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5 リリアーヌ視点
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わたくしはリリアーヌ・ダディッキー、ダディッキー公爵令嬢です。
物心ついたときは、いつもお姉さまのロザリーヌと何もかも一緒だった。笑うときも泣くときも怒るときもいつも一緒。お昼寝で寝返りを打つのも、一緒だったのに、あの日から変に歯車が狂っちゃった。
あの日とは、ヴィンセント王子が5歳の誕生日を迎えられた時のこと、朝から、わたくしどうも気分がすぐれなくて、その日は雨だったからかもしれないけど、それで足元が濡れるのって、とても嫌な気分になる。
それで絶対に行くのが嫌だって言ったのよ。今までの成り行きからだったら姉のロザリーヌも一緒になって、行かないと言ってくれるものだとばかりに思っていたわ。
それなのに、その日は同調してくれなかったのよ。姉は、父とともにやれやれ、といった顔で一人だけでお誕生会へ行ってしまった。
あの時の姉の顔は今でも、ハッキリ覚えている。うんざりしたような?呆れたような顔をしていたわ。
そして、姉が帰ってからは、事態は急変する。明日から、姉だけお城へお妃教育に行くことになったから、リリアーヌはおとなしくお留守番をするように、って。ええ?うそでしょ?わたくし達は二人で一人なのよ。
それなのに、無理やり姉と引き離されて、それからは、何をするにも姉が一番になった。
周囲の大人は、すべて、姉にだけ頭を下げるようになり、わたくしのことは子ども扱いのまま。
姉は将来の王妃になる身分だから、姉には敬語で接するように、と叱られたわ。5歳の子供に敬語で接しろ、なんて無理に決まっている。
今までは、いつも一緒に笑ったり、怒ったりしていたのに、寂しかった。前のような姉に戻ってほしくて、ずいぶん姉に迷惑をかけたわ。でも、ダメだった。
姉はどんどん無表情になり、喜怒哀楽を表に出さないようになった。このままじゃ人形になってしまうよ。
それで姉の持ち物を何でも欲しがってみた。姉はいつも優しく、一見すると前と変わらない優しさで接してくれる。でも、それが腹立たしかった。わたくしは、子供のままなのに、姉だけがどんどん大人になっていくような気がしたから。
周囲の大人は相変わらず、姉だけにペコペコして、ちやほやする。わたくしのことなど、完全に無視されている。いつもそう。
わたくしがどれだけ我が儘を言ってみても、怒られることなく過ごせた。寂しかった。一度、姉とともに、王城へお妃教育の見学へ行ったことがある。
その時に、ヴィンセントと出会ってしまったのが、運の尽きだった気がする。
ヴィンセントは、ロザリーヌと同じ顔だと最初は笑った。
「双子って、どんなもの?」
最初は、たわいない話だったのだが、だんだん回を重ねていくうちに、ヴィンセントも寂しい男だということがわかってきたのである。
さみしい者同士、お互いに慰め合っているうちに、求められるままカラダの関係になっていく。こんなことしたら、姉が悲しむとわかっていながら、罪悪感が却って、恋の炎を燃え上がらせたのだ。
そして、あの婚約破棄の日、わたくしもヴィンセントから呼ばれて行ってみたら、わたくしが聖女様であると嘘を吐けと急に言われ、困惑する。だって、聖女様は純潔の乙女でないと聖女様になれないよ。と言っても、だったら13年間の妃教育を甘んじて受けるか?と問われ、それはどうしてもイヤだったので、ヴィンセントの嘘に乗ることにしたのだ。
姉はもっと悲しそうな顔をするのか、と思っていたら、さほどでもなく妙にさっぱりした顔で「おめでとうございます。」と言って、さっさと帰ってしまう。
残されたわたくしは、ただオロオロするばかり、わたくしが聖女様でないことは姉が一番よく知っているからだ。
帰宅しても、姉は聖女様のことには一切触れず、
「ウェディングドレス、着る人がいて、よかったわ。」
今から考えると、姉はヴィンセント様のことが嫌いだったのかもしれないわ。だからわたくしに厄介者払いができて、ホッとしていたのかもしれない。
姉も両親も何も言わずに、結婚式に送り出してくれた。それなのに、あの司祭様が急に、神に選ばれし花嫁かどうか儀式を行うなどと……。
ヴィンセントのほうを見ると、仕方がないといった表情で開き直っている。アナタがわたくしに聖女様のフリをしろって、言ったのよ!
それなのに、自分は知らぬ存ぜぬで、逃げようってどういう了見よ!
