくれる。

 Hの前に優しい男はたくさんいるけど、後まで優しい男はいい男だと思う。それが夏美の持論だ。

 それから二人は付き合うようになった。食後の後のカレーライスを3杯も食べてくれた木下に感謝でいっぱい。食後、また狭いお風呂で続きをやり、その日はくららの家で泊まる。朝、目覚めた時に木下がじっと、くららの寝顔を見てくれている。

 起きてから、もう一度して朝ごはんを食べ、出勤の用意をするからと、木下は自分の部屋へ戻る。

 くららは、木下の分と自分のお弁当を用意して、着替えと化粧を済ませる。こういう幸せもいいよね。彼氏のお弁当を作るのは、初めてだ。部署が違ったから、大吾には一度も作ったことがない。一ノ瀬も社食で食べたい人だったから、作っていない。一ノ瀬と同棲していた期間は土日込みで5日ほどだから、だいたい作る作らないの問題ではないほど短い間のことだったのである。

 それから1時間後ぐらいに、木下がスーツ姿で迎えに来て、やっぱり格好いい。お弁当を手渡して、二人で出勤、帰りも一緒でスーパーマーケットへ寄り、買い物をして、くららの部屋で朝まで愛し合う。

 木下正治は、もう有頂天になっている。同期入省の時から狙っていた相手くららをモノにできたばかりか、半同棲状態である。いつでも自分が抱きたいときに抱け、処女を奪ったのだから夜の営みには自分が主導権を持っている。省内にいるときも、残業しているときに欲しくなればいつでも彼女を抱ける。

 以前の彼女では考えられないことだ。今の彼女は常に自分に従順で、優しく美味しい飯を作ってくれる。結婚したいと言えば、目を潤ませて喜んでくれた。事務次官のお嬢さんではなく。一人の女性として、くららを愛している。

 記憶喪失の原因となった階段での事故、あの直前に木下とくららは、ドンパチやりあって、木下は完敗したのだ。それが今はどうだ。木下の言うことには、なんでも「はい、はい。」と言い、逆らわず俺にべた惚れの様子。

 上目づかいで目を潤ませ、俺を見てくる姿がたまらなく愛しい。俺が少し、カラダに触っただけで、もうくららは濡らして、いつでもカラダを開いてくれ、俺を受け入れてくれるようになったのだ。

 あの事件が発覚する前までは。

 それは、ある日次官から局長へ。局長から部長へ。部長から課長へと降りてきた案件に関係があったのだ。

 その案件は、くららが父に渡したSDカードが発端となったもの。

 大手商社が外為法に違反している証拠だったのだ。事件を解明していくうちに、その商社では、二人の人間が死んでいることがわかる。一人は監禁の上、自殺に見せかけた他殺、もう一人はひき逃げ事故で亡くなっている。科捜研が司法解剖したうえで、結論付けているのだから、ほぼ間違いない話だろう。

 そして、二人は元婚約者だったのである。被害者のうちの一人は、ひき逃げ事故に遭う6日前に被害者の自宅が何者かに荒らされていることから考えると、この二つの事件には関連性があると思われるのだ。

 ことは慎重を要する。なぜなら、大手商社だけの問題では済まされない。大手商社は多額の献金を政治家に行っているのが普通で、大掛かりな捜査網が必要となり、人手も多くいる。警察、検察とも連携して行かなくてはならない話である。

 まずはできるところから、というとやはり民間会社をつぶすことなのだが、営業停止1年ぐらいではおさまらないだろう。

 全貨物、全地域を輸出禁止にすることぐらいで、後は局長名で厳重注意か警告文を出すことぐらいしかできない。

 外為法に違反していると思われる大手商社は、武器の原料となる、および武器を製造する機器の部品の一部分となる製品、原材料を経済産業省の許可なく、某国へ販売していたのである。

 これは外国為替及び外国貿易法の規制品目に該当することが明らかである。

 この事件が発覚して以来、くららの様子が目に見えておかしい。

 どこか落ち着きがないような、そわそわしている。もともと事務次官の話によれば、そのSDカードは、クララが拾ったスマホの中に入っていたものだそうで、そのスマホは、既に警察の手にあり、初期化していたデータを復元したら、ひき逃げされた被害者の持ち物であることが判明したのである。

 くららの弁によると、そのスマホは、退院したときに私物の中に入っていたものとしか言わない。

 くららは、被害者がひき逃げ事件にあっているときには、まだ省内にいて、木下とドンパチやり合っている最中、大勢の目撃者がいるのでアリバイは完璧。

 被害女性は、東大出身者でもなく、くららと接点はない。本当に拾っただけなのか?それとも、くららが落ちた非常階段にあったものなのだろうか?救急隊員の話では、くららの傍にスマホがあったから、本人のものだと思い、一緒に持って行ったという証言が聞けた。

 あとは、くららの記憶が回復することを待ちわびるだけ。でも、「その時はお別れするかもしれない。」としか、くららは言わない。

 何か秘密を隠しているような?暴きたいような?暴くことが二人の別れに繋がるなら、暴きたくないような?悶々とした日々を送る。

 思い切って、将来の舅となる事務次官に相談してみることに。

 「今は、くららを信じてそっとしてやってくれ。」

 姑は、「くららちゃんは、昔から気遣いのできる優しい娘よ。潜在意識の一部がいま、露見しているだけだと思うわよ。」

 そう言われたら、東大の一般教養で、そんなことを学んだ記憶もあると、なぜか納得してしまう。

 だから俺は、もうそれ以上の詮索は止めた。

 俺が好きになったのは、記憶を失ってからのくららだから。以前のくららの記憶などどうでもいいではないか、と思うようにしたのだ。

 それが結果的には良かったのだ、事件が解決するとくららは、以前のような元気で明るい可愛いくららに戻ってくれたのだから。

 ただ、何かを吹っ切れたみたいな顔はしていたが、もう何も聞かない。ただ、結婚式まで、毎日愛し合うだけ。
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