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オフィスラブ
11.それぞれの道
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会社近くのカフェで、松川と同期が密談をしている。
「それって、私も美容部員に飛ばされるってことだよね?」
「そうよ。会社ぐるみで、多摩川部長の結婚相手を秘匿しているということは、取引先の御曹司という可能性もあるわね。」
「ひぃっっ!ヤバイ。これ、すっごいヤバイ。今日さ、同僚と給湯室でおしゃべりしているところを聞かれたかもしれないのよ。同僚が、見栄でカルティエのエンゲージリングを買って、それをわざわざこれ見よがしに嵌めていたって。どうしよう……ヤバイよね。」
「明日にでも、すぐ謝ったら?」
「それだけじゃないのよ。相手の男のことをデブハゲ呼ばわりまでして。」
「うわっ!取引先の御曹司のことを?松川、アンタ、美容部員どころじゃないわよ。下手したらクビね。」
「え!どうしよう。これじゃ、彼氏に捨てられるわ。クリスタル化粧品で働いているから、付き合っているって、前に言われたもん。」
「ウチの会社、容姿端麗で親元がしっかりしていないと入社できないイメージがあるからね。言うなりゃ、花嫁学校、もとい花嫁養成会社と言われている由縁ね。自分から辞表出せば?」
「そんなことできるわけがないわ。どうしよう……。元はと言えば、村上課長がしつこく多摩川部長のことをナンパしようとしたからなのよ。すべて、村上のせいだわ。」
「うん。でも村上課長って、いいセン言っているような気がしていたけど、今ではフられて、それから社長にまで煙たがられているってことだから、もう出世の見込みも断ち切られたようなものよ。」
「そうよね。どこかいい転職先探そうかしら。」
「美容部員の仕事は、どう見ても、松川には無理そうだもんね。」
「デスクワークしかしたことがないもの。とてもできそうにないわ。」
翌朝、松川に辞令が下りた。松川はそれを蹴って、依願退職し、実家に帰っていったと聞く。
女の子の場合は、いいわよね、実家に帰るって選択肢ができるけど、村上君はどうするのかな?地方の営業所でも、管理部門はない。まあ、あると言えばあるけど、どちらかと言えば、営業事務的な仕事しかないから、せっかく本社で課長になったのに、イチから営業するというのもね。もったいないけど、社長の逆鱗に触れたのだから仕方がない。
「多摩川、何とかとりなししてくれないか?そりゃ、美織ちゃんをしつこく誘ったことは悪かったよ。でもそれは、美織ちゃんが魅力的だったからで、悪気はなかったんだから。」
「それで?」
「山形になんて、行きたくないよ。頼むからさ。本社の営業部でも頑張るし、もう決して、美織ちゃんを追いかけるような真似はしないから、上層部にとりなしてもらえないかな?」
「悪いけど、それはできないわ。私にそもそもそんな力がないもの。」
{そう。私もタダの契約妻だからね。}
「美織ちゃん、頼むよ。もう、俺、他に頼めるところがないんだよ。」
他の経理部の部員から白い目で見られようとも、必死にとりなしを頼んでくる。
それより、キャッシュフローはどうしたの?と聞きたいぐらいだ。
仕方なく、社長にメールを1本送って、反応を待つ。
「村上君、ちょっと来てくれる。」
憔悴しきった顔で、部長席まで来る。
「山形がダメなら、どこがいいの?埼玉か茨城あたりなら、いい?」
パァッと表情が明るくなると、村上は、美織の手を握りしめて、ありがとうを繰り返す。
単に、山形へ行くのがイヤだっただけか……。
結局、村上は、埼玉の営業所へ転勤になることで了承し、送別会が行われることになった。
その送別会には、松川の姿もあり、美織は、松川から正式に謝罪を受け取ったのだ。
「部長すみませんでした。私、部長のことをあこがれていて、でも部長の陰口を言ったことは……申し訳なくて。でも、ご結婚おめでとうございます。私も実家へ帰り、部長みたいに職業会計人の道を目指します。別に結婚を焦らなくても、手に職があれば生きていけますものね。」