水晶玉は、当然反応しなく、姉が手をかざしたら、見事に光り輝いたわ。
当然よね、姉みたいに優しい人に水晶玉が反応しなければ、その水晶玉は壊れているか、ガラス玉のどちらかである。
そして、わたくしはヴィンセントの手によって、殺されて今は無限地獄にいる。暗くて、寒いところだけど、時折、あたたかな風が吹いてくることがある。
その時、きっと両親や姉がわたくしのことを思い出し、涙してくれているのだろう。
ありがとうお姉さま、さようならもうひとりのわたくし。
お姉さまには、幸せを見つけていただきたいわ。
物心ついたときは、いつもお姉さまのロザリーヌと何もかも一緒だった。笑うときも泣くときも怒るときもいつも一緒。お昼寝で寝返りを打つのも、一緒だったのに、あの日から変に歯車が狂っちゃった。
あの日とは、ヴィンセント王子が5歳の誕生日を迎えられた時のこと、朝から、わたくしどうも気分がすぐれなくて、その日は雨だったからかもしれないけど、それで足元が濡れるのって、とても嫌な気分になる。
それで絶対に行くのが嫌だって言ったのよ。今までの成り行きからだったら姉のロザリーヌも一緒になって、行かないと言ってくれるものだとばかりに思っていたわ。
それなのに、その日は同調してくれなかったのよ。姉は、父とともにやれやれ、といった顔で一人だけでお誕生会へ行ってしまった。
あの時の姉の顔は今でも、ハッキリ覚えている。うんざりしたような?呆れたような顔をしていたわ。
そして、姉が帰ってからは、事態は急変する。明日から、姉だけお城へお妃教育に行くことになったから、リリアーヌはおとなしくお留守番をするように、って。ええ?うそでしょ?わたくし達は二人で一人なのよ。
それなのに、無理やり姉と引き離されて、それからは、何をするにも姉が一番になった。
周囲の大人は、すべて、姉にだけ頭を下げるようになり、わたくしのことは子ども扱いのまま。
姉は将来の王妃になる身分だから、姉には敬語で接するように、と叱られたわ。5歳の子供に敬語で接しろ、なんて無理に決まっている。
今までは、いつも一緒に笑ったり、怒ったりしていたのに、寂しかった。前のような姉に戻ってほしくて、ずいぶん姉に迷惑をかけたわ。でも、ダメだった。
姉はどんどん無表情になり、喜怒哀楽を表に出さないようになった。このままじゃ人形になってしまうよ。
それで姉の持ち物を何でも欲しがってみた。姉はいつも優しく、一見すると前と変わらない優しさで接してくれる。でも、それが腹立たしかった。わたくしは、子供のままなのに、姉だけがどんどん大人になっていくような気がしたから。
周囲の大人は相変わらず、姉だけにペコペコして、ちやほやする。わたくしのことなど、完全に無視されている。いつもそう。
わたくしがどれだけ我が儘を言ってみても、怒られることなく過ごせた。寂しかった。一度、姉とともに、王城へお妃教育の見学へ行ったことがある。
その時に、ヴィンセントと出会ってしまったのが、運の尽きだった気がする。
ヴィンセントは、ロザリーヌと同じ顔だと最初は笑った。
「双子って、どんなもの?」
最初は、たわいない話だったのだが、だんだん回を重ねていくうちに、ヴィンセントも寂しい男だということがわかってきたのである。
さみしい者同士、お互いに慰め合っているうちに、求められるままカラダの関係になっていく。こんなことしたら、姉が悲しむとわかっていながら、罪悪感が却って、恋の炎を燃え上がらせたのだ。
そして、あの婚約破棄の日、わたくしもヴィンセントから呼ばれて行ってみたら、わたくしが聖女様であると嘘を吐けと急に言われ、困惑する。だって、聖女様は純潔の乙女でないと聖女様になれないよ。と言っても、だったら13年間の妃教育を甘んじて受けるか?と問われ、それはどうしてもイヤだったので、ヴィンセントの嘘に乗ることにしたのだ。
姉はもっと悲しそうな顔をするのか、と思っていたら、さほどでもなく妙にさっぱりした顔で「おめでとうございます。」と言って、さっさと帰ってしまう。
残されたわたくしは、ただオロオロするばかり、わたくしが聖女様でないことは姉が一番よく知っているからだ。
帰宅しても、姉は聖女様のことには一切触れず、
「ウェディングドレス、着る人がいて、よかったわ。」
今から考えると、姉はヴィンセント様のことが嫌いだったのかもしれないわ。だからわたくしに厄介者払いができて、ホッとしていたのかもしれない。
姉も両親も何も言わずに、結婚式に送り出してくれた。それなのに、あの司祭様が急に、神に選ばれし花嫁かどうか儀式を行うなどと……。
ヴィンセントのほうを見ると、仕方がないといった表情で開き直っている。アナタがわたくしに聖女様のフリをしろって、言ったのよ!
それなのに、自分は知らぬ存ぜぬで、逃げようってどういう了見よ!
水晶玉は、当然反応しなく、姉が手をかざしたら、見事に光り輝いたわ。
当然よね、姉みたいに優しい人に水晶玉が反応しなければ、その水晶玉は壊れているか、ガラス玉のどちらかである。
そして、わたくしはヴィンセントの手によって、殺されて今は無限地獄にいる。暗くて、寒いところだけど、時折、あたたかな風が吹いてくることがある。
その時、きっと両親や姉がわたくしのことを思い出し、涙してくれているのだろう。
ありがとうお姉さま、さようならもうひとりのわたくし。
お姉さまには、幸せを見つけていただきたいわ。
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