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オフィスラブ
21.出社
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とりあえず美織は、フラッグが付いているものから読むことにする。
そのほとんどが、美織が怪我をしたことについてだったので、もう読むことを辞めてしまおうか?と悩んでいるときに、息せき切って、秘書と思われるオバサンが経理部にとびこんでくる。
「こちらにいらっしゃったのですね。奥様。ご主人が体操心配されておりまして、今日、ご退院のはずではなかったのでしょうか?」
「あの……、あなた誰?」
あ!オバサンはバツが悪そうにしている。たぶん、美織の記憶喪失のことを知っているのだろう。
「あ、私、社長秘書をしております鬼塚麻衣子と申しまして、社長が本日、奥様が退院されるということで、病院の方へ行かれましたが、奥様は退院していらっしゃって、会社に出社されているという連絡を社長にさせていただきました。まもなく、社長もこちらの方へ参られるかと思いますので、できましたら社長室へご移動願えないでしょうか?」
「どうして?」
秘書とこんなやり取りをしていても、経理部員は当然という顔をしているから、部員にとっては、社長と結婚しているということは、周知の事実みたい。でも、美織は納得していないから、ささやかな抵抗をしている。
「ですから、社長室へお越しください。お願いします。」
鬼塚さんに頭を下げられたら、仕方がない。この人の仕事なのだろうから、渋々、仕事を後回しにして、社長室に向かう。
エレベーターを役員室のフロアに設定ボタンを押し、降りようとした途端、強烈なめまいと頭痛に襲われ、その場に倒れ込み、意識を失ってしまう。
「奥様!大乗ですか?……誰か!助けて!」
気が付けば、見知らぬ……ベッドの上に寝かされている。
「ここは……どこ?」
女子社員の制服のまま、寝かされているから会社の中にこんなお部屋があったとは、知らなかった。
ゆっくりと起き上がり、あたりを見回すと、どう見ても、ここは会社ではないことがわかる。
おそらく、ここは社長が済まれている部屋なのだろうと察する。
靴を履き、部屋を出て、ビックリする。どう見ても、誰かのマンションの一室という造りになっていて、一つの部屋が大きいうえに、2人分で過ごしていたかと思えるような冷蔵庫の中。
社長ともう一人は、冷蔵庫の中身からすると、認めたくないが、自分がここに住んでいたと思うような使い方をしている。
お礼に、晩御飯の支度でもしてから帰ることにする。シチュー用の肉が買ってあったので、カレーライスを作る。ご飯は、7時ごろに炊き上がるように、タイマーセットしてから、家を出るようにしておく。
制服のまま、電車に乗るのは、いくら何でも恥ずかしい。どこからなのかもわからないから、タクシーを利用するにも勇気がいる。
社長夫人とは、思えないほど慎ましい。これが美織の本来の性格で、贅沢なことなんて、頼まれてもできないから、しょうがない。あくまでも、庶民感覚がある。
クローゼットの中から、自分のものだと思われる洋服に着替えて、制服は、紙袋に入れる。よく見ると、クローゼットの中には、高そうな洋服が並んでいる。もし、本当に結婚していたと知ても絶対に自分では、買わないようなブランドものばかりだから、余計信じられなくなっている。制服は持ち帰ることにして、カギをどうしようかと、鬼塚さんに連絡して、カギをかけてもらえるように頼めばいいことに気が付く。
窓の戸締りを、と思って近づくと、ここは相当な高層階であることに気づかされてしまう。
うっひゃー!こんな高い所、堕ちたら死ぬわ。洗濯物はどこへ干していたのやら?
興味はあるが、本当に自分が住んでいたかもどうかわからないところで、空き巣のように物色するのも、おかしな話だから、そこそこにして、水屋の引き出しの中にあった現金入りの封筒から、1万円札をお借りして、家に帰ることにする。
そのほとんどが、美織が怪我をしたことについてだったので、もう読むことを辞めてしまおうか?と悩んでいるときに、息せき切って、秘書と思われるオバサンが経理部にとびこんでくる。
「こちらにいらっしゃったのですね。奥様。ご主人が体操心配されておりまして、今日、ご退院のはずではなかったのでしょうか?」
「あの……、あなた誰?」
あ!オバサンはバツが悪そうにしている。たぶん、美織の記憶喪失のことを知っているのだろう。
「あ、私、社長秘書をしております鬼塚麻衣子と申しまして、社長が本日、奥様が退院されるということで、病院の方へ行かれましたが、奥様は退院していらっしゃって、会社に出社されているという連絡を社長にさせていただきました。まもなく、社長もこちらの方へ参られるかと思いますので、できましたら社長室へご移動願えないでしょうか?」
「どうして?」
秘書とこんなやり取りをしていても、経理部員は当然という顔をしているから、部員にとっては、社長と結婚しているということは、周知の事実みたい。でも、美織は納得していないから、ささやかな抵抗をしている。
「ですから、社長室へお越しください。お願いします。」
鬼塚さんに頭を下げられたら、仕方がない。この人の仕事なのだろうから、渋々、仕事を後回しにして、社長室に向かう。
エレベーターを役員室のフロアに設定ボタンを押し、降りようとした途端、強烈なめまいと頭痛に襲われ、その場に倒れ込み、意識を失ってしまう。
「奥様!大乗ですか?……誰か!助けて!」
気が付けば、見知らぬ……ベッドの上に寝かされている。
「ここは……どこ?」
女子社員の制服のまま、寝かされているから会社の中にこんなお部屋があったとは、知らなかった。
ゆっくりと起き上がり、あたりを見回すと、どう見ても、ここは会社ではないことがわかる。
おそらく、ここは社長が済まれている部屋なのだろうと察する。
靴を履き、部屋を出て、ビックリする。どう見ても、誰かのマンションの一室という造りになっていて、一つの部屋が大きいうえに、2人分で過ごしていたかと思えるような冷蔵庫の中。
社長ともう一人は、冷蔵庫の中身からすると、認めたくないが、自分がここに住んでいたと思うような使い方をしている。
お礼に、晩御飯の支度でもしてから帰ることにする。シチュー用の肉が買ってあったので、カレーライスを作る。ご飯は、7時ごろに炊き上がるように、タイマーセットしてから、家を出るようにしておく。
制服のまま、電車に乗るのは、いくら何でも恥ずかしい。どこからなのかもわからないから、タクシーを利用するにも勇気がいる。
社長夫人とは、思えないほど慎ましい。これが美織の本来の性格で、贅沢なことなんて、頼まれてもできないから、しょうがない。あくまでも、庶民感覚がある。
クローゼットの中から、自分のものだと思われる洋服に着替えて、制服は、紙袋に入れる。よく見ると、クローゼットの中には、高そうな洋服が並んでいる。もし、本当に結婚していたと知ても絶対に自分では、買わないようなブランドものばかりだから、余計信じられなくなっている。制服は持ち帰ることにして、カギをどうしようかと、鬼塚さんに連絡して、カギをかけてもらえるように頼めばいいことに気が付く。
窓の戸締りを、と思って近づくと、ここは相当な高層階であることに気づかされてしまう。
うっひゃー!こんな高い所、堕ちたら死ぬわ。洗濯物はどこへ干していたのやら?
興味はあるが、本当に自分が住んでいたかもどうかわからないところで、空き巣のように物色するのも、おかしな話だから、そこそこにして、水屋の引き出しの中にあった現金入りの封筒から、1万円札をお借りして、家に帰ることにする。
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