ワンナイトラブから玉の輿婚へ 結婚してから始まる恋愛

青の雀

文字の大きさ
上 下
21 / 41
オフィスラブ

21.出社

しおりを挟む
 とりあえず美織は、フラッグが付いているものから読むことにする。

 そのほとんどが、美織が怪我をしたことについてだったので、もう読むことを辞めてしまおうか?と悩んでいるときに、息せき切って、秘書と思われるオバサンが経理部にとびこんでくる。

 「こちらにいらっしゃったのですね。奥様。ご主人が体操心配されておりまして、今日、ご退院のはずではなかったのでしょうか?」

 「あの……、あなた誰?」

 あ!オバサンはバツが悪そうにしている。たぶん、美織の記憶喪失のことを知っているのだろう。

 「あ、私、社長秘書をしております鬼塚麻衣子と申しまして、社長が本日、奥様が退院されるということで、病院の方へ行かれましたが、奥様は退院していらっしゃって、会社に出社されているという連絡を社長にさせていただきました。まもなく、社長もこちらの方へ参られるかと思いますので、できましたら社長室へご移動願えないでしょうか?」

 「どうして?」

 秘書とこんなやり取りをしていても、経理部員は当然という顔をしているから、部員にとっては、社長と結婚しているということは、周知の事実みたい。でも、美織は納得していないから、ささやかな抵抗をしている。

 「ですから、社長室へお越しください。お願いします。」

 鬼塚さんに頭を下げられたら、仕方がない。この人の仕事なのだろうから、渋々、仕事を後回しにして、社長室に向かう。

 エレベーターを役員室のフロアに設定ボタンを押し、降りようとした途端、強烈なめまいと頭痛に襲われ、その場に倒れ込み、意識を失ってしまう。

 「奥様!大乗ですか?……誰か!助けて!」

 気が付けば、見知らぬ……ベッドの上に寝かされている。

 「ここは……どこ?」

 女子社員の制服のまま、寝かされているから会社の中にこんなお部屋があったとは、知らなかった。

 ゆっくりと起き上がり、あたりを見回すと、どう見ても、ここは会社ではないことがわかる。

 おそらく、ここは社長が済まれている部屋なのだろうと察する。

 靴を履き、部屋を出て、ビックリする。どう見ても、誰かのマンションの一室という造りになっていて、一つの部屋が大きいうえに、2人分で過ごしていたかと思えるような冷蔵庫の中。

 社長ともう一人は、冷蔵庫の中身からすると、認めたくないが、自分がここに住んでいたと思うような使い方をしている。

 お礼に、晩御飯の支度でもしてから帰ることにする。シチュー用の肉が買ってあったので、カレーライスを作る。ご飯は、7時ごろに炊き上がるように、タイマーセットしてから、家を出るようにしておく。

 制服のまま、電車に乗るのは、いくら何でも恥ずかしい。どこからなのかもわからないから、タクシーを利用するにも勇気がいる。

 社長夫人とは、思えないほど慎ましい。これが美織の本来の性格で、贅沢なことなんて、頼まれてもできないから、しょうがない。あくまでも、庶民感覚がある。

 クローゼットの中から、自分のものだと思われる洋服に着替えて、制服は、紙袋に入れる。よく見ると、クローゼットの中には、高そうな洋服が並んでいる。もし、本当に結婚していたと知ても絶対に自分では、買わないようなブランドものばかりだから、余計信じられなくなっている。制服は持ち帰ることにして、カギをどうしようかと、鬼塚さんに連絡して、カギをかけてもらえるように頼めばいいことに気が付く。

窓の戸締りを、と思って近づくと、ここは相当な高層階であることに気づかされてしまう。

 うっひゃー!こんな高い所、堕ちたら死ぬわ。洗濯物はどこへ干していたのやら?

 興味はあるが、本当に自分が住んでいたかもどうかわからないところで、空き巣のように物色するのも、おかしな話だから、そこそこにして、水屋の引き出しの中にあった現金入りの封筒から、1万円札をお借りして、家に帰ることにする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

処理中です...