ん?まだ、偽装結婚と疑われている?どうでもいいけど。
「それって、私も美容部員に飛ばされるってことだよね?」
「そうよ。会社ぐるみで、多摩川部長の結婚相手を秘匿しているということは、取引先の御曹司という可能性もあるわね。」
「ひぃっっ!ヤバイ。これ、すっごいヤバイ。今日さ、同僚と給湯室でおしゃべりしているところを聞かれたかもしれないのよ。同僚が、見栄でカルティエのエンゲージリングを買って、それをわざわざこれ見よがしに嵌めていたって。どうしよう……ヤバイよね。」
「明日にでも、すぐ謝ったら?」
「それだけじゃないのよ。相手の男のことをデブハゲ呼ばわりまでして。」
「うわっ!取引先の御曹司のことを?松川、アンタ、美容部員どころじゃないわよ。下手したらクビね。」
「え!どうしよう。これじゃ、彼氏に捨てられるわ。クリスタル化粧品で働いているから、付き合っているって、前に言われたもん。」
「ウチの会社、容姿端麗で親元がしっかりしていないと入社できないイメージがあるからね。言うなりゃ、花嫁学校、もとい花嫁養成会社と言われている由縁ね。自分から辞表出せば?」
「そんなことできるわけがないわ。どうしよう……。元はと言えば、村上課長がしつこく多摩川部長のことをナンパしようとしたからなのよ。すべて、村上のせいだわ。」
「うん。でも村上課長って、いいセン言っているような気がしていたけど、今ではフられて、それから社長にまで煙たがられているってことだから、もう出世の見込みも断ち切られたようなものよ。」
「そうよね。どこかいい転職先探そうかしら。」
「美容部員の仕事は、どう見ても、松川には無理そうだもんね。」
「デスクワークしかしたことがないもの。とてもできそうにないわ。」
翌朝、松川に辞令が下りた。松川はそれを蹴って、依願退職し、実家に帰っていったと聞く。
女の子の場合は、いいわよね、実家に帰るって選択肢ができるけど、村上君はどうするのかな?地方の営業所でも、管理部門はない。まあ、あると言えばあるけど、どちらかと言えば、営業事務的な仕事しかないから、せっかく本社で課長になったのに、イチから営業するというのもね。もったいないけど、社長の逆鱗に触れたのだから仕方がない。
「多摩川、何とかとりなししてくれないか?そりゃ、美織ちゃんをしつこく誘ったことは悪かったよ。でもそれは、美織ちゃんが魅力的だったからで、悪気はなかったんだから。」
「それで?」
「山形になんて、行きたくないよ。頼むからさ。本社の営業部でも頑張るし、もう決して、美織ちゃんを追いかけるような真似はしないから、上層部にとりなしてもらえないかな?」
「悪いけど、それはできないわ。私にそもそもそんな力がないもの。」
{そう。私もタダの契約妻だからね。}
「美織ちゃん、頼むよ。もう、俺、他に頼めるところがないんだよ。」
他の経理部の部員から白い目で見られようとも、必死にとりなしを頼んでくる。
それより、キャッシュフローはどうしたの?と聞きたいぐらいだ。
仕方なく、社長にメールを1本送って、反応を待つ。
「村上君、ちょっと来てくれる。」
憔悴しきった顔で、部長席まで来る。
「山形がダメなら、どこがいいの?埼玉か茨城あたりなら、いい?」
パァッと表情が明るくなると、村上は、美織の手を握りしめて、ありがとうを繰り返す。
単に、山形へ行くのがイヤだっただけか……。
結局、村上は、埼玉の営業所へ転勤になることで了承し、送別会が行われることになった。
その送別会には、松川の姿もあり、美織は、松川から正式に謝罪を受け取ったのだ。
「部長すみませんでした。私、部長のことをあこがれていて、でも部長の陰口を言ったことは……申し訳なくて。でも、ご結婚おめでとうございます。私も実家へ帰り、部長みたいに職業会計人の道を目指します。別に結婚を焦らなくても、手に職があれば生きていけますものね。」
ん?まだ、偽装結婚と疑われている?どうでもいいけど。
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